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鈴木 俊哉

伊藤くるみさん

彼女は中学生から有名だった。彼女に恋の相談をするとその恋は叶うと……だから彼女のことを恋のキューピットくるみと呼んでいる人もいた。その噂の真偽は分からないが、村山が堂山さんと付き合えるようになったのは彼女に相談し、彼女にアドバイスをもらったからだという。


伊藤さんは、千春とも仲がいいし、優しそうで秘密を簡単には他人にはバラさなそうに見えるから安心して相談ができそう。


「い、伊藤さん……き、今日の放課後空いてます?話があるんだけど、よかったら理科室に来てくれませんか?」

伊藤さんとは中学校の頃から一緒だけど、あまり話したことがなく、緊張してしまい つい敬語になってしまった。


「大丈夫だよ、理科室でいいの?」

断られたらどうしようという俺の不安は無駄だったのうに、すんなりと嫌な顔をせずにそう言ってくれた。そういう所が相談役に抜擢される理由の1つだろう。伊藤さんは顔もそこそこ可愛いのに彼氏がいないのが不思議なくらいだ。


「あ、ごめんなさい。伊藤さんの方が先に来てくれてたんだ。俺の方がお願いがあったのに」

放課後、先生の頼まれごとが思ったよりも時間がかかり、理科室へ行くのが遅くなってしまった。結果的に伊藤さんを待たせることになった。時間は言わず放課後とだけ言ったからこれは遅刻ではないのだろうけど、何だか申し訳ない。


「大丈夫、私もさっき来たところだから」

出来る男は、待ったことを相手に嫌みったらしく言わない。例え1時間待ったとしても今来たところの一言で平和的な解決が出来る。伊藤さんは女だけど。これは女にだって通ずるものだろう。


「話があるって何?」


「い、伊藤さん、あの、そっ、相談があるんですけど、恋愛の相談が、聞いてもらえますか?」

恋愛の相談を誰かに話すのは初めてで恥ずかしくて緊張して 、告白ではないというのに、言葉がスラスラと出てこなかった。ちゃんと言葉の意味は伊藤さんに伝わったかな?はっきりと聞こえている自信はない。


「相談……?全然いいよぉ」

「あと、敬語じゃなくて大丈夫だよ」


「あ、よかった。ありがとう」

そっか……相手は同級生だった。無意識のうちに先輩に話すような敬語を使っていた。


「実は、千春のことが好きなんだ」

「千春とは幼なじみで、小学生の頃は友だちとして好きだったんだけど、中学生になってから異性として千春のことが好きだって気づいた」

このことを女子に話すのは初めてだ。男友だちに話すのとは訳が違う。


「でも、千春はおそらく庭野のことが好きなんだと思う。俺はどうすればいいんだろう?」


「そうだね~今は慌てないことが大切だと思う」

「相手に~好きな人がいる場合は焦ってはいけない。だって、庭野君が千春のこと 好きとは限らないじゃん」

慌てない、俺には今すぐに告白する勇気はないよ。


「そうか、慌てないことか~」

「さすが伊藤さん、やっぱり女子の意見て参考になる~。男に聞いてもまともな回答返ってこなかったし。尾崎とか、わら人形で呪い殺せとか言うし、岸も壁ドン最強とか意味の分からないこと言って、全然アドバイスになってないし」

尾崎も岸も冗談で言うだけで真剣にアドバイスはしてくれてない。2人とも彼女はいないおろか告白をしたこともされたこともない恋愛初心者だから無理もない。


「逆に女の子は男の子の意見を知りたいよ~」

「男の子は女の子のどんな仕草を可愛いと思うのか、どのような子を好きになるとかぁ」

どうだっけ?俺は千春のどんな仕草が好きなんだっけ?思い浮かばない。俺は千春っていう存在が好きだから、人目に憚らず大きな欠伸をする千春も好きだし、頬を膨らませて怒っていることを表現する千春のこともきっと好きだ。それは仕草が好きというよりかは、ただただ千春が好きなだけだ。


「おおっ……もしかして伊藤さんも好きな人がいるの?振り向いてもらいたい相手がいるの?」

明確な答えが出そうになかったので、話を反らす目的で言った。伊藤さんも好きな人は1人くらいはいるだろう。もしかして、伊藤さんも庭野のことが好きだったりして……


「何だよ庭野……ちくしょーが~」

「どうしてそんなにカッコいいんだよ?少しは欠陥してろって!運動がまったくできないとか実は性格がすごい悪いとか」


「えっ?いやぁ、気になっているってレベルなだけで、好きとかでは……」

伊藤さんは分かりやすい反応をする。これは間違いなく好きな人がいるな。


「そうか~~伊藤さんの恋も~叶うといいね」

伊藤さんの魅力に気づかない男なんて残念なやつだな~よく笑う可愛い子で、優しい話し方で相談にも真剣に聞いてくれる。俺はこんな素敵な子は他に1人しか知らない。

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