島津家と戦うことになった件について
お待たせ致しました。第一次関ヶ原の戦い編完結です。
「豊臣家を潰す? どうゆうことじゃ?」
その場に居た武将たちは義氏の言葉を聞き呆然としていたが、秀吉様は冷静に義氏にそう聞き返した。
「そのままの意味です、その奥州の若造を渡さなければ、今すぐにでもこの大坂城に攻め込み、豊臣家を滅ぼします」
義氏は秀吉様と同じように冷静にそう答える。
「なるほどな……上田の姫君がそれ程までにこいつを欲しがるということは、こいつにはそれだけの価値があるということか」
秀吉様はニヤリと笑いながら義氏を見る。
「それを答える必要はないです」
義氏は秀吉様を睨みつける。
「わしにとっては必要なことじゃよ、こいつに価値があるならわしにも考えがあるのじゃ」
秀吉様も義氏を睨み返す。
この場に居た全ての武将たちは後に二人の会話をただ見守ることしか出来なかったと話している。しかし、それは大名と大大名の重臣の会話に入る隙がないとかではなく、この二人が自分たちとは違う世界に居ると改めて思い知ったからである。
「はぁ……ごちゃごちゃうるさい猿だなぁ……」
義氏はため息をつき、立ち上がり、秀吉様の前に近づき、目の前に高圧的に立った。
「こいつを姫に渡さないなら、豊臣を潰す、ただそれだけだ」
「渡すのは構わない、が、ただで渡すわけにはいかないと言ってるのじゃよ」
秀吉様も立ち上がり、義氏の前に立った。
「見返り? 豊臣家を潰さないのがその見返りだが?」
「それが見返りならわしはこいつを上田に渡すつもりはない」
「なら、豊臣を滅ぼす、それだけだ」
「交渉決裂じゃな、お引き取り願おうか上田の家臣殿」
この場に居た全ての武将たちはただ見守ることしか出来なかったが、ただ一人、未来から豊臣家を勝利に導くためにこの時代にやってきたこの男だけは、この場で見守るだけではない、別の行動をすることが出来た。
「秀吉様、足利殿、その辺でおやめください」
俺は、何を思ったのか自分でも分からないまま、そう言って立ち上がった。
「秋、何をする気だ」
元春を天守閣の後ろに寝かせ、俺の隣に戻ってきていた武吉が立ち上がった俺に小声でそう言い、俺が。
「この場で動けるのは俺しか居ないと思うからな」
と返すと武吉はニヤリと笑った。
「豊臣殿、こやつは誰ですかな」
「……小早川家当主、小早川秀秋殿じゃ」
「小早川……? こやつがあの小早川? 豊臣殿、ご冗談はおやめください」
武吉は義氏の反応を見て焦っているように見えたが、たまたまそう見えただけだろう。
「俺は正真正銘、小早川秀秋だ」
俺がそう名乗ると、義氏は不思議そうに首を日常生活では絶対にありえないぐらい傾げた。
「小早川殿、こちらに来るのじゃ」
秀吉様は俺に自分たちのところに来るように言ってきた。一瞬、躊躇ったが、立ち上がった時点で覚悟は決めていたのを思い出して、返事をしてから、秀吉様の元にゆっくりと向かった。
「小早川家の無能当主如きが……」
「無駄な時間だ」
「所詮はただの大名だ」
「勇気あるなぁ」
「……」
今寝ているやつが居た気がする。
俺が秀吉様の元に向かう途中、ひそひそと他の大名たちが俺の、というか、小早川秀秋のことを見て、何か言っていた。やっぱり評判良くないんだな。ちなみに隆景さんは俺を睨んでいた。ごめんなさい。
「そこに座れ」
秀吉様は自分と義氏から少し離れた場所に座るように言ってきた。
「御意」
俺は素直にそこに膝をついた。
「小早川殿、一大名がこの場で内容は何であれ、ワシの許可なしに口を開く意味が分かっておるか?」
隆景さんの方を見るとあっちゃぁ……と言わんばかりの顔をしていた。
「いや、わ、わからないです」
さっきまでの、さっき、立ち上がってから、ここに来るまでの自信がすーっと徐々に消えて行っているのを感じた。
「じゃろうな」
秀吉様はそう言いながら、ため息を吐いた。
「小早川殿、本来ならば、切腹をしてもらいたいところ、というのは冗談じゃが、責任を取って貰いたいのじゃ」
「秀吉様、恐れながら、言わせて頂きます、どうして秀吉様と義氏殿の喧嘩を止めようとしたのに責任を取らないといけないのか理解できません」
俺は、正体が分からない徐々に大きくなる、この恐怖を押し殺しながらそう言った。
「豊臣殿、ここはいかがだろうか、ひとつ、賭けをしてみないですか?」
義氏はこっちを頑なに見ようとせず、秀吉様の顔だけを見ながらそう言った。
「賭けとな? 賭け事はあまり好まないのじゃが……内容を聞こう」
「きっと豊臣殿も気に入りますよ。小早川殿に豊臣家代表として、九州の島津家を討伐に向かってもらい、当家からもどこかの家を島津家討伐に派遣し、先に島津家当主、島津義久の首を取った者が勝ちで、当家が勝った場合はその奥州の若造を貰う、当家が負けた場合は、そうですね……上田家と豊臣家は正式に同盟を結び、軍事面で豊臣家を全面的に支援する……というのはいかがでしょうか」
義氏のその話を聞いて、その場に居た武将たちはさっきよりも驚いていた。
「あの、上田が豊臣家と同盟だと……?」
「上田と同盟を結べば、豊臣家は安泰だ」
「……!」
さっき寝ていたやつも起きるほど驚きだったようだ。
「殿! お待ちください!」
それまで口を開いていなかった隆景さんが突然大声を出して立ち上がった。
「あなたは、小早川……隆景さんですか、大名でもない、ただの姫は黙っていて頂けますか」
「足利殿、そうはいかない! 私は小早川家の先代の当……」
「黙っていろ! 隆景!」
隆景さんが話をしている途中で秀吉様が当然大声を出して、遮った。
「しかし……」
「黙っていろというのが分からないのか……毛利隆景」
秀吉様がそう言うと、隆景さんはそれまでの勢いはどこに行ったのかと思うほど静かになり、座った。
「殿下、恐れながら、それは今、口にするべき言葉ではないかと」
隆景さんが座ると、今度は武吉が立ち上がった。声はでかくないが、聞く限り怒っているようだった。
「村上殿、そこから一歩でも動けば、どうなるか分かるな」
秀吉様がそう言うと、武吉はゆっくりと座った。
「豊臣殿、小早川家の人間は気性が荒い、うつけが多いですね」
「足利殿、申し訳ない。話を戻そう、さっきの賭けの話じゃが、受けよう」
秀吉様の返事でその場に居た豊臣の臣下たちは静かに頷いていた。
「しかし、条件というか、ワシから提案があるのじゃ」
「なんでしょうか、渡すのは奥州の若造の首だけ……とかは無しですよ」
義氏はそう言いながら、秀吉様を睨んだ。
「そんな提案では無いから安心するのじゃ、小早川殿、豊臣家の代表として義久を討伐に向かうということは、もし、賭けに負けることがあれば、小早川殿に責任を取って頂きたいのじゃ」
「……」
隆景さんは秀吉様のその言葉を聞いた瞬間、口を開こうとしたが、秀吉様が隆景さんの方を見て、無言の圧を送ったので、口を開くのをやめたようだ。
「小早川殿、いかがだろうか?」
秀吉様は俺の方を見ながら、隆景さんと同じように圧を送ってきた。この圧は黙って責任を取ると言えという圧だろう。
「秀吉様、どう責任を取ればいいですか」
戦国時代の責任の取り方といえば、切腹かお取り潰しのどちらかと予想出来るが、考えてみれば、秀吉様に歴史を変えてほしいと頼まれて戦国時代に来たのに、俺に切腹させるだろうか。
「うむ、小早川殿……そなたには、賭けに負けた場合、ワシの豊臣の姓を下賜し、豊臣秀秋と名乗って貰うのじゃ」
秀吉様のその話を聞いた瞬間、その場に居た豊臣臣下たちはさっきの数倍驚き、腰を抜かしたものも居た。武吉も驚き、腰を抜かしていた。隆景さんは膝の上で、力強く両手で拳を作り、静かに怒っている様子だった。
「秋! そんな責任の取……」
「村上殿、口を開くことはあまりおすすめしないのじゃ」
武吉が俺に何かを言おうとしたが、秀吉様はそれを遮った。と、いうかこれって、賭けに勝っても負けても、勝てば豊臣家が上田家の軍事力を手にできて、負けても小早川家は豊臣姓を名乗れるようになる、両勝ちじゃないか。
「この場に居る者は、足利殿と小早川秀秋殿を除いて誰も口を開くことは許さないのじゃ、口を開いた者は切腹、その家は取り潰すのじゃ」
秀吉様は続けてそう言ったが、俺にはどうしてそんなことを言ったのか分からなかった。それより早く責任を取ると言いたい。
「小早川殿、どうじゃ? その責任の取り方で不満はないかのぉ?」
「無いです、その責任の取り方で大丈夫です」
俺は秀吉様の質問に即答した。
「うむ、面白くなってきたのじゃ」
秀吉様は俺の答えに満足したようで、それまでの表情とは違い、ニヤニヤと笑っていた。
「小早川殿、本当にそれでいいのですか? 後から後悔しないですか?」
義氏は初めて俺の方を見ながら、そう質問してきた。
「後悔しないです、俺はその賭けに勝ちます。負ければ責任を取ります」
俺は義氏の目を見ながら、そう宣言した。まぁ、負けても俺的には勝ち……なんだけどな。
「そうですか……ならもう何も言いません、豊臣殿、日時は明後日の早朝で、当家から派遣する家には一度、ここの城に寄るように伝えておきます」
義氏は俺の返事に何か不満があるような顔をしていた。
「うむ、ありがたい、どの家が小早川殿と戦うのかワシも知っておきたいと思っていたのじゃ」
「これで全て決まりましたね、私はこれで失礼します、姫様にもこのことをお伝えしておきたいので」
義氏はそう言うと、立ち上がり、天守閣から出て行った。俺の前を通ったときに小声で何か言っていたが、よく聞こえなかった。
「面白いことになったのぉ……面白いことになったところでこれにて、評定終了じゃ、皆のもの各自の領土に帰って構わないぞ」
義氏が天守閣から出て少しすると、秀吉様もそう言い、ゆっくりと立ち上がり、天守閣を出て行った。その間、武将たちは頭を深々と下げていた。
「秋……」
秀吉様が天守閣から出て行ったのを確認すると、武吉が俺の方を睨みながら、ゆっくりと近づいてきた。
「どうした? 武吉」
俺がそう言うと、武吉は近づくスピードを徐々に上げてきて、俺の胸倉を……。
「小早川……てめえ……まったく」
俺の胸倉をつかんできたのは、武吉ではなく、武吉よりも俺の近くに居た、秀家だった。
「宇喜多殿、どうしたのですか」
「どうしたも……こうしたも、ねえ……てめえは、隆景様が守った小早川家を滅ぼそうとしているのが分からないのか! どうして俺より隆景様の側に居た、見てきた、お前が隆景様が守った小早川家を滅ぼそうとしているんだって言ってるんだよ!」
秀家は息を荒くしながら、そう言い、俺の顔を力強く殴ってきた。
「えっ……」
俺は秀家に殴られた衝撃で、吹っ飛び、壁に身体を強くぶつけた。どうして俺は宇喜多秀家に殴られているのか分からない。
「てめえは、ここで、他にも大名が居る、この場で豊臣秀秋に名を改めることを宣言した、お前は……秀秋は……」
吹っ飛んだ俺の身体の上に秀家は馬乗りになって、そう言いながら、俺の顔を何度も殴ってきたが、その目からは何故か涙が流れていた。
「秀家……どいてくれ、俺にも殴らせてくれ」
「村上殿……」
秀家は武吉に右肩を掴まれ、俺の身体の上から降り、今度は武吉が俺の身体の上に馬乗りになった。
「秋……お前は、俺の守ってきたものを無駄にした、俺はお前を許せない」
そう言いながら、俺の顔を殴ろうと拳を振り下ろす、武吉の顔は酷く辛そうだった。
「武吉! 待って!」
隆景さんのその声を聞くと、武吉は拳を俺の顔に当たる直前で止めた。
「景姉さん……」
武吉は俺の身体から降りた。
「秀家、武吉、もうやめてくれ、これ以上、私の可愛い弟を痛めつけないでくれ……」
「しかし、隆景様、こいつはあなた様が守ってきたものを……」
「秀家の言う通りだ、小早川家が滅亡するんだぞ」
隆景さんの弱々しい言葉に秀家と武吉は力強く返した。
「もういいんだ、私が当主じゃなくなった時に小早川家は滅亡した、そう思えば、なんてことは……ない」
隆景さんはそう言いながら、秀家と武吉の手を握り、目からは大粒の涙を流していた。
「そう……いうことか……」
血を吐き、意識が朦朧とする中、隆景さんの涙を見てようやく俺は気づいた。
「俺は……なんて馬鹿……なんだ」
史実の小早川隆景は、生涯、毛利家の家臣であることにこだわり続けた。それは他でもない、毛利家という家を守るために。それは、理由は分からないが、小早川家が大名になっているこの歴史でも、変わらないということだ。おそらく隆景さんは秀吉様と何らかの取引をして、毛利家の家臣の小早川家としてではなく、大名の小早川家として毛利家守っているんだ。それをその思いを俺は、踏みにじって、豊臣姓が貰えることに興奮して何も考えずに、こんなにも大名が居る前で宣言してしまった。
「隆景さん……すみません」
俺はそう言いながら、意識を失った。
ここは、大坂城、地下深く、大罪人を収監しておく牢獄。
「秀吉様……あの者は私たちに気づくでしょうか」
牢獄の一番奥には、大きな扉があり、鍵がかかっている。この声はその中から聞こえる。
「心配するな、三成、きっと奴はワシたちがここに居ることにいずれ、気づきここに来る……気長に待つとしよう」
豊臣臣下の大名たちの間では、その牢獄には豊臣家に対して大罪を犯した、老人と若い男が収監されていると言われている。が、あくまでも噂の話である。
時を同じくして上田家領土、川中島。
河川を挟んで、二つの家が陣を敷いている。
「ほぉ、九州の島津家か、これは楽しくなりそうだな、ははは」
四つ菱の陣の中には軍配を持った男が笑いながら、そう言い。
「島津家はつまんない家……でもあいつと一緒に戦えるなら島津家も楽しい」
毘の一文字が書かれた陣の中には、そう言いながら、刀を構える美しい女が不気味に笑う。
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今回の話で第一次関ヶ原の戦い編完結です。
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次回からは、九州討伐編に突入致します、果たして賭けの勝者は、豊臣家か上田家かお楽しみに。
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