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クラウス目線

長文です。

 クラウス・ヴァレリー現在15歳。


 4歳の時にヴァレリー公爵に弟のカールと一緒に養子として引き取られた。


 僕が生まれた貧乏男爵家には3人の兄と2人の姉が居り、私は必要のない子供だった。

 領地運営もままならないのに、借金をしギャンブルに明け暮れる父親、そんな父親に逆らうことが出来ず日々怯えて暮らす母親。


 両親にとって私は予想外の妊娠だったらしい。ただでさえ生活が苦しいのに増えた子供。両親にとっても兄弟にとっても邪魔な存在でしかなかった。

 物心ついた頃から家族から邪険に扱われ、食事もろくに与えられなかった。機嫌の悪い兄や姉から叩かれ人の顔色を伺って生活する毎日だった。


 そんな僕でも文字を覚えるのも計算が出来るようになったのも人より早かった。


 僕の優秀さに最初に気付いたのは一番上の兄だった。親に知られると自分の立場が危ういと思った彼は僕を部屋に閉じ込めた。

 親の目に触れさせないように。


 誰とも会わず小さな部屋の中で過ごすのが僕にとっての日常になった。叩かれることが減った僕は本を読むことに没頭した。

 そんな日が続いたある日、僕に弟が出来た。またも予想外の妊娠だったらしい。


 しかしこの弟、カールが1人ぼっちだった僕の日常を変えてくれた。僕にとっての唯一の味方。



 カールが2歳のとき、ヴァレリー公爵に出会った。

 みすぼらしい格好をし、お腹を空かせていた僕らに手を差し伸べてくれた公爵は出会って1週間足らずで僕たちを養子として引き取ってくれた。


 養子にしたいと申し出た公爵に対して、両親は金を払えば好きにしていいと言ったらしい。

 公爵は大金を払い、僕たちに二度と関わらないという誓約書を書かせ引き取ってくれたそうだ。

 劣悪な環境から僕たち2人を救ってくれた公爵(養父)には感謝しかない。



 公爵家には子供が居なかった。養父(ちち)養母(はは)の関係は良好とは言えなかったが僕の本当の両親よりマシだった。養母も僕たちのことを可愛がってくれた。

 僕は公爵家に恩返ししたくて必死に勉強をした。


 4年間は穏やかな生活が続いていた。


 それがある日崩れた。



 その時はなぜこんなことになったのか分からなかった。


 養母が自殺を図った。一命を取り留めたものの、部屋から出て来なくなった。僕とカールが部屋に顔を出すと怒り狂ったように喚き散らした。


 "お前さえいなければ"と言われた。


 僕はその言葉がショックだった。可愛がってくれていた分その言葉は凶器となった。カールも同様だった。

 カールは本当の両親のことは覚えておらず、養子だと知っていても養父と養母のことを本当の両親のように思っていた。



 メイド達から夫人との話を聞いた養父は説明をしてくれた。


 義父には会ったことがないが子供が1人いること、その子の母親が亡くなったので子供を迎えに行こうとしたところこんな騒ぎになってしまったと。

 おそらく養母の"お前さえいなければ"はその子供に向けられたものだろう。


 僕とカールはあの日以来、一度も部屋に行くことはなかった。


 養母は良くなることなく亡くなった。



 本当の母親にも見放され、可愛がってくれていた養母にも傷付けらた。それに貴族のお茶会に参加すれば僕たちの外見しか見ない、親に甘やかされて育った我が儘な令嬢ばかりが群がってくる。口を開けば社交界の噂ばかり。その大半が誰かを陥れるものだった。

 私は女性に不信感を抱き、避けて過ごすようになった。



 そんなある日、養父に一緒に子供に会いに行ってほしいとお願いされた。


 何でも実の子に"休みの日に子供を放置するなんて酷い親だ"と言われたそうだ。僕からしたら養父の行動が酷いなんて全く思わない。むしろ休みの日ぐらい自由に行動してほしいと思っている。

 それなのに母親が亡くなり孤児院で生活する子供が、父親が会いに行ったのに僕たちのことを気遣ったのか?


 僕は不思議で仕方なかった。今まで会った女性にそんな人は居なかった。みんな自分が可愛くて仕方がないという令嬢ばかりだった。


 初めて彼女に会ったときその可愛らしさに魅了されたが、残念なことにその容姿とは似ても似つかない強気な性格だった。


 しかし誘拐され助け出された彼女は、まだ8歳なのに大泣きすることもなくただ声を我慢して泣いていた。

 この子は幼いのに甘えることもせず、虚勢を張って生きるしかなかったのだろうか。

 そう思うと胸が締め付けられた。

 この子を守りたい…そんな使命感に駆られた。



 エミーリアが屋敷に来てから、毎日が楽しくなった。僕の妹ではなくメイドという立場なのが気に入らないが、毎日一生懸命仕事をしている彼女はとても愛おしかった。


 出来ることならこの屋敷に閉じ込めて誰にも見せたくなかった。変なやつに目を付けられては堪ったもんじゃない。

 案の定彼女と会ったレオン、フィデル、ニコラスが興味を持った。

 特に注意すべきだったのがレオンだった。僕と同じ人種だと知っているからだ。フィデルとニコラスはレオンの気持ちを知れば簡単に身を引く。この国の王子に楯突く度胸はあの2人にはないからな。だから放っておいた。


 レオンはエミーリアのことを調べ始めた。エミーリアが義父の娘だと知れば無理矢理でも婚約を持ち出す可能性があった。僕はそこだけ注意し静観していた。

 しかしレオンは何かに戸惑っているのか…彼女について知っているようだが特に行動を起こすことはなかった。



 突然、レオンがエミーリアに公爵の娘だと知っていると告げたと知らされた。エミーリアはその時の状況を詳しく話してはくれなかったが容易に推察できた。おそらく好意を告げたのだろう。だがエミーリアはそれを拒絶した。


 僕は嬉かった。

 しかし別の男の影が見え隠れしている。レオンにばかり気を取られていたせいで見落としてしまった…だがそんな彼も離れてしまったようだ。


 詳しいことを聞きたかったのにオレリアに止められた。エミーリアも話したくないのか養父と僕を丸め込もうとしたようだ。

 初めてお兄様と呼ばれた僕は嬉さと恥ずかしさと愛おしさで胸がいっぱいになった。


 エミーリアが1人で外出する回数がグッと減り、たまに寂しそうな顔をしている。

 一時見せていた楽しそうな顔を見ることがなくなった。



 それから5年が経って騎士学校の試験日、「頑張ってね」と送り出したけど内心は落ちてほしいと願っていた。


 一緒に貴族学校に通いたい。騎士学校に通うと公爵家から出て行ってしまう。彼女が僕の目の届かない所に行ってしまうのが耐えれなかった。


 しかし僕の希望とは裏腹に二次試験まで通ってしまった。

 公爵家に来てからあれだけ頑張っていたのだから受からないはずはなかった。


 最終試験日、きっと養父も同じ想いを抱えているだろうと思いながら騎士学校へと向かった。



 エミーリアの試験は最後だった。

 そして対戦相手は屈強な身体をしたやつだ。彼女の身を案じた。だが彼が試験官の目を惹く活躍をしてくれればエミーリアは不合格になるかもしれない。


 "彼女に傷を付けることなく体力差を見せ付けて負かしてほしい"と彼に接触した。僕の願いを叶えてくれたらお礼はするよと…。


 日々のエミーリアの努力は知っている。しかしここまでの体格差があれば勝つのは難しいだろう。

 だからせめて肉体的にも精神的にも傷付いてほしくない。

 彼との力の差を知れば諦めがつくだろう…そう思ったのだ。


 僕が彼と話をして席に戻ろうと歩いていると、オレリアとジーナがこそこそ話をしていた。


『オレリアさん、エミーリアの好きな人のご両親が居ます』

『エミーリアがまだ手紙を待っている彼?』

『そうです。どうやら彼もこの試験を受けているらしく』

『では、彼と会えたってことですか?』

『少し話をしたと言っていました』


(何!?)


 彼女たちの話を聞いて5年前のことを思い出す。

 その時、彼の両親だという夫婦が騒ぎだした。どうやら息子が出てきたようだ。

 訓練場に目を向けると受験生が試合を始めたばかりだった。どっちがエミーリアの好きな人なのかと見ていると瞬時に勝負がついてしまった。

 圧倒的な差だった。勝った彼には天賦の才がある。

 その動きに目を奪われた。


 夫婦の様子から察するに勝った彼がエミーリアの好きな人のようだ。


「気に入らないな」


 見た目も悪くないし、強い。

 だが彼は5年もの間エミーリアにあんな顔をさせ続けてきた。2人が再会した今、彼がどう動くのか注意する必要が出てきた。



 気がつくともうエミーリアの番だった。


 訓練場で対峙した2人に会場がざわつく。養父も心配そうに見ている。


 開始とともに彼が動いた。

 彼の木刀を受け止めたエミーリアが飛ばされた。


「なっ!?」


 そして立ち上がってもいない彼女に攻撃をしかける。

 彼の攻撃を既の所で躱したが、木刀が頬をかすめ傷になっている。


 僕は手を握りしめ怒りを抑えていた。


 試験は彼の一方的な攻撃によりエミーリアは窮地に経立たされていた。

 周りを見ればみんな顔色が悪い。時間が経つにつれエミーリアがボロボロになっているからだ。オレリアとジーナは目に涙を浮かべ「もう止めて」と呟いている。


 このままだと不合格になる…エミーリアも同じように感じているだろう。


 僕は嬉しいはずなのにどこか悔しさを感じていた。あんなに頑張っていたエミーリアに負けてほしくないと心のどこかで思っていることに気付く。


 時間が経つにつれ彼は明らかに体力が減っていた。


(10分の試合のペース配分も考えれないのか)


 最初に飛ばしすぎたんだろう。エミーリアもそれに気付いたようだ。

 彼女が攻撃をしかけ始める。

 急に走り出した彼女は壁を駆け上がったと思ったら―――跳んだ。


 相手の背よりも高く、華麗に宙を舞うその姿に目を奪われる。



 背後を取ったエミーリアが攻撃した瞬間、試験が終わった。


 終わったことに一安心していると、彼の様子がおかしいことに気付いた。エミーリアに憎悪を向けている。

 そして試験官が立ち去ると木刀を振り上げた。


「危ない」


 思わず立ち上がり声を上げる。


 ―――エミーリアが傷付くことはなかった。

 1人の受験生が彼女に振り下ろされた木刀を受け止めている。

 よく見るとアイツだ…エミーリアの好きな人。


 とりあえずエミーリアが無事なことに安堵した。



 きっとエミーリアは合格するだろう。

 僕は結果を聞かず先に席を立った。養父は何も聞いてこなかったので僕が何をしに行くか分かってるのだろう。



 合格発表が行なわれているため人通りはほとんどない。

 僕は足早にある場所へ向かった。


 学校の校門で彼が来るのを待つ。

 すると割りとすぐに姿を現した。


「とんでもないことしてくれたね?」

「は?なんのことだよ?」

「あの子に傷を付けるなと言ったはずだ」

「あいつがトロいから仕方ないだろ?ほらさっさとしろよ」


 エミーリアの対戦相手は悪びれる様子もなく早く金を寄越せとばかりに手を出している。


「君は頭が悪いようだな。"彼女に傷を付けることなく体力差を見せ付けて負かしてほしい。僕の願いを叶えてくれたらお礼はするよ…"僕はそう言ったんだ。君は彼女に傷を付け、勝手に早々と体力を消耗し結果負けたんだ。挙げ句、最後に何をしようとした?」

「はっ、知らねぇな」

「どうせ、負けるはずないと思ってたんだろ?それなのに自分より小さい、しかも女性に負けた。だから腹いせに攻撃をしかけたんだろ?」

「………」

「どうせさっきの件で、来年以降の受験資格を剥奪されたんだろ?」

「何で!?」


 さっき言われたばかりのことをなぜもう知っているのかと問いたそうな顔をしている。


「さぁね。ちなみに君のことは調べたよ。名前、住所、家族…全て僕は知っているからね。今後、彼女に何かするつもりなら家族まとめてこの国で生活できないようにしてやるからな。変な気は起こすなよ?」


 顔を真っ青にして彼は去って行った。

 これで心配の種は1つなくなった。


「さてと…医務室はどこかな」


 きっと倒れて医務室に運ばれているだろうと推測し、そこへ向かう。

 オレリアとジーナは中でエミーリアを看てくれているらしい。医務室の前には養父、カール、ロイとラーシュが居た。

 それともう1人…。


「クラウス、戻ってきたか」

「えぇ、話は付けときました」

「ありがとう。そうだ、彼はデレク・ウィンストン君。エミーリアを助けてくれた子だ」

「ああ、ありがとう。僕たちの大事な家族を守ってくれて」

「…いえ…」

(クラウス、いいのか?勝手にそんなこと言って…彼は今度エミーリアと同級生になるんだぞ?)


 貴族の娘だとエミーリアの口からではなく勝手に僕が話をするのは不味いのでは?と養父は心配しているようだ。


養父様(とうさま)、大丈夫ですよ。彼は事情を知っていますから。そうでしょう?」


 僕の言葉にみんな驚いている。案外鈍いんだな…そう思っているとデレクは頷いた。


「何で?」


 カールも知りたそうにこっちを見てくる。


「それは………」


 僕の話を遮るように医務室の扉が開いた。


「目を覚ましましたよ」


 目を腫らしたジーナが教えてくれた。

 その言葉に僕たちは我先に医務室に入ろうとしたものだから扉でつかえている。

 そんな僕たちを見てエミーリアが少し笑ったのでホッとする。



 身体中に打撲はあるものの特に問題はないとのことで安心した。問題ないならすぐにでも家に連れて帰ろうと思ったがオレリアがそれを邪魔する。


 僕たちは早々に追い出された。


「オレリア…どういうことだ?」


 養父が説明を求めてオレリアを睨んでいる。


「エミーリアにとって今が一番大事な時間ですから邪魔しないでくださいね。今戻れば確実に嫌われますよ」

「なっ…。いつも何かあれば"嫌われますよ"の一言で片付けて…そう言えば私が引くと思っているんだろ?今日は引かないぞ。今からでもエミーリアを連れて帰ろう」


 踵を返した養父の手を慌てて掴んだのはロイだ。


「……旦那様、今日は引かないと一生口を利いてもらえないかもしれませんよ」


 珍しくロイが口を出している。


「……でも……」

「いいんじゃない?身をもって体験してもらえば。僕は嫌だから絶対しないけどね」


 本当に何も気付いてないのか、それとも知った上で認めたくないのか…おそらく後者だろう。だから僕の言葉で諦めたようだ。


 今日の所はエミーリアの頑張りを認めて目をつぶってあげるけど2人の仲を認めた訳じゃないからね。



現在執筆に詰まっているため一旦はここで完結とします。

また執筆が進みましたら順次、投稿したいと思いますので続きが読みたいと思われた方はブックマーク登録お願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです!! 作者様のペースで構いませんのでいつか続きが読みたいです…!
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