⑪―8
「もう少しだったのに……」
「問題ない。次で倒せる」
急いでポケットから財布を出し、コンティニューしようとする。
しかし、ここでまさかと大失態。
「……マジかよ」
百円玉がない。
「なぜさっき気付かなかった」
ネットカフェの料金が六千二百四十円だったから、おつりは三千七百六十円。
初回プレイで二百円使ったから、財布の中に百円玉はゼロ。
中学時代の俺なら決してやらなかったであろう凡ミス。
「すまん、百円玉に両替してくるから待ってろ!」
両替機の位置はフロアのエスカレーター付近。先客がいない限り、ダッシュすれば間に合うはずだ。
金ぴかの五百円玉を拳に握り、椅子から立ち上がったのだが、その場を離れようとするところをメメメに止められてた。
「ダメ、行かないで!」
俺の手首を強く掴んで離さない。
「心配するな。今度は一瞬で戻ってくるから」
「無理無理無理っ! だって……」
いつの間にか復活したギャラリーたちをちらりと見てメメメが言った。
「でも」
「オニーチャン」
その時、背後で応援していたリトルグレイジュニア達が手のひらにある百円玉を俺に差し出した。
「……貸してくれるのか?」
「ウウン、アゲル」
「ダッテラスボスヲタオストコロヲミタインダモン」
まさか宇宙人、じゃなくて子どもからお金を渡されるとは……
「……いやもらうのは悪いから後で返すよ。貸してくれるか?」
「ウン!」
「ウン!」
ありがたく百円玉二枚を受け取ろうとした時、俺の身体をぐいと押しのけ、メメメがリトルグレイジュニアの前に立った。
そして真正面から二人を見る。
二人もまたメメメを見ていた。
重なり合う視線。
しかしメメメが怖がる様子はなかった。
「……どうして他人の私たちのためにお金くれるの?」
メメメに尋ねられ、二人は顔を見合わせた。
「ダッテ……」
「オネーチャン、カッコイイカラ」
「ウン、カッコイイ」
「オネーチャン、ダイスキ」
「……大好き?」
「ウン、ダイスキ」
「……大好き」
その言葉について思いを巡らせるようにメメメが俯く。
他人の善意というものに初めて触れた、という感じか?
……これ、立場が逆だったら宇宙人と人間のファーストコンタクトの場面にふさわしいんだろうけどね。
「ウン、ダイスキダカラアゲル」
「……」
メメメは無言のまま、すっと背中を向け二人の前から離れた。
席に戻ったその姿に先ほどのような怯えは見られない。
むしろ気迫すら伝わってくる。
「……メメメ、別に無理に期待に応えようとしなくても」
再度声をかけたが、途中で画面のコンティニューカウントが目に入った。やばい、すでに15を切っている。
「ハヤクシタホウガイイ!」
「……悪い、じゃあ借りるぞ」
メメメが心配だったが、ひとまずリトルグレイジュニアからに百円玉を受け取り、替わりに五百円玉を渡して席に着く。
横を向くとメメメは手術前の医者のように指の運動をしていた。
「直里」
「……ん?」
「……勝ちたい」
「……分かったよ」
とりあえず話は後。先にラスボスの方を片付けないとな。
ということでコインを再投入し、再チャレンジ。
カウントが消え、青色マッチョが動き出す。
敵はまだノーダメージだ。
しかし案ずることはない。攻略法ならすでにある。
「メメメ、行くぞ」
「うん、ぶっ殺す♪」
そして二度目のラストバトルが幕を開けた。




