二話 冒険者になる理由?
「道が分からない...」
ジェーンは松明の明かりが等間隔に照らす―適度な湿気と温度から地下であることが分かる―霊廟の廊下を歩いている、壁には穴があいており棺が納められている、中に収められているのは遺体。
現在ジェーンはホーツオン帝国の都市"帝都ティオン"の地下墓地に転移してきた。
まぁ今からひたすら歩き回って出口を探すのだが、動いてるだけでも面白くないだろうし好きな女性のタイプでも語ろうか。
まず初めに言っておくがオレはノーマルだからな?そんな変態的趣味とかは無いから安心してくれ。
オレが産まれた村は開拓村だった―開拓村ってのは森とか切り開いて自分達で生活してる村の事な、そのうち街とかの規模になると思う―当然そんな村に娯楽ってのも少ない、ひたすら働いて日が傾いたら村に戻って寝るだけ。夜になれば男女が求め合う声がするといった村だったよ。
そんな村の中にオレの好みの女性は居なかったんだよな、オレが求めてるのってしなやかな筋肉が有る健康的な女性でどこか勝気と言うか例えるならサッパリとした女性だ、そう女冒険者とかに憧れるのだ!
薬草や木の実を取って村の中で女同士でお喋りしながら料理を作ってる女性は俺の中で恋愛対象でもなかった。
しかしながらオレは理想の女性に出会ってしまった。
ある日朝起きて洗面台で顔を洗ってたんだ、そして鏡を見たら血圧が上がりきっていない為に肌が白くて中性的な顔立ちのヤツが写っていた。
なんか女みてぇだな―と心の中で笑ったら、鏡の中の女みたいなヤツが口の端を上げて笑うんだ。そしたらもう女にしか見えなくなっていた。
ゾッっとしたね。いや、普段から女に間違われる事が有るから中性的だとは思っては居たんだけどコレほどとは思っても見なかった。
まぁ普段から中性的だとは言われていたが、自分で自覚してしまった以上少し興味が沸いた。何処まで理想の女性ぽくなれるのかと。
元々短い髪だと寝癖が酷くなると言うクセ毛だった為に髪を伸ばしていたのだが、男女どちらとも取れるような長めのワイルドボブの髪型にした。その結果髪質に深い拘りを持つようになってしまった。サラサラ髪最高だな。
髪フェチ属性が付与された瞬間である。しかし自分の髪質で満足できる為誰かの髪に執拗に触りたいとか変態的思考回路には至っていない。
あと子供の頃に下の毛が生え始めた頃になんかの病気かも知れないと思い始めているタイミングで近所のおじさんに「ボウズそろそろティーン毛が生えたんじゃねぇか?ヘヘヘ」と話しかけられた為に相談した所「それは呪いだ、そのままだといつか死んじまう!おじさんは何とか抵抗しているがこの呪いを完璧に抑えることは出来ないんだ...見ろこのスネ毛を!こんなに黒くなってしまってよぉ」などと脅された。
よくよく考えればいつか死ぬのは当たり前だし、成長すれば濃くなるのも当たり前なのだが。当時のオレは全力で毛を剃った、呪いに抗おうと必死で。
からかわれていると気づいてもなお、無駄毛に良い印象を持っていない。トラウマである。
だって汚くね?スネ毛とか何の為にあんの?腕毛や手の甲の毛だってそうだ、ばい菌まみれの汚い毛をつけたまま食べ物を触って食うとか信じられない!
そんなこんなで元々体毛が薄いのだが、剃るのが習慣付いてしまった。一応ワキと下は綺麗に整える程度で抑えている。
流石にまだ見ぬオレの妻になるべき女性に引かれるのは嫌なのでツルッツルではないのだ。
おそらくは一般的な女性以下の外見的努力をしていたが、声も変えれる様にしようとノリで女性的な声を出して見たのだが...普段からどうでも良い事への飲み込みの速さに定評のあったオレは女性の声どころか多種多様な声の出し方を習得してしまった。
人はこの声にまつわる技術を声秘術と呼ぶそうだ、声質の変更などは中級に当たるそうだ。上級ともなると声だけで魅了できるのだとか、スゲーな。商人とかの交渉術とかも声秘術に近いらしい、印象を操作して安く買って高く売るとかな。
そんなこんなしてるうちにあっさりと理想の女性像を手に入れたのだ、しかし弊害があった。その辺に居る女性を女として見れなくなってしまった。女性に求める理想が高すぎるのだ、あっさりと自分が手に入れてしまったが為に。
はっきり言おう、女冒険者以外はただの人だ!一般の女性から言い寄られようともまだ見ぬ女冒険者との恋の冒険の為にキスすらしていない、貞操を守り通しているのだ!童貞すら守れない者に何を守れるというのか!!
ジェーンは外見に気を使い始めてからモテ出した、中性的な顔立ちでクールで冷たそうな印象がある為に好んで近づこうとする人は居なかったが顔は良いほうだったのだ。そんなヤツが外見で努力し始めたのだ、見る見るうちに魅力的になった。女性からすればカッコイイと男性からすればキレイだと思うだろう。そして声を聞きけば棘がなくスッと耳に入ってくる聞きやすい中性的な声である。その結果、男女両方からモテた。そして男女の性別を勝手に勘違いするようになり困ったジェーンは街に近づかなくなった。
いや、流石に男に言い寄られるのは堪えた...女ぽいキャラを貫き通し逃げたがな。
と言う事で女冒険者以外はアウトオブ眼中、不純な動機と笑うが良いさ!しかしオレは冒険者になってやる!
「ん?何だこの部屋は...?」
何やら台の置かれている部屋に来た、色々な器具が置かれていて刃物や鋏のような物や糸のノコギリくらいしか名称を知らない。
殺人事件などで見つかった遺体を調べる部屋である、その後埋葬するにも何かと利便性が良いので霊廟と併設される事は多い。すなわち、利便性を考えるなら入り口に近い所に作る部屋である可能性が極めて高い。
「検死場...って事は引き換えした先の通路が出口かもしれないな」
引き返した角を曲がれば階段がありその先に木製の扉が開け放たれていた。
扉を抜けると聖堂のような祠となっており死者の国の神リーエルの像が祭られている。
植物が植えられたプランターがあり、長椅子が配置されている、死者の国の神リーエルに遺族が祈りをささげる場所だ。
祠の左右には階段があり、上ると二階部分があるようだ。人が生活している気配がする。
この世界では神々の恩恵が肉体から離れると同時に魂が死者の国へ行くとされている。
肉体の腐敗が神々の恩恵が外れたと判断し腐った遺体から処理していく、焼いた後に頭蓋骨を砕き土葬するのが一般的だ。
焼く事で動死体になる事を阻止、頭蓋骨を砕くのは骨兵士になる事を阻止する為だ。
しかし腐らなければ遺体を処理することはしない、神々の恩恵が有るまま処理をすれば魂が死者の国に行けないとされているからだ。
実際に腐っていない死体からは瘴気や惰気が発生しないのだ、神々の恩恵がある為に肉体が守られている。
しかし恩恵が外れ腐った肉体のまま放置すれば瘴気と惰気が発生し死体が動死体となる。死体の数が少なければ瘴気と惰気の量が少なく魔物化しないのだが墓地などは遺体が多い為瘴気と惰気が集まりやすい。
結果、墓地では動死体が居ないか衛兵などが見回りをし、神官が瘴気と惰気を払うのだ。
瘴気と惰気を払う必要があるため祠には神官が生活している、いわゆる墓守と言うやつだ。
墓守に見られるわけには行かないので急いで祠の出口から出た。
祠から出るとそこは石作りの街だった。照らされる陽光の眩しい街からは生活している者たちの活気に溢れた雑音が聞こえてくる。
『帝都ティオン』帝国の中心地である。墓があった施設からすぐに、露天商が軒を連ねているメインロードへと出た帝都最大の石造りの道路だ、道幅は馬車が四台は横並びに通行できるほどの巨大な道路である。この道をまっすぐ行けば帝王の城があり、反対側には出撃用の大きな門があるのだ、その門では国境を越えてきた者の調査や、商人の品物の検査などしている。
「お~変わらず活気付いてるなぁ!」
ジェーンは街に来ていた事がある―行くのが嫌になり品物を帝都まで運ぶのは業者に任せたのだが―その為道は覚えている。
「まずは冒険者登録だな、運よく女冒険者との出会いがあればいいのだがグフフッ」
いや、特に出会いとかなかった、現実ってキビシー。対応してくれた職員のお姉さんが巨乳だったのが嬉しいが、胸は大きさじゃねーんだよな、形だよ形!すべてはバランスなのだよ!その辺胸採用で取った冒険者組合の組合長は分かってねーよ。
などと見た事もない組合長の私情採用疑惑を妄想しているが登録は終了した。
簡単に要点をまとめると「冒険者組合に所属する者は全冒険者組合で活動できるようになる」「冒険者にはランクがありランクが高いほど報酬が高い」「ランクは色事に分かれている」「ランクの上昇はポイント制」「上限を超えたポイントは金銭のように使える」「連続で依頼を失敗すると降格」「依頼失敗の場合違約金が発生する」「犯罪行為などに加担した場合冒険者の権利を剥奪する」などである。
そして手渡された白色のクリスタル、首飾りに様に使ってもよし、腕に巻いてもよし、手首に巻いてもよしと汎用性が高い。付属されている紐が形状変更の付呪がされているのだ。
書類などに記入するが必要なのがほとんど名前だけだった、というか『冒険者名を記入してください』って何だろうって思って聞けば通り名の様な物なのだそうだ、素性の明かせない者や名前の無い者も居る為の処置なのだそうだ。『ジェーン・フィーダ』とフルネームで書こうかと思ったのだが「ジェーン」と下の名前で呼んでくれる仲間とか胸が熱くなるので[冒険者名:ジェーン]とした。その後白いクリスタルをクリスタルを認識する装置にはめ込み採血をされた、どうやら冒険者組合に所属している者の血液認証があるようだ、そしてクリスタルにも血液認証をさせ登録完了。自分以外では使えないクリスタルとなったようだ現在のポイントや名前などがクリスタルを装置に近づければ表示される。
[ジェーン:白0ポイント]と表示されている。
「最初は白色からのスタートとなります、受けれる難易度は特初級から初級です、危険度1~10までの依頼をお受けください」
というわけで意外とあっさり冒険者になれた。
そして気になるであろう『ランク』についてお話させていただこう。
冒険者組合の依頼には十段階あり下から
《特初級》
《初級》
《中級》
《上級》
《特上級》
《最上級》
《最特上級》
《伝説級》
《神話級》
《世界級》
この十段階基準は良く出てくる、例えば炎系魔術上級、剣術中級などだ。
そして、ランクに応じて色が割り当てられる。色の付いたクリスタルは魔導石を加工した物だそうだ。
魔導石はジェーンの体にも入っているが、魔族の中で魔力を供給している器官を魔導コアといい、魔導コアを抜き出し魔力を使用できるようにしたものを魔導石という。簡易版の魔力石と思ってもらえればいい。
魔族の心臓であり魔力を内包できる物である。そして空にすれば白色となる、そして濃度が高ければ青色になる、最終的には黒に近い紫色になる。しかし魔物の質によって限界濃度が決まる為弱い魔物であれば青色といった所なのだが。
手渡されたクリスタルは白から赤となり黒色となる。どうやら魔導石に魔力の変わりに聖気を入れてやると赤色になるそうだ。
とは言え白色のクリスタルは人族界でも出現するような雑魚の魔犬種の物だろうが、黒色までの魔力を貯めれる魔導コアを持つ魔物は魔族界の深部に生息しているような魔犬種の物でないと色が表現できない。その為黒色のクリスタルを持つ者は魔族界へ出向き自分の力で魔族界の深部の魔犬を狩るのだそうだ。
すなわち黒色のクリスタルを持つ資格のあるものは魔族界の瘴気と惰気に耐性の有る勇者候補と言うわけだ、魔王からの任務は『勇者の誕生を阻止する事』なので黒に近いカラークリスタルを持つ物は要注意なのだ。発見し報告するだけでも価値があるだろう。
カラークリスタルの色は五色だ。
特初級~初級 白色 :危険度1~10
初級~中級 桃色 :危険度10~20
中級~上級 赤色 :危険度20~30
上級~特上級 血色 :危険度30~40
最上級~ 黒色 :危険度40~
色の適応範囲の依頼しか原則的には受けられないが、パーティの手伝いでは受けることが可能となっている。旨みは少ないだろうけどね。
そしてココからがポイントである。二つの意味でポイントなっ!
それぞれの依頼内容には報酬の他に組合ポイントが割り振られている。白色ポイント40の依頼とかね。
各ポイントを3000ポイント貯める事でワンランク上に上がれる。
基本的には採取系が10~100ポイント
討伐系が10~1000ポイントなどである。
このポイントは冒険者組合と連動している施設でお金として使える。例えば桃色対応の冒険者用の宿屋で桃色ポイントを使って宿泊などだ。おそらく武器屋などでも交換可能なのだろう。
というわけで絶賛駆け出し中の白色冒険者なオレは初級の掲示板を見ているわけですが...面白そうなのを見つけた。
『[警備任務:霊廟の巡回と遭遇した魔物の討伐][場所:帝都地下墓地][時間:夜10時~朝6時まで][報酬:1万シル][依頼者:墓守エドガー][白色400ポイント][備考:2人集まり次第終了]』
正直言うと家にお金置いて転移してきたから一問無しなわけよ、1万シルは嬉しい!しかもさっき散々迷って道も覚えてるし魔物も居なかった。余裕っしょ!
「これ受けます!霊廟の警備任務」
カウンターに居る巨乳の職員に依頼を告げた
「承りました、この台にクリスタルをかざして頂けますか?」
言われたとおりに首から掛けたクリスタルを外し識別台にかざした、すると識別台に依頼内容が表示される。
「こちらの依頼で間違い無いですか?」
「はい」
「では今日の夜10時までに依頼人のエドガー様の所へ行って下さい、その後警備に就いていただきます。ご理解頂けましたら確認のボタンを押してください」
識別台に表示されている確認のボタンを押し依頼受付となった、0/2と言う表示が右下に出ていたのが1/2になったので次に誰かが受ければ依頼が剥がされるのだろう。
「あの、失礼ですが武器などは携帯されてますか?」
巨乳の職員に聞かれた、股間に一本男の武器をぶら下げていますが見ますか?
「いえ、魔物を倒すような物は持ってないですね」
「武器の貸し出しなども行っていますが素手よりはよろしいかと思いますが如何なさいますか?」
「えっ!お借りしたいです!」
「では廊下でお待ちください」
職員は別の職員に少し武器庫に行くと告げ席を立ち廊下へと出てきた。何やら鍵を持っており、付いて来いというのでお尻を堪能しながら武器庫まで歩いた。
武器庫には錆びなどが付いている鉄の剣や槍などが保管されていた。
コレはオレの剣を握って手になじむか検証する流れではないのか?
「好きな武器をお選びください、依頼完了後に返却となりますので紛失などなされないようご注意ください」
「はい、ありがとうございます。ではこの剣を借ります」
さび付いた鉄の剣を借り受けた、クワとか握ってたから槍のほうが良いのかもしてないが、剣って憧れね?憧れるよね?冒険者に憧れてるなら分かるよねこの気持ち!
「では、武器ホルスターを付けますので動かないでくださいね」
そう言って彼女は屈んでオレの腰の後ろに手を回した。彼女の顔は今腰の前にある。
胸の谷間が!見える!ふっ...ただの脂肪の塊だ、惑わされるなこんな所でオレのマイサンを輝かせるわけには行かない!静まれオレの野性!
「あの別に...自分でやれますんで...」
彼女の手からベルトを取る、その時軽く手が触れた。
「あっ」
「すみません!」
オレは平謝りである。
「そんな、そんな!謝るほどの事ではないですよ?」
彼女は頬を赤めながら言った。
コレは脈ありと受け取っていいのでしょうか。良いよね?
「え、いえ、あ、はい、ありがとうございます」
やばい意味の分からない返答になった、何ありがとうございますって、オレのコミュ力どこに落としてきたんだ?
いそいそとホルスターを付け剣を収めた。なんか感動!冒険者って感じ!いや、剣だけだけどさ。
ちなみにこの帝国では"刀"と言う武器も有る。鋭さを追求して斬る事に特化した刃物で帝国の兵士達が良く所持している。そして作れるのがこの帝国の鍛冶師だけと言う名品である。その為大変高価だがいつか持ってみたい。
「なんか冒険者ぽくなりました!ありがとうございます!」
「いえ、礼には及びません。戦う可能性の有る場所へ組合職員として武器も持たずに行かせる訳には行かないだけですから」
その後何だかんだあり巨乳の職員と仲良くなった、マチカさんと言うらしい。何だかんだと言っても薄暗い部屋で二人っきりでイチャイチャとかは無かったですよ?武器の抜き方とかをカッコ付けてやってみたりしただけだ、別に下の剣は抜いてねーよ!勘違いすんなよ!?