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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第四話「正義狼」
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平尾拓海

 狼班に新人がやって来ると言う。


――平尾拓海(ひらおたくみ)


 と言い、交番勤務から抜擢され、狼班に配属となった。

「何故、うちなんかに?」と武藤班長に聞くと、「ただでさえ人員不足だし、満月の夜になると、お前が使えないからな」と答えた。

 確かに満月の夜は、俺は薬を飲んで家で大人しくしているしかない。基本、フリーマンである班長に任せきりになる。


――普通の部下が欲しいのだ。


 と俺は思った。

「それより平尾と聞いて、何も思わないのか?」と逆に班長に聞かれた。

「平尾? さあ、知り合いに平尾というやつはいませんが・・・」

「お前なあ・・・」と班長が呆れる。

「平尾が何か?」

「平尾警視正を知らないのか?」

「平尾警視正?」

「お偉いさんの名前くらい覚えておけ」

「その平尾警視正とどういう関係があるのですか?」

「息子だそうだ」

「息子⁉ 何故、そんなエリートが、うちみたいなところに配属になるのです?」

「うちみたいと言う言い方はないだろう」と班長は呆れてから、「平尾が来たら、直接、聞いてみろ。俺だって人員不足なので増員を願い出たら、平尾警視正の息子が配属されて来ると聞いて驚いたくらいだ。何か訳がある。探ってみろ」と言った。

「そんな! 仲間内でスパイみたいなこと」

「誰もスパイをしろだなんて言っていない。直接、聞いてみろと言っている。少しは警察内部の動きに気を配れ」

 平尾が配属されて来る理由について、どうやら班長は想像がついているようだ。

 やがて、平尾拓海がやって来た。

 まだ二十代とあって若い。四角い顔、太い眉、大きな目で口の横の黒子が特徴的だ。細身で背が高く手足が長い。警視庁幹部の子弟だと言うので、もさっとした真面目なタイプを想像していたのだが、意外にヤンチャそうな面構えだ。

 班長への挨拶を済ませると、俺のところにやって来て、「平尾です。よろしくお願いします。分からないことだらけの未熟者ですので、よろしく御鞭撻ください」と深々と頭を下げた。

 小難しいことを言うやつだが、社会人としての常識は身についているようだ。

「うむ」と俺は鷹揚に頷いて言った。「陽の当たらない牢獄へようこそ」

「陽の当たらない牢獄ですか?」

「窓の無い地下室だからな」

 捜査一課の所属だが、一課が見晴らしの良い高層階にあるのに対し、狼班は警視庁の地下にあった。

「席はここですか?」と平尾が俺の前の席を指差して聞いた。

 部屋の奥に班長のデスクがどんとあって、少し離れて机が四席、島の様に並んでいる。明日香が狼班に来た時に使っている席だが、「ああ」と頷いておいた。明日香が来た時に、どんな反応をするのか楽しみだ。

 折角なので、聞いてみた。「お前、平尾警視正の息子だって?」

「はい。それが何か」と平尾が答える。

 口調から、親の七光りだと思われることが嫌なのだと分かる。

「お前の様なエリートが何故、うちみたいな日の当たらない職場にやって来たのだ?」

 平尾が淡々と答えた。「だって、狼班は一課の最前線でしょう?」

「一課の最前線?」

 一課のお荷物だという話は聞いたことがあるが、一課の最前線と言われるとは思ってもいなかった。

「WCPが起こす犯罪は凶悪事件となる確率が高いというデータが出ています。となると、狼班が凶悪事件の最前線だと言うことになります。どうせ働くなら、最前線に出てみたいと思っていました」

「志願したってことか?」

「はい。狼班への配属を願い出ました」

「奇特なやつだ」

「そう言われたのは初めてですね。別れた彼女からは、ちょっと頭が良いからって、自分がどれだけ偉いって思っているのよ。冷徹で自己中のクソ野郎だと言われました」

「正直なやつだな。でも、ちょっと自慢が混じっているぞ」

「仕方ありません。IQ(知能指数)は学年で一番、高かったですから」

「EQ(心の知能指数)が低いんじゃないか?」

「測ったことがありませんが、まあ高くはないでしょう」

「そうか。俺、苦労しそうだな」

「苦労をかけないように努力します」

「ひょっとして狼班はエリートコースなのか?」

「それは無いでしょう。どちらかと言うと、まともな人間からは敬遠されていると思います」

「お前はまともじゃないってことだ」

「まともじゃ面白くありませんから。それで、今はどんな事件を捜査しているのですか?」

「今は暇」と俺。

「暇?」と平尾が聞き直す。

「事件のない時はWCPの管理が主な仕事だ。WCPデータベースにある人間の所在を確認したり、新しくWCPに認定された人物の調査をしたり、何人か要注意人物がいるから、そいつらの最近の動向を調べたりすることが、日常業務になる」

「分かりました。取り敢えずWCPデータベースを覚えるところから始めます」

「お前、覚えるたって、千人以上いるぞ」

「それくらいなら大丈夫です」

「お前、どんな頭、してんだ?」

「僕のIQの高さは記憶力の良さに由来しています。学校の勉強とかには無類の強さを発揮しますが、想像力とは、そういった面は脆弱ですから、創作活動には向きません」

「はい、はい。素晴らしい自己分析力だけど、嫌味にしか聞こえないぞ」

 俺のような肉体派の刑事には付き合いにくい人種なのかもしれない。

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