第3話 『薬と噂と宰相補佐』
「咲、これを見たか?」
蓮が小さな紙片を差し出す。赤いインクで書かれた警告のメモ。
「疫病は表向き、真の病は別にある。薬師よ、気をつけよ」
「やっぱり……宮廷の中に、何か隠されている」
「怖くないのか?」
「少しは怖いけど、患者を救えるならやらないわけにいかない」
凛が部屋に入ってきた。
「その紙片……誰かの警告か?」
「はい。でも、誰が書いたのかはわかりません」
「なら、まずは病の原因を突き止めるしかない。君の薬学の知識で、分析できるだろう」
咲はうなずき、昨日の患者たちの症状や飲んだ薬の記録を整理する。
「発熱のパターン、症状の広がり方……これは自然発生の病気ではないかもしれません」
凛は静かに見つめる。
「君はいつも落ち着いている。驚くべきことだ」
「現代で学んだことがあるだけです」
「なるほど……それでも、宮廷で役に立つとは」
その時、蓮が耳打ちする。
「咲、女官の楓が来るって」
楓が微笑んで近づく。
「咲さま、宮廷で新たな病が発生したそうです」
「どんな症状ですか?」
「咳、倦怠感、軽い発疹。特に貴族の子供に目立つそうです」
「なるほど……感染経路と薬の効き方を調べる必要があります」
凛がつぶやく。
「君はどう動くつもりだ?」
「まずは患者の状態を確認し、薬を調合します。それから、噂や原因を探る」
「よし、それでいい」
咲は薬草を手に取り、慎重に選ぶ。煎じる時間、温度、分量――すべて計算に入れる。
「少し苦いかもしれないけど、我慢してね」
子供たちは薬を口にし、少しずつ落ち着く。
「やっぱり、効いているみたい」
凛は眉をひそめた。
「効くのはいい。しかし、これだけでは謎は解けない。なぜこのタイミングで病が出たのか」
「ええ、でも私は……できるだけ多くの手がかりを集めます」
楓が耳打ちする。
「咲さま、噂では“特定の貴族が裏で薬を操作している”という話があります」
「ええ……可能性は高いです。でも証拠が必要」
「私も手伝おう」
「ありがとうございます」
その夜、咲は薬局で記録を書きながら思う。
「現代の知識だけじゃ解けないこともある。人の心も、政治も絡む……でも諦めない」
凛が静かに背後に立つ。
「君は本当に強い。知識だけじゃなく、覚悟もある」
「……ありがとうございます」
「君の調合は、人を救うだけでなく、宮廷の闇も照らすかもしれない」
咲は薬の香りを吸い込み、そっと息をつく。
「まずは、小さな命を守ることから……でも、その先の真実も、見つける」
その決意は、宮廷の噂と陰謀の中で、少しずつ強さに変わっていく。




