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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
洋館探索のお仕事
17/42

~洋館探索のお仕事~ 二話

前作のタイトルを間違えるという大失態。本当にごめんなさいいいいいい。

こっちが正しいです。

 月の見えない夜道。先程まで雨が降っていたせいか雲がまだ残っている。

 湿度も高く、もやっとした空気が肌に張り付き気持ちが悪かった。

 そんな神奈川県外れの住宅街を和弥は歩いていた。住宅街と言ってもそこまで密集しているわけではない。単純に寂れかけているのかもしれない。


「……なんでこの三人なんだろうな」


 ぽつりと後ろを歩く二人に向かって言う。言葉通りこの道を歩く姿は三つ。他の人間の姿はない。

 和弥たちは仕事を任されて今この場にいる。というか現場に向かっている最中だ。それは理解しているが、そのメンバーの選定に少しばかり疑問があった。


「こっち戻ってきてから、仕事の振り分けは全部良治がやってるから何か意図というか目的みたいなものはあると思うけど……」


 自信なさ気に言うのはまどかだ。良治のパートナーである彼女もこの組み合わせの理由を聞いていないらしい。

 しかし和弥が知らないこともあった。


「あれ、そうなのか。葵さんじゃないんだ」


 東京支部のトップは葵だ。今までは彼女が指示を出してはずだが、どうやら最近変わったらしい。


「最近の良治って仕事量おかしくない? 今でも京都に行くときあるし、こっちでもいつも何かしら仕事してるイメージなんだけど」


 一緒に歩く三人目がぼやく。だからなかなかデートに誘えないのよね、なんて付け加えたのは結那だ。一瞬まどかの表情がむっとしたのを和弥は見ていない振りをした。


「確かにね……さすがにちょっと心配かな。良治って全然そういうの話してくれないし……」

「話してくれないのか?」

「聞けば教えてくれることもあるけど、はぐらかされることも多いのよ」

「信用も信頼もしてるけど、なんだかんだ言ってリョージは秘密主義者だからなぁ」


 周囲に迷惑をかけたくないのか、自分を曝け出すことが苦手なのかわからないが、良治は中々自分の考えなんかを話すことが少ない。


「あー、確かにそうかも。近づきすぎたり押し付けすぎたりすると、すっと離れちゃうイメージはあるわね」

「結那もそう思うんだ。良治のこと大好きだけど、自分の気持ち押し付けるのはちょっと怖くて……」


 彼女であるまどかも、彼女なりに考えているようだ。この辺の距離感は人によって違う気もするので一概に言えないのが難しい所だ。

 まどかは少し臆病だったり精神的に弱い部分がある。今度良治に言っておいた方がいいかもしれないなと心に留めておくことにした。


「ま、その距離感は少しずつ詰めていくしかないんじゃない? 一気に行っても失敗するだけだと思うし……って私がアドバイスするのも変な話だけど」

「ふふ、そこが結那のいいとこよね」

「うっさいなー。いいもの、真っ向勝負で奪ってやるんだから」

「お手柔らかにね」


 笑いあう同い年の女子を眺めながらなんだか凄いなと思う。和弥にはよくわからない感情や関係性だ。


「……毎回思うんだけど、お前らの関係がわからないよ」

「ん、簡単じゃない。『親友』よ」

「そうね、あと『恋敵』ってのもあるけど」

「なんだかなぁ……」


 妙にすっきりした顔で言う二人。二人が良ければまぁいいのかなと和弥は諦めて、ようやく辿り着いた屋敷の前で足を止めた。


「さて、仕事しますかね」

「了解。気をつけましょ」

「おっけー」


 三人の前に聳え立つのは朽ちた屋敷だった。

 数年前に所有者が亡くなりそのままらしい。放置されていたが夏休み付近から肝試しをするために不法侵入が相次いだ。それだけなら彼らが来るべきことではないのだが、その不法侵入者のほとんどが証言した。

 ――不気味な気配と声を聞いた、と。


 和弥は預かっていた鍵を取り出し、鉄製の門に鎖を巻いて取り付けられていた錠前に差し込んで開錠する。雨に濡れていたせいか鎖も錠前もひんやりとしていた。


「えーと隊列だっけ、どうする?」

「和弥が先頭、次に私で最後は結那でいいかな」

「おっけー」


 敷地内に入りながら、まどかの提案に結那が軽い口調で答える。

 確かに先頭で盾になる和弥、後方から矢で支援するまどか、そして背後の注意を受け持つ結那とバランスがいい。


「ね、ここの見取り図とかは?」

「あ」

「だよな……」


 間の抜けた声を上げるまどか。うっかり忘れていたらしい。

 普段そういうことを担当するのは良治か綾華。今回は二人ともいない。


「……まぁないものねだりしても仕方ない。で、今回の目的は悪霊だよな?」

「うん、そう聞いてる。屋敷の中で白い影を見たって。あと子供のすすり泣く声とか。でも誰かが調査したわけじゃないし慎重にいったほうがいいかも」


 今回のことは反省点として覚えておくことにして、仕事を先に進める。時間は有限だ。


「なるほど。幽霊の発見、調査、そして悪霊がいたら退治って流れ?」


 ここまで来ていたのに仕事内容を把握していなかった結那が理解する。

 それではまずいとは思うのだが、相変わらず彼女の理解能力は高い。


「ああ、それでいいと思う」

「ん、じゃあ行きましょうか二人とも。早速結界を、っと」


 まどかが目を閉じ力を集中させる。

 しかしすぐに結界は張られずに、まどかが「うぅ……」と唸りだした。何か問題があるようだ。


「まどか?」

「……大丈夫」


 その言葉と共にいつも通り結界特有の違和感を覚え、無事に結界が張られたことを感じた。


「どうしたの?」

「う……その、この屋敷が大きくて」

「ああ、なるほど」


 敷地が広かったので結界を張るのに手間取ったらしい。

 実際この屋敷の敷地は、今三人がいる門からは全体像が見えない。何とか端と端はわかるが奥行がどれほどあるか。更に言うなら門から玄関までの間に庭もある。


「でも結界張れるの私だけだから」


 確かに彼女が言うようにこの場に術士は一人しかいなく、もちろん結界を張れるのも一人しかいない。


「結界張るのってそんなに難しいの?」

「うーん、張ること自体は難しくないかな。ただ大きさだったり条件付けだったりが複雑だと一気に難しくなるし、力も必要になるの。『結界士』って言われる結界専門の術士もいるって話を聞いたことあるわ」

「結界専門ってなんか凄いな」

「現代じゃあんまり必要なスキルじゃないみたいだけど。もちろん結界術自体は一般人に見られないために必要だけど、大規模な結界は使う場面は少ないから……ってこの間の公園でも陰陽陣の時も使ってたからそんなこともないのかな……?」


 自分で言いだして悩むまどか。

 先日の公園全体を包む結界は術士である綾華が前準備をした上で行ったもので、これは大規模と言ってもいいはずだ。そして中国地方で何回か戦った際も戦闘範囲全体を結界が覆っていたはずなのでこれも大規模だ。

 和弥の知る限り大規模な結界というのは結構経験がある。なので珍しいとか難しいとかの認識はほとんどなかった。


「ちなみに俺の知ってる限りで結界士の人はいるのか?」

「うーん、いないんじゃないかな。支部に所属してる人って基本的に対悪霊の為に鍛錬に励んでるし。もしいるとしても黒影流くらいじゃないかな」

「あー、なるほど」


 言われてみるとその通りだ。

 結界術は直接悪霊や魔獣を倒すことには繋がらない。基本的に人手が常に足りないこともあって中々結界術を習得する者はいないのだろう。結界術を覚えるのならその分攻撃術を覚えるのは道理だ。

 きっと結界術を覚えるのはその役割が必要なくらい大規模な戦闘を繰り返す、大きな組織やチームに限られるのだろう。そう考えるとやはり少数精鋭と言える東京支部には使い手がいなくて納得した。


「ね、そろそろ入らない?」

「あ、そうね。行きましょう」


 結那に促され、周囲を探るように注意しながら玄関に目指す。

 庭は草が伸び放題になっており、手入れをされている様子はない。


「……足跡はあるけど最近じゃなさそうだな」

「そうね。たぶん肝試しのときかしらね」


 玄関まで辿り着いてまず気になったのが足元だ。複数の足跡があり、誰かがこの場所に来ていたことを窺わせる。きっとそれは結那の推察通り肝試しを行った若者だろう。


「さてと」


 預かっていたもう一方の鍵を取り出して鍵穴に差し込む。こっちも問題なく開いて和弥は安心した。これで開かなくても別に和弥のせいではなないが、なんとなく責任があるように感じられた。


「開けるぞ」

「うん」

「おっけ」


 和弥が木製の両扉の片方をゆっくりと引きながら開く。気の軋む音が響いて少し不快だ。

 完全に開いたところで和弥が前に出て様子を見る。その後ろにまどかが懐中電灯を持ちながら控え、結那は念のため後方を確認している。


「和弥、天使の力って使える?」

「ああ、大丈夫だ」


 まどかの意図を察してすぐに集中しだす。これも最近増えてきたので慣れたものだ。

 悪霊は天使の力に惹かれる特性がある。救い、浄化、そんなものを求めているらしい。それがわかってからは、悪霊が居る可能性のある仕事の時はまず天使の力を解放していた。


「反応は?」

「少なくとも近くにはいないみたいだな」


 天使の力の効力は狭い。今彼らがいるのはやや広めの空間だが、なんとか視界内は効果範囲内と言えそうだ。

 左右には通路があり、正面には大きな階段が二階へ続いている。外観から考えるとこの屋敷は三階建てなので二階の何処かには階段があるはずだ。


「さて何処から行く?」


 見取り図がないので行き当たりばったりで進むしかない。正直運だけが頼りだ。

 三人は顔を見合わせると同時に、声を出してそれぞれが思う方向に指を差した。


「右で」

「左にしない?」

「右がいいんじゃない?」

「……右ね」


 一人だけ左を選んだまどかが渋々右を選ぶ。

 と言っても別段根拠があるわけではないので深くは考えていないようだ。きっと一人ぼっちだったのが寂しかったのだろう。


「な、このあとはどうする。天使の力使いっぱなしは割と疲れるんだが」

「そうね、広い場所に出るまではいいかな。部屋とかは扉を開ければいるかどうかわかるだろうし」

「了解」


 広い場所と発見した時だけ使えばいいのは楽だ。常に気を張り詰めるのは後々の為にはならない。広範囲を探索しなければならないのなら尚更だ。


「ね、和弥。前から思ってたんだけど、その天使の力って悪霊ならなんでも惹きつけるの?」

「あー、どうなんだろ」


 結那の疑問に和弥は答えられない。本人にもよく解っていないのが現状だ。

 そもそも天使の力を扱える人間が和弥以外にいない。支部の人間や京都の隼人にも聞いたが今までそんな人間はいなかったらしい。研究が進んでいないとかのレベルではなく、そもそもそんな研究すらなかった。むしろこれから和弥の状態を調べたりするのを始めるとのことだ。


「良治が話してたんだけど、自意識がなくなった霊が浄化の力に惹かれる傾向があるみたい。それ以外はちょっとわからないわね」

「じゃあ強力な悪霊とかは来ないってこと?」

「たぶんね」

「それじゃあ結局この広い屋敷全体を歩き回らなきゃならないってことか」


 天使の力でおびき寄せて、という作戦は取れないようだ。楽にはいきそうにはない。

 別に歩き回るのは嫌ではない。体力には自信があるし身体を動かすことも好きだ。ただ別の問題がある。


「そうなるわね。……朝までに終わるといいんだけど」


 まどかは重い息を吐いて祈るように呟いた。


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