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勇者の仕事

消しゴムがストライキしたらどうします?

次の日、グリースたちが冒険者ギルドに到着した頃にはすでに怪力の勇者シテンはギルド内で若い男女2人ずつと同じテーブルを囲んでいた。


「おお!待ってたぞグリース!」

怪力の勇者が椅子から立ち上がってグリースの前に走り寄った。


それについて来る4人の男女がグリースとアンリたちにお辞儀をする。そして代表らしき赤髪の男が一歩前に出た。

「あなたがグリースさんとアンリさんですね、よろしくお願いします!」

「…おい怪力の勇者、何の話だこれは」


怪力の勇者は動じることなく笑顔で答えた。

「今回、お前とやる依頼はゴブリンの巣の発見及び殲滅だが、実際にメインで動くのは俺たちじゃなくてこいつらだ」

そう言って怪力の勇者は後ろの男女を指さした。


代表らしき赤髪の男と大きな剣を持った茶髪の男、そして青髪の盾を持つ女と緑色の宝石か取り付けられた杖を持つ空色の髪の女。


彼らは新米の冒険者らしい。


「俺は勇者の活動以外に新米冒険者の依頼に参加して彼らが危険な状況に陥った時だけ手助けをするって言う…まあ言わばボランティアをしてるんだよ」

「それに俺も付き合えと?」

怪力の勇者は笑顔でうなづいた。


「もう依頼の参加者にお前の名前書いちまった!」

「…はあ」


グリースは諦めて依頼に参加することにした。




帝国の北東に出てすぐに、王国と帝国の間にあるのとはまた違う森が存在する。

そこは主にゴブリンやオークと言った雑食の魔物が生息しており、外敵があまりいないため頻繁に討伐や殲滅の依頼が冒険者ギルドに入ってくる。

「そのおかげで冒険者の仕事が無くなることはないのは良いことって言えるのかはわからねえがな」

「確かに良いことじゃねえな」


先頭を新米4人に任せて怪力の勇者とグリース、そしてアンリは後方でのんびり4人の様子を見ていた。


依頼をこなすのは基本的に新米4人、グリースたちはもしもの時のための手助けなのだ。


「怪力の勇者とあろう者が、なぜこんなボランティアをしているんだ?」

短い時間とはいえグリースは怪力の勇者の人となりを見て、悪い人間ではないことはわかった。


しかし、なぜここまで人に尽くすのかがわからなかった。


勇者とは魔王を倒す存在であり、決して人に尽くす存在ではない。それに怪力の勇者は魔王を倒そうとは思っていないとグリースに言った。


つまり怪力の勇者は本来の役目を放棄してまでボランティアを行なっているのだ。


「グリースは冒険者が初任務で大怪我を負う確率を知ってるか?」

「知らんな」

グリースがそう言うと怪力の勇者は指を8本立てた。


「8割だ。その中には死者も含まれている」

「8割…多いな」

「これでも減った方だ、新人は金が無い奴が多い。そう言う奴ほど危険な討伐依頼を無理して受けようとするんだ、それで怪我して帰ってくる」

「なるほどな」

怪力の勇者は拳を握りしめる。


「おかしいだろ?怪我をすれば治療費がかかる、武器や防具が壊れれば買いなおす必要がある。そんな単純なことにも気付くことができないほどに若い奴は追い詰められてどんどん死んでいくんだ」

怪力の勇者の声に力がこもる。グリースは黙って勇者の言葉を聞いていた。


「俺はな、そんな奴らが無理せず金を稼げるようにしてやりたいだけなんだよ。金払いの良い討伐依頼を1人で、もしくはチームでこなせるようになるまでの手伝いがしたいだけなんだ」

「それは魔王を倒すよりも大切なのか?」

その言葉に怪力の勇者は即答した。


「もちろんだ、当たり前だろ?」


そう言い切った怪力の勇者はとてもグリースには眩しく見えた。




依頼は数日かかり、グリースは森の中を歩き回りながら怪力の勇者と様々なことを語り合った。

その間、アンリが不機嫌そうにグリースを見つめていたことは余談だ。


「グリース…お前アンリの親じゃねえのか!?」

「そもそも似てないだろ?」

「そう言う話じゃねえよ!」


グリースは怪力の勇者をシテンと呼ぶほどに心を許し、軽い冗談すら言い合う仲になった。

グリースは勇者の中には神速の勇者のような人でなしもいるが、シテンのような心優しい者もちゃんと存在するのだとはっきりと確信したのだ。

今まで曖昧であった勇者に対する恨みを払拭することができたのだ。


「そう言えば、グリースは武器も防具も持ってないが…本当に大丈夫だったのか?昨日の誘いに即答したから大丈夫なんだと思っていたが」

「ああ、問題ない。その時が来れば見せてやるさ」

「そりゃあ楽しみだな」


シテンとグリースはお互いに笑顔を見せた。


それからまた数日経ち、ようやくグリースたちはゴブリンの巣を発見した。


「…ここがゴブリンの巣か」

代表らしき赤髪がそう呟いた。

その視線にあるものは確かに巣であったが…


「…かなり…多いな」


大剣を持った茶髪男がそう呟いた。

彼らの目の前にあったゴブリンの巣、それは地面を掘り抜いて作られた巣穴だった。しかし、穴は一つではなくそこら中の地面に数え切れないほど作られていたのだ。

そしてグリースたちを無視して大量のゴブリンたちがどの穴からも行き来している。


これら全てが巣穴なのか、それともこれ全てで一つの巣なのか。



「これは想像以上だな」

シテンがそう言って赤髪の男の肩をポンと叩いた。赤髪が振り向き、顔を伏せて言う。

「…シテンさん。これは僕らの手に負えませんよ」

他の3人もこの光景を見て力なく顔を伏せる。

彼らだってゴブリン十数体程度なら苦労せず倒すことができるだろうが、さすがに何百…いや何千いるかもしれないゴブリンには対応しきれない。


「安心しろ、そのための俺達だ。お前達はこの事について帝国に報告しに行け…さすがにこれは異常事態だからな。」

「は…はい!」

シテンが走っていく4人を見て笑顔で右手を握りしめる。

そして、拳を振りかぶったその時。


「…待って」


アンリの声でシテンの動きが止まった。

今までグリースとシテンの会話を邪魔せず黙ってついてきていたアンリが突然シテンに声をかけたのだ、シテンは振り返ってアンリを見る。


その瞳は、シテンをじーっと見つめていた。


「…なんだよ、アンリ…どうしたんだ?」

「あなたばかり…グリースに、注目されてる」

「…ん?」

シテンは意味がわからず首を傾げたが、アンリは構わずシテンをじーっと見つめ…いや睨み付けていた。


「…私がやる」

「おいおい、冗談キツいぜ…お前このゴブリンの数ちゃんと数えられてんのか?」

「私がやる」

シテンの制止を聞かずに巣穴に向かうアンリを止めようとシテンがアンリの腕を掴む。


「バカ言ってんじゃねえぞ!お前は黙ってグリースの後ろにいろ!」


止まらないアンリをシテンは優しく突き飛ばす。それでもアンリは後ろにいたグリースの足元まで飛ばされて尻餅をついた。


「…わかった」

アンリは俯いてそう言った。

シテンはため息をつき、グリースを見た。

「グリース、お前はアンリを見ててくれ…サバイバル経験もあって冷静な奴だと思っていたが、何しでかすかわかったもんじゃねえ」


その時だった。


グリースが驚いた顔でシテンの方向を見ていた。

「『私』は後ろにいる」

グリースを見ているシテンの後ろ、ゴブリンの巣穴の方向から声が聞こえた。


そこには、アンリがいた。


「だから『私』がやる」

水筒が謀反を起こしました。

ストーブがデモを起こしました。


僕は何を書いているんだ。

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