⑫ 寮に帰ってきた俺はまさかの……
「あーごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
タクシーの後部座席で握りしめたスマホにテレパシーを送るように念じまくっている俺。
「すぴー」
その傍らでメメメは幸せそうな顔で眠っていた。
「……今の状況でなぜスヤスヤできるんだ?」
気が付けば数十秒ごとに運転席の時計に目を向けていた。
時刻は八時過ぎ。夕日はほぼ没し、辺りはとうに暗い。
あーコココさん怒ってるだろうな。
帰りの電車の中で何度か弁解のメールは送ったのだが、いまだに返信はない。
そのため、俺の中の恐怖は膨張し続ける一方だ。
「……でも」
俺はスマホを起動して一枚の画像をクリックする。
それはTODを全クリした時の記念撮影の写真だ。
笑顔でピースサインをする二人の子どもと、間に挟まれ恥ずかしそうに俯いているメメメ。
せがまれて仕方なしと言った感じで撮影し、それきり逃げるように店を飛び出してしまったけれど。
他人と接触するのが怖いメメメが、わずかな瞬間でもこうやって誰かと一枚の写真に収まった。
大進歩と言っても過言ではないと思う。
「この写真を見たらコココさんもきっと喜んでくれるよな」
そうこうしているうちにタクシーは見慣れた坂を上り、港高の校門を通り過ぎて、寮の前へ停車した。
メメメを揺り起こし、車を降りる。
「……ンっ」
つやっぽい声を出して、大きく伸びをするメメメ。
夜の男子寮に女子を連れてくるというのはなんだか悪事を働いているみたいでドキドキする。
一応、他の男子に見つからないようにしないとな。
決してやつらが想像するような甘酸っぱい流れではないが、かといってばったり出くわしたら言い訳の仕様がない。
しかもメメメは校内ではちょっとした有名人だしな。
「そういえば青野さんがいるんだったよな……」
いや、でもさすがにこの時間だから自分の家に帰ってるか。
そんなことを思いつつ、周囲に人がいないか注意しながら音をたてずに玄関に入ったのだが。
ここでまさかのKY小学生が寮の奥に向かって叫んだ。
「ただいまー」
「ばっ馬鹿ッ!」
「むぐっ、」
メメメの口を押えた時、すぐさま上の方でドアがいくつも開く音がした。
(今、声がしなかったか!?)
(ああ、女の声だった)
(下の方から聞こえたぞ)
運動部のやつらだ。
「ほら、見つかる前にさっさと行くぞ」
「う、うん」
廊下を歩く複数の足音が一階に降りてくる前に、コココさんのいる管理室に入る。
玄関からすぐの位置にあるので問題はなかったのだが。
ドアを閉めた瞬間、キッチンと居間を繋ぐドアが勢いよく開かれ、そこに現れたコココさんが物凄い勢いで駆け寄ってきた。
「直里ォォォォッ!」
「はっ、はいいいいっ!」
こ、殺される……
鬼気迫る表情とはこの時のコココさんのことを言うのだろう。
いつもと数倍の威力の脳天チョップを食らうことを覚悟していたその時、
コココさんは俺をくるりと反転させ、メメメごと外へと押し出そうとした。
「ええっ、ちょっ、何すか!?」
(作戦失敗だ)
「さ、作戦?」
(とりあえあず今は出て行ってくれ)
周囲に聞かれたくない事情でもあるのだろうか。
囁くような小声で話しかけてきた。
「ンなこと言われても外は運動部の連中が……」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
(後で説明する! だから今のところは)
「あっ、真也君♪」
俺たちがわちゃわちゃしている間にガラッとドアを開け、青野さんが顔を出した。
「お邪魔してます」
「別に俺の部屋じゃないけど」
「そこにいるのが寮母さんの妹さんね。こんばんは」
「……んは」
メメメがぺこりと頭を下げる。初対面の相手に挨拶できるなんて、やはり対人恐怖症が改善されてきた証拠か。良いことだけど、でもなぜその後俺の背中に隠れる?




