終話 タランテラ
火のついたマッチを放り投げる。
撒いた油にそれが落ちると、大きな炎となって家を飲み込み始めた。
「……どうして、こんなことを?」
「家族は幸せを手に入れました」
お城に移り住んだ彼女たちはもう、この家に帰ってくることはない。
そして、私に会いに来るようなことがあってはならないのだ。もし次に顔を合わせれば、私を<椅子>に座らせようとしてくるかもしれない。
必要以上に仲良くなってしまったので、もしかしたら私がいなくなることに悲しむかもしれない。
それでも、確かな幸せがすぐに心を癒やしてくれる。
この家が無ければ、私を思い出すこともなくなるはずだ。
「だからといって何も……焼く必要があったのか?」
「旅立ちの日に家を焼くのはお約束なので」
私はまだ、椅子に座るわけにはいかない。
全世界の、すべての人が安心して椅子に座るまで、私は立ち続ける。
「多くの幸せになれない人がいる中で、私の中に溜まっていくしあわせは、膿みたいなものなのです」
「この家はあなたにとって、しあわせになってしまったのか」
「はい。だから、私は立って……踊り続けるのです。しあわせの、タランテラを」
勢いよく燃えるしあわせの形。
お姉様たちとの楽しい思い出は、灰となって私に降りかかる。
「タランテラ……毒抜きの舞曲か。しかし、それはペアで踊るものだ。俺は、あなたが最後にどんな表情で椅子に座るか……あるいは、毒に倒れるのか、見てみたい」
「ふふふ。では一緒に踊ってくださるんですね」
羽根飾りに小さな手を添える彼は、音楽家でもあった。
それから私たちが背を向けて歩こうとすると、猛スピードで女神さまがやってきた。
サイドカー付きのスクーターに乗っている。
「こら放火魔! 高二病! なんで自分から灰被ってんのよ」
「最後くらいは灰かぶり姫を演じようと思いました」
「はあ……。とんだ天の邪鬼を連れてきてしまったようね」
「帰りましょうか?」
「いいえ。次行くわよ次。こうなったら、私もあなたが幸せになるところを見届けてやるんだから。とりあえず、今だけは座りなさい。そこにね」
「でも女神さま。ノーヘル」
「つべこべ言わずに乗るのよ!」
こうして、私はふたたび幸せを探す旅に出た。
それでも今までとは違う、孤独とは正反対の方向へ。




