第4話 『毒の噂と宰相補佐の信頼』
「咲、来てくれ」
凛の声が薬局に響いた。
「どうしました?」
「宮廷で、子供たちの間に新たな症状が出ている。急を要する」
「わかりました、すぐに調合を始めます」
蓮が小声でつぶやく。
「また宮廷か……ちょっと大げさじゃない?」
「私には関係ない病も、関係者にとっては命取りかもしれない」と咲は答える。
宮廷に着くと、騒ぎは小さくない。
「子供たちが、突然の嘔吐と発熱で倒れました」
「薬草の煎じ方や分量で変化はありますか?」
「専門家が見ても、原因が特定できないそうです」
咲は深呼吸し、手早く薬草を選ぶ。
「まずは症状を抑え、体力を回復させる薬を作ります。それから原因を探る」
薬を煎じながら、咲は思う。
「これだけの症状が同時に出るのは、自然発生の病ではない……誰かの意図がある」
凛が横で観察していた。
「君は落ち着いているな」
「慣れたわけではありません。でも、できることをするだけです」
咲は薬を渡すと、子供たちは少しずつ落ち着き、顔色も戻る。
「効いている……やはり現代知識は役に立つ」
凛はつぶやく。
「効くだけでは足りない。原因を明らかにしないと、再び同じことが起きる」
「ええ……でも、どこから手をつければ」
その時、楓が差し出す紙片。
「咲さま、こんな噂があります」
「何ですか?」
「特定の薬草の納入業者に、宮廷内で不正があるのでは、と」
「なるほど……調べる価値はあります」
凛が少しだけ笑みを浮かべる。
「君は勘が鋭い。行動も迅速だ」
「ありがとうございます。でも、確実に証拠を集めないと」
夜、薬局に戻った咲は蓮と話す。
「小さな謎も、大きな陰謀につながるかもしれない」
「俺たち、巻き込まれすぎじゃない?」
「巻き込まれるんじゃなく、解く側になるのよ」
凛が扉の向こうに立つ。
「君を信頼している。だから任せる」
「はい……頑張ります」
咲は薬の香りを吸い込み、決意を新たにする。
「まずは患者を守る。次に、真実を見つける」
その夜、薬局の明かりは小さく揺れ、宮廷の闇を少しだけ照らしていた。