いつか見た空の色・1
その黒い小さな箱を開けた瞬間、彼が息をのむのがわかった。
きらびやかな電飾に彩られた並木道。
傍らに並ぶベンチで、隣に座る彼の顔を見上げた。
橙の柔らかな明かりが横顔を照らし出す。
手渡したばかりの小箱の中には、銀の十字架のネックレスがあるはずだ。
クリスマスにかこつけた、彼への初めてのプレゼント。
もちろんちゃんと男物で、デザインもそれほど派手じゃないものを選んだつもりだった。
だが。
ふたに右手をそえた彼は箱の中身を見つめたまま動かない。
怪訝と言うより不安になる。
もともとネックレス自体は自分の選択ではなく彼のリクエストだったのだが。
好みに合わなかったのだろうか。
「シルバーのクロス、欲しいって言ってたでしょう?」
見かねて声をかけると、彼は大きくため息をついて顔を上げた。
吐き出された呼気が白い。
「つけていい?」
こっちが頷くよりも先に、長めの鎖を頭からかぶるようにして首にかけた。
深緑のセーターに銀色がよく映える。
シンプルな形も線の細い彼にあっていた。
「なかなか様になってるじゃん」
ほっとして少し笑う。
彼はネックレスを確かめるように俯いた。
「ん、ありがと」
つと、彼の手が伸ばされた。
髪にごみでもついてたか、とぼんやりと見送った腕は視界の横を通りすぎ、気づけば体を引き寄せられた。
「!」
呼吸が近い。
息がつまって言葉が出ない。
体が熱を上げていく。
自分の心臓の音ばかりがうるさく、彼の鼓動が感じられない。
「…ちょっ、と」
みじろぎしようにも抱きすくめた腕はゆるがない。
油断した。
普段から態度や口ぶりこそ積極的だが、彼が直接に触れてくることはなかった。
せいぜい制服の上から捕まれるか髪の毛をかき回すくらいがいいところで、手をつないだこともない。歩くときは必ず人一人分間をあけていた。
もどかしくも心安い距離感を、これまでずっと保ってきたのに。
「あおい」
声が少しだけくぐもって耳に届く。
「なんか、ちょっと泣きそう」
「馬鹿」
甘えをふくんだ声が少しだけ情けなくて笑った。
ようやく体から力が抜けて、彼の肩にあごをのせる。
「うん。馬鹿だなぁ」
ため息とともに吐き出された言葉が冷たく耳をくすぐって消えていった。
寒かった。
街中がむやみやたらにきらきらしていた。
でもそれが苦にならないくらいには自分も浮かれていた。
そんな季節。
今は、昔の。




