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鈴木 俊哉

小野という目立たない生徒が、庭野を殴ったという噂を聞いた。話したこともないからどんなやつかは知らないが、そんなことをするやつとは思わなかった。


「庭野のことを殴ったか~」

俺も気持ち的には2、3発くらいは殴ってやりたいと思った。千春のために……千春がそれを望んでいないから止めたけど、千春が望んでいたらやっていたのは俺だったかもしれない。


小野が庭野を殴った理由も、千春が関係していたらしい。小野も千春に好意を抱いていたようだ。いつからか知らないけど俺の方がずっと前から好きだし、付き合いも長い。


屋上で千春が大声で叫んでいた日、小野もその現場を目撃していたらしく、何であんなことをしているのかずっとモヤモヤしていたという。


「何で、今?」

千春が屋上で叫んでいたのはもう2ヶ月も前だというのに。千春ももう失恋から立ち直ったようですっかり元気だし、小野が庭野を殴る必要はもうない気がするが。むしろ、小野が戦うべき相手はこの俺だ。千春を思う気持ち、負ける気がしない。


そう、疑問に思っていたが、どうやら、小野はやっと千春が屋上で叫んでいた理由を知ったらしい。あの時 千春は泣いてないなかったような気がするが、小野には泣いているように見えたようで、 それが許せなかったと。


そんなことを1人、屋上で考えていると千春が嬉しそうにこちらに向かってくる。笑顔でスキップをしている。この姿がまた可愛いこと可愛いこと。この姿を録画しておきたい。


笑顔でスキップなんてよほどいいことがあったな千春。好きなアーティストのライブのチケットが手に入ったのか?出来の悪いと思っていた日本史のテストで、100点を取れたのか?今日の夕飯がカレーライスなのか?

そう、千春は昔から嬉しいことがあると真っ先に俺に伝えてきた。


「ねえ、としや……サンタさんがね、お人形さんをくれたの。私ががんばっているからって」

サンタクロースがプレゼントを届けてくれたといって新品の人形をその日のうちに見せに来たり、


「としや、タジーが生き返った、生き返ったよ」

死んだと思われていたトゲトゲ頭のアニメのキャラクターが突如 復活したときはそのキャラクターのフィギュアを使ってトゲトゲ頭突きという謎の攻撃を仕掛けてきた。


「懐かしいな~」

昔から変わってない。千春は正直者だから嬉しいときはその嬉しさを精一杯に表現する。


「俊哉、やっぱりここにいた」


「どうした?やけに上機嫌じゃないか?」


「分かる?さすが俊哉 聞きたい?」


「うん……」

聞きたい?じゃなくて言いたいんじゃないの?

千春が落ち込んでいるよりかは上機嫌の方がいいけど。


「私、告白されました~~!!」


「えっ?」

えっいつ?えっどこで?えっ誰に?えっ返事は?

聞きたいことがたくさんある。

待って、俺はどうすればいいんだこの場合?

そんな~いや俺は嬉しい……?嬉しくない……?

冷静になれ、冷静になるんだ俺……


一辺に色々なことを考えてしまい脳内は処理が追い付いていない。優秀なプログラマーを早く連れてきてほしい。


「3組に、小野君っているでしょ?」

「その子に呼び出されて、告白された。昼休みにこの場所で」


「小野か?いや小野め~~!」

「このいざこざにまぎれて勢いで告白しやがったな~しかもこの場所でだと~」

情けない。自分がびびって告白できなかったくせに心の中で小野のことを悪く言っている。


「でも、千春、小野だよ~?小野に告白されて喜ぶ~?」

小野はピーマンの肉詰めではない、ほうれん草のおひたしレベルだ。30位とかじゃない。圏外だ。名前すら出てくるか怪しいくらいのレベル。


「あ、そうなんだ小野が……」

「で、返事はしたの?」

落ち着け俺、あくまで幼馴染みとして話をするんだ、焦りを見せたらいけない。


「悩んでる、どうしようかなって思って」

「小野君と話したこともないし、顔もあんまし覚えてなかったから告白されたのはビックリしたな~好きとか嫌いとか意識したこともなかったから」

よかった。千春は小野のことを全く意識してなかった。それもそうか、千春には庭野しか見えてなかったんだもんな。


「今は好きではないけど、小野くんはさ、私のこと好きだっていってくれてるからOKしてもいいのかなって思っている」

「付き合ってみたらいいところも見えてくるだろうし、好きになるかもしれない。みんながみんな両思いで付き合うわけじゃないでしょ?」


「やばい、まずい……」

「これなら庭野と、千春が好きだっていう人とくっついて欲しかった。今は好きではないけどってわかんねーよ、それじゃあ納得できないよ」

そう思いながらも心のどこかで小野と庭野という人間を比べて差別していた自分がいる。好きだった女優がイケメン俳優と噂になるのと顔の分からない一般男性と噂になるのを比べるのと似ている。


「そうか、そうなんだな……」

そっけない返事をすると、それに反応したのか千春が、俺のことを指でつついて言う。


「どうしたの?あ、私が先に彼氏が出来そうだから悔しいんでしょう?」

この可愛さがもう少しで小野のものになってしまうのか……このまま俺は、気持ちを伝えないままでいいのか?


「俊哉はどう思う?」

「幼馴染みとして意見が聞きたいな?」

どうして俺に聞く……?いや、これは俺が貰えた最後のラストチャンスか?

思いを伝えるなら今だと神様が言ってくれてるのか?


「神様、ならもう1回だけ奇跡を下さい」

「告白できるチャンスを俺に……」


「分かった……幼馴染みとして俺1人が決めてしまうと、何かあったときに責任とれないし……」

「そうだ、神様に決めてもらおう……」

俺は、空を指差して、いるかいないか分からない神様に言った。その神様は男だろうか、女だろうか。


「俺とお前で、じゃんけんをしよう……」

「勝負は1回。お前が勝ったら小野の告白を受けるも受けないも好きにすればいい。ただ、俺が勝ったら、俺から1つ お前に言いたいことがある。それを聞いてから判断してほしい」

告白をするぞと予告しているような発言になっているが、千春のことだ、多分 気づいていない。


「それ、あいこだったらどうするの?」


「あいこ……」

「そん時は、俺に……焼きそば奢れ……!」

「心配しなくてもこの勝負はどちらかが勝って終わる。それが俺とお前だよ」


「まあ、そうだね」

「じゃあ、いくぞ」

「最初はグー。じゃんけん ポン!」

俺の掛け声で、俺と千春は手を出した。


結果から言ってしまえば、俺の勝ち……

俺は、チョキを出したというのに……


「えっ?どうして?」

千春はじゃんけんの1回目は、必ず グーを出すのに。今回もそうだと思って、わざとチョキを出した。


「あ~~俊哉の勝ちだね……ははははっ」

「昔から本当に変わっていない。俊哉は昔からじゃんけんの時はチョキしか出さないもんね。だから私は今日は、パーにした」

気づいていたのか……俺がチョキしか出さないんじゃなくてお前がグーしか出さないからだろ……


「奇跡?が起きたのかな?」

「これは自分の思いを伝えなきゃいけないな」


「千春……好きだ……」

結局俺は、運がいいのか悪いのか?

俺の渾身の告白のタイミングで、強めの風が吹いて俺の声がかき消される。恋愛ドラマを見習って、恥ずかしいけど大きめの声で言ったのに。


「えっ、何?」

「聞こえなかった。もう1度言って!」

本当に聞こえていなかったのか……

千春は顔を赤くして言った。


「もう1度?仕方ないな~~もう1度だけ、特別に言ってやる」


今度は千春にだけ聞こえるようにぐっと千春に近づいて千春の耳元で囁いた。

「千春……好きだ……」


静かな屋上で、かすかに聞こえてくるは、吹奏楽部が演奏している、誰もが1度は耳にしたことがあるだろう定番のラブソングだった。

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