第196配信 ドMの嘘発見器の使い方
◇場面が現代に戻ってきたので語りがワンユウの一人称に戻ります
まさか俺が厨二病にどっぷり浸かってる時期に荒川河川敷で絡んできた四人の女子中学生が相良さん達だったなんて……こいつぁ、マジでマズい事になってきたぞ。
現在フリー素材のように扱われている俺がトキシック本人だと発覚したらどんな目に遭うか分かったもんじゃない。黙っていた方が得策だ。このまま真実を隠して時が過ぎればトキシックの事など忘れるハズだ。
それにしても本人の知らぬ間にトキシックの存在がここまで一人歩きしているとは知らなかった。彼女たちの中ではトキシックがエンタメ征服という目的の為に暗躍している事になっている様だが……そんな事してないよ! むしろエンタメを楽しませて貰っている側だよ。
ヨウツベに動画投稿してエンタメ征服するなんて懐かしい話を聞かされたな。そういえばあの頃はそんな事考えていたっけ。自分は唯一無二の特別な存在で何でも出来ると思っていた。そんなモラトリアムの時期が俺にもあったんだが……如何せんやり過ぎた!
自分を古代竜王の転生者だと信じて外観も中身も重度厨二病になっていたせいか友人と呼べる者はおらず、このままでは人生ヤバいと思ってトキシックを封印して高校デビューしたものの結局友人は一人も出来ず……いや、まあ今もリアルの友人なんて居ないんですけどね。いいんだよ別に。ネットに友人何人か居るし。彼女も出来ましたし! 二股という道徳に反する生き方をしているが、もうねこうなったらとことん不道徳に生きてやろうじゃんかよ。
そんな不道徳な生活を守る為にも俺がトキシックだという事実は隠さなければならない。目の前に居る彼女たちにバレたら面倒な事になること必至、平穏生活守るために頑張る俺必死。
だが許せない事が一つある。それは相良さん達がトキシックの名前を間違えて覚えている事だ。あの時も言ったけどドラグマニアじゃなくてドラグマギアだって言ったろがい! 当時三日三晩寝ながら考えた魂の名前やぞ。それを十年間間違って記憶しているとは、大変度し難い。誰がドラゴン愛好家だよ。まあ、ドラゴンは今でも大好きだしこの先も好きだと確信しているがね。
「優さん、さっきからニヤニヤしていますけどどうかしましたか?」
陽菜が心配そうな表情で言ってきた。危ねえ危ねえ、かつての自分のネーミングセンスに浸っていた。――とにかくここは「興味ないね」という感じで誤魔化す!
「大丈夫、何でもないよ。そのトキシックに今後は注意をしていけばいいんだよね。承知しました」
「犬飼さん、先程はああ言いましたがトキシックさんは悪い人ではないんです。ただ、かなりスケベで常人離れした厨二病なだけなんです。それに……」
周防さんが言いよどむ。俺がスケベなのは認めますけどね、そんなに何度も言わなくてもいいでしょうよ。エロ女にエロ呼ばわりされるのは不服だ。
「それに……トキシックさんは私たち四人のバージンを奪った方なので正直言って情があるのです。もし再会できたら色々とお話をしたいと思っていますわ」
「そうですか、バージンをねー。そりゃ、たいへ……ば……え……うええええええええええええっ!?」
ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇい!! 俺はそんな事してないぞ。当時中坊だった俺がそんな大それた事できる訳ないだろ。トキシックの名前を間違えて覚えている位だし記憶を改ざんしているんじゃないの!?
「私に限っては連続二回もされてしまいましたし。……あの時の彼は優しかったですわ」
頬を緩ませ語る周防さん。エロいコンテンツに触れすぎてとうとう現実とフィクションの区別がつかなくなったのか? 今すぐ病院に連れて行った方がいいのかもしれない。
「亜姫氏、その言い方は誤解を生みますぞ。ちゃんとスパチャバージンとか言わないと……」
一角さんの話によると、どうやら俺が奢ったジュースが彼女たちにとって初めてのスパチャ扱いになっているらしい。周防さんに至っては独りエッチをあげたので、それでスパチャ二連続になってるっぽい。会話をする時は主語が大事だと改めて思わされた。
非常に焦ったが峠は越えた。この場の雰囲気からしてそろそろお開きのようだ。何かどっと疲れた。
「ちょっと待った」
トキシックの件について終了かと思われた時、六期生側の席で挙手する者がいた。小柄で凹凸の無いスレンダーな少女、虻川夜――ベルフェ・ナハトだ。
非常に嫌な予感がする。GTRでは自称探偵を名乗っていたりと最近推理ものにハマっている彼女が変な事を言わなければいいのだが。
「トキシックについてだけど、あたし達は彼が他のVTuber事務所に所属していたり個人勢だったりを想定している訳だけどさ、もしかしたらウチの事務所のスタッフに紛れている可能性だってあるんじゃないの?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
心臓が早鐘を打つ。ホッとしたのも束の間、再び緊張状態に戻った。何故だ。なんでまたこのタイミングで余計な事を言ったんだこいつは? 頼む、皆こいつの思いつきなんかに耳を貸さないでくれ。お願いしゃす!
「なるほど。確かにそれは盲点だったわ。既にわたし達の近くに潜伏し、この事務所を乗っ取ろうと画策していてもおかしくないわね」
ダメだった。戦部さんを筆頭に大勢のメンバーがトキシックぶいなろっ!!潜伏説について議論し始めていた。この流れはマズい。俺の経験上、こういう場合は碌な事にならない。
「仮にトキシック氏がスタッフさんになっていたとして、どのようにして本人だと断定するかですな。何か妙案はありますかな?」
「それなら簡単ですよ。トキシックさんは姫先輩たちと同い年ですしも地元も分かっています。他には家族構成とかも判明していますから、それらの情報をもとに質問してみればいいと思います。一つの情報は点にしか過ぎませんが、それが幾つもあれば点と点が繋がって線になり全体の形が見えてきます」
トキシックのあぶり出し方を考えついたのは陽菜だった。さすがはネットストーカー。俺がZに投稿した写真や配信でのコメント等、少ない情報から俺が住んでいる場所を特定しただけの事はある。
「確かにそれなら質問内容も簡単ですし、いけそうですわね。……そうですわ、せっかくですし犬飼さんで質問の練習をさせていただけませんか?」
オワタ。いや、まだだ。まだ終わらんよ! 何も正直に答える必要は無い。嘘を吐くのは胸がちょっと痛むが俺の平穏な人生の為だ。悪いが適当にあしらわせていただく。
そんな考えでいたところ、今度はセクシー系の女性が挙手した。彼女は確かクロウ・バルバトスの中の人である三日月黒南。ドMが何をする気だ?
「質問するのはいいとしても相手が正直に答えなかったら意味が無いでしょ? そこでこれを使うのはどうかしら?」
そう言ってバッグから取り出したのは手の平サイズの半球体の形をした代物だった。表面には指を這わせるような溝があるようだが、あれは一体なんだ?
皆も同じ事を思ったらしく、陽菜が質問した。
「黒南先輩、それは何なんですか?」
「ふふ、これはね嘘発見器よ。これに手の平を乗せた状態で嘘を吐くと指先の発汗とか脈拍の変化を読み取って静電気が流れるの。バチってなってちょっと痛いけど、それが中々クセになる気持ち良さなのよね」
おい、あいつ今気持ち良いって言ったぞ。あれ絶対普段から持ち歩いて自分に静電気流して愉しんでるだろ。ドMは自分の性癖を満たすのに余念がない。
「なるほど、その嘘発見器を使えば相手から正確な情報を引き出せるという訳ですね」
「その通りよ。試しにわたしが実際にやってみせるわ。犬飼君には質問役を担当してもらおうかしら。わたしが嘘を吐くようなシチュをよろしくね」
「何故俺が? ぶいなろっ!!メンバーに頼めばいいじゃないですか」
「小さい事は気にしないでやってみて! ハァ、ハァ……別に他意は無いから。ただ純粋にドSの命令で静電気を流されたらどんな感じなのか検証したいだけだから。ハァ……ハァ……早くぅ」
「趣旨変わってない?」
嘘発見器を手の平に収めた三日月さんは期待の眼差しを俺に向けていた。本意では無いがあれが本当に嘘に反応するのか確認はしておきたい。この後、俺があれを使って質問される側になるからな。サクッと終わらせよう。
「三日月さんには俺の質問に対し内容がどうであれ必ず「いいえ」と答えて貰います。いいですか?」
「分かったわ。こっちはいつでも受け入れオーケーよ」
待ちきれないと言わんばかりに前のめりになる三日月さん。引き延ばすつもりは毛頭無いので手短に質問する。
「三日月さん……あんた、ドMだろ?」
「――っ! い、いいえ……あ、ああああああああああん!!! いいっ!!」
バチッと音がした後に三日月さんはやたらセクシーな嬌声を上げ全身をヒクつかせながらその場に崩れ落ちる。
「それ静電気じゃなくて、もっとヤバいブツが注入されてんじゃないの!?」
三日月さんの恍惚とした表情を羨ましそうに眺めるメンバーが数人いたが敢えて見なかった事にする。いちいちドMの戯れ言に付き合っていたら日が暮れる。巻いていこう。




