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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
それぞれの適性と役割
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~それぞれの適性と役割~ 四話

「なんだかRPGみたいだな、こうやって歩いてると」

「こうやって四人で探索するのって初めてだっけか。まぁ確かにそんな感じだな」


 和弥の言葉に後ろの良治が答える。彼もゲームが好きな方だったはずなので少し楽しいのだろう。


「じゃあ職業は、俺は戦士か。綾華は魔法使い、まどかは……盗賊? だとするとリョージはなんだろう。勇者か」

「そんなガラじゃないよ。まぁなんでも出来る反面何も出来ないのは認めるけど。

 俺としてみれば和弥がセイバー、綾華さんがキャスター、まどかはアーチャーだな。俺はバーサーカーで」

「こんな理知的なバーサーカーがいるか……」


 お互いに好きなゲームで例える。しかしぴったりの職業が良治だけ見つからない。


「……良治さんは何かに特化しているわけではないですからね。難しいと思いますよ」

「あー、確かにそうかもな。役割多いけど」

「あえて言うなら指揮官、リーダーですね」

「いい機会だから言うけど、そろそろどっちかにリーダー任せたいと思ってますからね……?」

「まだ早いと思いますが」

「任せないと成長しないこともありますから」

「……そうかもしれませんが」


 綾華は乗り気ではなさそうだ。正直和弥もあまりやりたいとは思えない。

 リーダーになるというのは部隊のメンバーの命を預かるということだ。その責任をちゃんと背負えるかと言われれば、和弥にはまだ重荷に感じる。


「まぁそういう方向で進めたいと思ってるので、ある程度覚悟はしておいてください。和弥もな」

「うへぇ……」

「……はい」


 前方を注意しながらの話で表情は見られないが、きっと綾華も和弥と似たような顔をしているだろう。少なくとも心境は同じだという自信はある。


「……? っ、来るぞっ!」


 一瞬判断がつきかねたが、和弥は正面から来る気配を魔獣だと判断した。

 その声に反応した後ろの三人も即座に戦闘態勢に入る。


「多いなっ!」

「十体くらいか、周囲に気をつけろ!」


 南側の道を歩いていた為周囲に照明はある。戦闘には支障はない。十分に戦えるはずだ。

 脇の林から沸くように出現したのは大きな虫のような魔獣。大きなカブトガニのようだ。しかしその体の色は血のように赤い。


「綾華さん、集団の後ろの方を氷で足止めっ! まどかは漏れたやつを狙撃!」

「はい!」

「うん!」


 良治の指示が飛び、それぞれが自分の役割を果たしていく。和弥もがさがさと這い寄ってくるカブトガニもどきに木刀を叩きつける。固そうに見えたがそれほどではないようで、一撃で瀕死、二撃目でトドメを刺せた。

 隣の良治も同様のようで、手早く凍っていないものから斬っていく。


「これで終わりかな」

「少なくても周辺にはいないみたいだな。みんな怪我は……ないな」


 あまり強くなかったこともあり、後ろの二人の所までカブトガニは行っていない。和弥と良治も無事だ。


「この程度なら問題ないな。じゃあ先を急ごう」

「だな。ゆっくりしてると夜が明けそうだ」


 良治に同意してまた道を歩き出す。しかしそれを突き上げるような振動が邪魔をした。


「なっ、地震!?」

「……いえ、違いますね」


 身を低くした綾華がまどかの言葉を否定する。強い揺れに確かに和弥も一瞬地震かと思ったが、もう振動は途切れている。そして何よりも違うと思える変化があった。


「……向こうに大きな気配が出たな」


 今いる場所から北西に、何か大きな気配を発する何かがいる。そちらに目をやると、ちょうどこの公園の中央付近に建っている放送塔が視界に入った。


「行くしかないな。十分な注意と準備を」

「ああ」

「はい」

「うん」


 良治の言葉に三者三様の返事をして放送塔に向かう。到着した時に息が切れていないように軽く走る程度のスピードだ。綾華に合わせての事だろう。


「あれは……」


 放送塔のある広場に到着して、近くの林から広場を見渡す。すると放送塔の手前に大きな穴が空いているのが見えた。ここにも照明があるので見渡すのは簡単だ。


「奥になんかいるぞ」


 放送塔の向こう側になにか動くものが見えた。ゆっくりと動くそれは離れたところから見ても大きい。最初に相手をしたスライムよりも大きそうだ。ビルの三階分くらいか。


「なぁ、あの顔に見覚えがあるんだけど」

「和弥、俺も同じことを思い出したとこだ」

「ねぇ、相手にしたくないんだけど」

「奇遇ですね皆さん。私もやりたくありません」


 珍しいことに綾華まで弱音を吐く。しかしそれも理解できる。放送塔の向こうから除いた頭部に全員が見覚えがあった。


「あれさ、ドラゴンとかいう奴じゃね?」










「……綾華さんは俺と一緒に詠唱術、まどかは同時にフルパワーで一撃。和弥はそのあとトドメで」

「それしかないよなぁ……」


 正直それで倒せるか疑問はある。しかし全員が全力で行くのが一番なのは間違いない。


「じゃあ行きますよ」


 良治の合図と共に二人が詠唱を始め、まどかが弓を引き矢に力を込めだす。和弥はぎゅっと木刀を握り締め、走り出す準備に入る。

 正直言って怖い。鍵里正輝との決戦で出現したあの竜よりも巨大な体躯。圧倒的な威圧感を放つあれにこんなちっぽけな木刀で立ち向かえるのか。


(――でも、やるしかない。それにみんなもいる)


 意思を固めて竜を睨み付ける。その直後二人の声が響いた。


「氷棺永眠!」

春華暴風しゅんかぼうふう!」


 放送塔を回り込み、こっちにゆっくりと歩いて来ていた竜の足元から氷が走り、同時に指向性を持った強烈な風が胴体に直撃する。


「はっ!」


 それを追うようにいかずちを迸らせた矢が竜の首を捉えた。三発とも最大の効果を発揮したと言っていい。


「はあああああああっ!」


 和弥は既に竜の間近。そこで竜の全体像がはっきりと見えた。

 頭部や首は竜と呼ばれるそれそのものだったが、その身体は大きな甲羅を持つ亀のようだ。太い足の四足歩行、やや短めの尻尾だ。そのかわり首は長い。

 凍った足を登り、目標を定めた首に退魔剣で横に薙ぐ。


「っ!」


 しかし叩きつけた木刀は首の鱗を傷付けただけに止まり、大したダメージを与えることは出来なかった。良治の術、まどかの矢の後でもだ。


「くっ!」


 うねるような首を避け、地面に降りたつ。綾華の氷がバキバキという音をさせて崩れていく。


「どうしろって――!?」


 和弥の叫びを横目に走り抜ける影が一つ。――良治だ。

 良治は愛刀を抜き放ち、その太い足へ斬りつける。が、傷がつくかつかないかという微々たるものだ。

 そして背後から更に氷の矢と雷の矢が飛んでいく。狙いは顔のようで竜が嫌がっているように見えた。


「っ!」


 自分だけが戸惑っているわけにはいかない。再度走り出した和弥は良治と同じ足に木刀を叩きつける。しかしやはりびくともしない。


「固すぎるだろっ!」

「くっそ……っ!? 回避、ブレス来るぞっ!」


 良治の警告に全力で脇に走る。真っ直ぐ逃げても後ろからブレスを喰らうだけだ。


「グオォォォォッ!」


 叫び声と一緒に放たれた炎の奔流。それは先程まで和弥たちがいた場所を焦がしていく。炎は一直線に奔り、脇に避けたのが正解だったと和弥はほっとした。

 それとともに、よく良治はブレスが来ると予想で来たなと感心する。たぶん鳥取支社の時の経験なのだろうが、和弥にはわからなかったことだ。


「あっつ!」


 直撃は避けたものの、熱気で皮膚がちりつくのを感じる。まともに受けていれば一瞬で燃え尽きただろう。それほどの熱量をあの竜は放っていた。


「……立て直す! 一旦野球場まで引くぞ!」

「お、おう!」


 焦りを感じさせる良治の声に従い、竜に注意しながら林に入って野球場を目指す。一目散という言葉がぴったりというほど一心不乱に走った。


(あんなのどうすりゃいいんだよっ)


 内心毒づきながら走る。

 今までも強敵と対峙して戦ったことは幾度もある。

 それは夜叉であったり羅堂道元であったりした。しかし今回の竜は規格外だ。人間ではないこともあり、凄まじい威圧感があった。

 敵わないという恐怖と絶望を、和弥は本当に久し振りに感じた。


(……あの公園以来か)


 迷い込んだ近所の公園で魔獣に襲われたあの時以来のことだ。まだまともに力を使えなかったあの頃と同じ感情を、また味わうことになるとは思わなかった。

 野球場の裏の照明の下に綾華とまどかが立っているのが見え、走り寄る。すぐ後ろに良治もいたらしく、ほぼ同時に到着した。


「……反則ですね、あの炎は」


 ぽつりと言ったのは綾華。言うと同時に照明灯を背に座り込む。走ったせいか疲労の色が濃い。


「そうね……あれ、詠唱術よりも強いんじゃない?」

「そう見えたな。少なくとも以前見たあの……楓か桜のどっちかが使ってた術よりも規模は大きかったな。連発出来るか知らないけど、連発されたらどうしようもないレベルだよ」


 良治の言うとおり、あんな規模の攻撃を連発されたらこっちに打つ手はない。扇状に広がる性質上、立ち位置によってはブレスが来るのがわかっても避けられないかもしれないのが非常に厳しい。


「なぁ、綾華かリョージで防御系の術使えないのか?」

「どうだろうな。二人で協力すれば一回くらいは防げるかもしれないが、一回きりだと思う。そのあと何か勝機があるならやる価値はあるけど」

「うーん……」


 和弥の提案に否定気味な良治。確かに防げてもそのあとが続かなければ意味はない。


「攻撃力が足りないのよね」

「ですね。あの攻撃でほとんどダメージを与えられていないようですと……」


 まどかの矢と綾華と良治の詠唱術。それでもダメだった。他に手はないのか。


「――後先考えずやってみましょう。それで駄目なら今日は諦めて作戦を立て直しましょう」

「リョージ、後先考えずにって?」

「順番にいこう。まず綾華さんはさっきと同じ詠唱術で。でも一つの足に集中でお願いします。どうにか足止めを」

「はい、わかりました。必ず」


 真剣な表情で頷く。次に良治はまどかに話しかける。


「まどか、俺の力を使え。前に練習したとおりに」

「……わかったわ。やってみる」


 普段良治の言葉には即答のまどかが一瞬言葉が詰まらせる。

 何故だろうと和弥は思ったが、すぐに理解する。良治の、魔族としての力を使うのだと。


「で、和弥。お前は天使の力を引き出してくれ。出来ないなら仕方ないが試してほしい」

「あれは悪霊とかじゃないけど効くのか?」

「まぁ効果的には『悪霊特効』みたいなイメージがあるけど、純粋にあの力は大きいと思う」

「まぁ確かに強そうな感じだな。あれ使うとすっげぇ疲れるし。集中すれば使えるはずだからやってみる」

「頼んだ」


 天使の力を使用すると、その代償か非常に疲労が溜まる。有効かどうかもわからない状態で使うような力ではない。しかし今は縋ってみる場面だと理解した。


「じゃあ綾華さんの術で足止め、まどかの矢を合図に俺と和弥が突っ込む。狙いは首でいこう」

「ああ」

「これは一発勝負だ。攻撃が致命傷にならなかったら離脱すると考えておいてくれ。判断は俺がする」

「はい、お願いします」

「頼むわ」


 リーダーである良治の判断に疑いを持つ者はいない。彼がダメだと判断したならダメなのだ。強固な信頼関係。それがこのチームの強みだ。


「――じゃあ行くぞ。あの火を吹く亀に痛い目を見せてやるぞっ!」

「おう、任せておけ!」


 パァンと良治と手を叩く。

 気合は入れた。迷いはない。あとはやるだけだ。

 そして――地響きのような足音が近付いて来た。


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