82情報収集(1)
登場人物
ロウル 記憶喪失の主人公・交通事故死して狼に転生した(★4テンロウ)
ローゼリア ロウルを助けた貴族令嬢(人間)
ノリク ローゼリアの父親でハキルシア帝国宰相(人間)
シャミア 諜報部隊隊長(闇妖精)
帝国主要貴族(御三家)
ピュートル公 本拠レオグラード(エルシア西部で帝都南東部)
ニコラ公 本拠ワルシュア(大陸最西部)
パヴェル公 本拠バイカル(帝都西部)
4属国
ディビアン公国 国王ランスロット公(ピュートル派)・レオグラードの西
サマルトア公国 国王ロシュフォル公(ニコラ派)・ワルシュアの隣
マケルーノ公国 国王ケイシュール公(パヴェル派)・レオグラードと帝都の中間
フェニキア公国 国王ロベルト公(パヴェル派)・バイカルの西
次の日の朝、お嬢様について食堂へいく。
お父さんは早い時間から王宮に行くため、ミューゼル家の朝は早い。
お嬢様の報告だけで、俺に諜報部隊の隊長までつけてくれたお父さんにお礼を言わないとな。
流石に俺が「お嬢様の」お父さんと呼ぶわけにはいかないから、ノリク様と呼ばないといけないよな。
食堂に入ると、ノリク様は座って報告書らしき書類を読んでいたが、お嬢様と俺に気が付くと読むのを切り上げ、声をかけてきた。
「ローゼ、おはよう。
ロウル君、うちは朝が早いが大丈夫かね?」
「おはよう、お父様。
ロウルが、お父様にお礼を言いたいみたい。」
「ノリク様、俺なんかに諜報部隊の隊長をつけてくれてありがとうございます。
朝が早いのはすぐ慣れるので大丈夫です。」
俺はお嬢様の後に続いて話し、ノリク様に破格待遇のお礼を言う。
「ロウル君、昨日ローゼに話を聞いてね。
君の考えはとても参考になる。
是非とも色々な意見を聞かせてくれ。」
ノリク様はそう言って俺を労ってくれた。
「分かりました。
ノリク様の役に立てるよう精一杯頑張ります。」
「私は仕事で遅くなることが多いから、話を聞く時間はあまり取れないだろう。
できれば、ローゼに書いてもらって報告書みたいに纏めてくれると助かる。」
ノリク様は帝国の宰相をしていて忙しいだろうからな。
確かに俺の意見を纏めて、お嬢様に記録してもらうのがいいのかも。
「分かったわ。
お父様は忙しいから、私がロウルに話を聞いて内容を紙に纏めて報告するわね。」
お嬢様がそう言って、ノリク様との連絡体制が決まった。
そして、今日の夕方前には担当の諜報部隊の隊長がやってくるという話を聞く。
お嬢様を守るためにも、幅広く情報を仕入れて、ノリク様の役に立つぞ。
俺はそう思った。
朝の食事が終わって、お嬢様の部屋に戻ってくる。
今日は、講師がお嬢様に講義をしに来るらしい。
その間俺はすることがないので、邪魔にならないように本でも読ませてもらおうかな。
大丈夫だと思うけど、一応窓の外を警戒して見渡してみるか。
俺は、窓の外を見渡してみた。
すると、館の敷地外の近くの家の屋根の上からこちらを見ている姿を見つけた。
★5ケルベロスだ。
明らかにこちらの様子を窺っている。
お嬢様は部屋の中で講義を受けている最中だから声を出すわけにはいかない。
俺は窓越しに睨みつけたが、★5ケルベロスは意に介さずこちらの様子を見ている。
えっと、アーバインさんの警備隊はどこだ?
俺は2階の窓から屋敷の庭の様子を見渡す。
1人の警備員がしっかりと★5ケルベロスの方を見て警戒していた。
確か警備員は昨日は2人1組で動いていたはずだけど、もう1人はどこに行ったのだろう?
1人しかいないためか、まだ、★5ケルベロスが屋敷の敷地内には入ってきていないためか、攻撃を仕掛けるつもりはないようだ。
しばらくして、アーバインさんと数人の警備員が東の建物から出てきた。その中の1人の警備員がアーバインさんに★5ケルベロスを指さす。
なるほど、もう1人は隊長のアーバインさんを呼びに行っていたのね。
★5ケルベロスはアーバインさんの姿を確認すると、すぐに屋根の向こうに降りて姿が見えなくなった。
あっさりと引き上げたみたいだけど、明らかにこちらの様子を窺っていたな。
間違いなく、反乱軍の手の者だろうな。
大陸の東側をまとめたから、今度は西側の情報収集って所か。
それにしても、敵の本拠で堂々と情報収集とは大胆だな。
アーバインさんと相談して、今度やってきたら返り討ちにしてやろう。
その後、俺は本を読みながら時々窓の外を見るが、再度怪しい姿を見つけることはできなかった。
そんなことをしていると、お嬢様の講義が終わったみたいで、講師が帰っていく。
「お嬢様、大変です。
★5ケルベロスが、近くの家の屋根の上からこの屋敷の様子を窺ってました。
アーバインさんが外に出てくるとすぐに逃げていきましたが。」
俺は早速お嬢様に報告する。
「反乱軍もいよいよこちらの情勢を探りに来たのかしら。
お父様に話をして、警備員を増やしてもらうように頼んでみるわ。」
お嬢様は言うが、それは危険だと思う。
「お嬢様、不用意に新しい人を雇うと、これ幸いと敵のスパイが入ってきますよ。
余程しっかり身元調査をしないと危険です。
またやってくるようなら、アーバインさん達と協力して俺が返り討ちにしてやりますよ。」
「新しい人の採用については、確かにロウルの言う通りね。
それも踏まえてお父様に相談するわ。
あと、ロウル。屋敷を守ろうとしてくれる気持ちは嬉しいのだけど、警備はこれまで通りアーバインに任せてね。
今までアーバインがやってきたことを、ロウルが後からあれこれ手を出すのはアーバインもいい気がしないと思うから。
ロウルは支配の首輪をしているから屋敷の外には出ることができないというのもあるけど。」
お嬢様が言う。
確かに、アーバインさんからすれば、自分の仕事の領分をペットの立場の俺に立ち入られるのは嫌だろうな。
俺も調子に乗って口を出しすぎたかな。
それなら俺は、ノリク様のためのアドバイザーに専念するか。
「分かりました。
俺は、諜報部隊をつけてもらったわけですし、そちらの方で頑張ります。」
俺はそう言って、諜報部隊の隊長が来る夕方まで、お嬢様の棚の本を色々読んで、幅広い知識を入れておくことにした。
夕方になって、お嬢様の部屋をノックする音がする。
「諜報部隊のシャミアです。ノリク様の命を受けてまいりました。」
女の声だ。
諜報部隊の隊長って聞いてたけど、女なんだ。
お嬢様の部屋に入ることになるから、ノリク様も気を使ったのかな?
お嬢様が返事をして、シャミアさんを部屋に入れる。
俺は、シャミアさんの姿を見て驚く。
肌が黒いのだ。それだけでなく、耳が長い。そして、人間よりも細身である。
ありていに言って、前世のゲームにいたダークエルフの姿そのものだ。
「シャミア、お疲れ様。
こちらの★4テンロウがロウルよ。
お父様のアドバイザーをしてもらうことになったから、ロウルの知りたい情報を集めてほしいの。お願いね。」
お嬢様が俺を紹介する。
「はい、かしこまりました。」
シャミアさんが答える。
モンスターの指示を受ける立場になっても嫌な顔一つしないのは立派だな。
「ロウル、こちらがお父様の諜報部隊長の1人のシャミアよ。
シャミアは闇妖精だけど気にしないでね。
世間では闇妖精には偏見があって表の仕事につくのが難しいの。
お父様はそんなこと気にせずに、実力のある人は採用するんだけど。」
続いて、お嬢様がシャミアさんを紹介してくれる。
この世界ではダークエルフのことを闇妖精と言うのか。
確かに、外見的に偏見で見られているのかもしれない。
俺もノリク様みたいに偏見を持たないようにしないといけないよな。
「ロウルです。
ノリク様への助言のために、色々情報を集めていただきたいのでよろしくお願いします。」
俺はシャミアさんに挨拶する。
シャミアさんはモンスターの言葉が分かるようだ。
「シャミアです。
アドバイザーが狼族と聞いて驚きましたが、ノリク様は種族で差別されない方ですから納得です。
ロウル様のために情報収集に動きますので、どのようなことでも仰ってください。」
俺、昨日拾われたただのペットなんだけど、シャミアさんに様付けまでされちゃってるよ。
ノリク様は、昨日の俺の意見を余程気に入ってくれたのだろうか。
「俺、ただのペットですから様付けまでしてくれなくていいですよ。」
俺は言うが、
「私はアドバイザーであるロウル様の下について諜報活動を行うようノリク様から命じられておりますので、そのようなわけにはまいりません。」
はっきりと断られてしまった。
まあ、俺がこれ以上言うのもなんだから、このままにしておくしかないけど。
「今日は、今までの諜報活動の中で分かっていることを教えてください。
最初に聞きたいのは、ハキルシア帝国の有力貴族と4属国の指導者について。
特に、反乱軍と通じそうかどうかについて現段階での情報を知りたいです。」
俺はシャミアさんに聞く。
シャミアさんの話によると、
帝国の大貴族は御三家と呼ばれる初代皇帝の血を引く帝国三大貴族で、皇帝陛下の血筋が絶えた時に、この3大貴族から新しい皇帝が選出されるとのこと。
4属国は、武力で大陸を平定した初代皇帝に早くから恭順したため、ハキルシア帝国建国後も国土が安堵された小国で、現在も帝国の中堅貴族並の国力を持っているようだ。
御三家の筆頭ピュートル公は、直系最後の皇帝であるイワン皇帝にとって代わる野心を持っているらしい。帝都の南東でエルシアに近いレオグラードを本拠にしており、既に反乱軍と何度も使者のやり取りをしているとのこと。近隣の貴族とも使者のやり取りをしており、特に4属国の1つのディビアン公国のランスロット公がピュートル公と歩調を合わせているようだ。
「ピュートル公が反乱軍に加担する可能性は、かなり高そうですね。
反乱軍の目的が表面通りハキルシア帝国からの独立だとすれば、ピュートル公を支援して帝位につけ、ハキルシア大陸の分割統治を目論んでいる可能性は十分にあり得ます。
メキロ家が大陸の東側だけで反乱を起こすには国力的に厳しいと思っていましたが、ピュートル公との密約ができているのであれば納得です。流石、反乱軍のアドバイザーと言ったところでしょうか。
とは言え、推測だけで動くわけにはいかないですので、ピュートル公が反乱軍に加担することが確定しているか確認したいですね。
そのために、ピュートル公が近隣貴族と使者を使ってどんなやり取りをしているかと使者を受けた相手側貴族の反応の調査をお願いします。
これで、情報のピースをつなげればピュートル公の本意が見えてきそうです。
あと、ピュートル公が軍を動かす気配があれば急いで知らせてください。
ディビアン公国についても、どこかに使者を送ったなどの具体的な動きを追ってください。」
俺は、シャミアさんにお願いする。
「あと、お嬢様。
ノリク様にお願いして、皇帝陛下からピュートル公に反乱軍の鎮圧を命じることはできないでしょうか?
地理的にも一番近い大貴族ですし。本来ならピュートル公が鎮圧にあたるのが筋でしょう。
ピュートル公は、反乱軍の勢いを見ながら加担するかどうか両睨みの可能性も十分あり得ます。
ダメもとで餌を撒いて、反乱軍の鎮圧に向かわせることができれば、かなり大きいですので。
断られるか偽装で引き受けてくれるかもしれませんが、一度目の調査結果を見て偽装対策を考えます。」
俺は、お嬢様を通じてノリク様にも提案をする。
「偽装で鎮圧を引き受けた場合の対策って何をするの?」
お嬢様が聞いてくる。
「ピュートル公が使者を送った貴族の誰かに目付け役を頼みます。誰に頼むかはシャミアさんの調査結果次第ですが。
本当に受けてくれたのであれば、目付け役がいたところで問題ないですからね。」
俺が答える。
お嬢様は納得して、俺の話を記録してくれた。
次に、御三家のニコラ公について聞く。
ニコラ公の本拠は、帝都よりも遥か西のワルシュア。4属国の1つサマルトア公国も隣にあります。領地の国力は御三家の中では一番小さいが、近隣は小貴族ばかりであるため、ハキルシア大陸最西部では絶対的な力を誇っているとのこと。
今のところ、反乱軍に対して何か動いた形跡はないようだ。
ニコラ公本人も大陸西部で力を振るえればよいという感じで、帝都方面にはあまり関心がないらしい。
「ニコラ公は地理的に一番遠いですし、静観を決め込んでいるのかもしれませんね。
一通りの監視をしておいて、特別な動きがなければ様子見でよさそうですね。
サマルトア公国も同様に、定期的に動きがないか報告をお願いします。」
俺は、シャミアさんにお願いする。
「お嬢様。
諜報に関しては様子見でいいですけど、ニコラ公にも反乱軍の鎮圧のために動いてもらいたいですね。
ノリク様から、危機感をあおってもらい軍を出してもらうようお願いできないでしょうか。」
俺は、お嬢様を通じてノリク様にも案を出す。
続いて、御三家最後のパヴェル公について聞く。
パヴェル公の本拠は帝都の西のバイカル。地理的に御三家の中では帝都に最も近い。領地の国力はニコラ公よりはやや上ですが、ピュートル公よりは大分下とのこと。
ピュートル公と仲が悪く、何かと張り合っているようだ。反乱の発生前から、ピュートル公と仲の悪い貴族向けに使者のやり取りをしていた模様。
「パヴェル公が反乱軍と使者のやり取りをした形跡はありますか?」
俺はシャミアさんに聞く。
「調べた限り、全くありません。」
ピュートル公の事を把握できているシャミアさんが言っている時点で本当にないと考えていいか。
「ピュートル公が反乱軍に加担した場合、パヴェル公を中心に鎮圧軍を編成しないといけませんね。
お二方が争った場合の西側貴族の敵味方の色分けの調査をお願いします。
貴族同士の仲の良し悪しから、調略を仕掛けることを検討したいですので必要な情報が欲しいです。」
俺はシャミアさんに頼む。
「あと、ノリク様はパヴェル公との関係は良好ですか?」
「イワン皇帝が帝位についたときにお父様が宰相になったことを快く思っていないみたいで、パヴェル公との関係はあまり良くないわ。かと言って、ピュートル公とも良くはないけど。御三家の中で関係が良好なのはニコラ公だけね。」
お嬢様が教えてくれた。
「正直、ピュートル公とパヴェル公の仲が悪いだけでも厳しいですね。
国力からの想定兵力を考えると、近隣貴族の兵も含めるとしても、お二方が協調するか、どちらかとニコラ公が協調しないと、反乱軍全軍と正面から戦えませんから。
そこへノリク様と関係も良くないとなると、どこから手を付けるべきか。
まずは、ピュートル公に本当に反乱軍を鎮圧させる方向で進めつつ、失敗した時のためにパヴェル公を中心に鎮圧の準備が基本方向ですが、このままだと厳しいですね。
先に、属国の残りの2つについて教えてください。」
俺は残りの4属国について聞く。
マケルーノ公国。地理的に帝都とピュートル公の本拠レオグラードの中間に位置している。地理的にピュートル公に近い割には、パヴェル公と懇意にしているようで、パヴェル公と頻繁に使者のやり取りをしているとのこと。
国王のケイシュール公は野心家のようで、反乱軍に加担しているピュートル公と戦い、イワン皇帝の後見役を目指すようパヴェル公に進言している模様。
「地理的にパヴェル公とピュートル公が戦えば、前線になるのは自分達マケルーノ公国ですよね。
マケルーノ公国の周辺って、地理的にピュートル公派の貴族が多くないですか?」
俺は聞くが、
「はっきり言って、2公が戦えばマケルーノ公国は周辺全部が敵になるでしょうね。
ピュートル公から仕掛けられたら、パヴェル公の援軍が到着するまで持つかどうかも怪しいところです。」
シャミアさんが答える。
「正直、俺には現段階でケイシュール公の考えが分からないです。
軽率な行動をしているように見えて、実は相当な策士なのかもしれません。
ケイシュール公の本意を知るために、使者のやり取り、本人の行動と公国としての動きを追ってください。
あと、マケルーノ公国内部で特別な政策をしていないか調査をお願いします。
マケルーノ公国に関しては、重点的な調査をお願いします。」
俺はシャミアさんに頼む。
マケルーノ公国国王ケイシュール公。
俺は、直感でこいつに危険な匂いを感じた。
そう、敵のアドバイザーであるウルに感じたのと同じ危険な匂いだ。
だが、味方になるのであれば、ケイシュール公は現状の不利を覆す逆転のカギとなる可能性も秘めているので、重点的に調べることにした。
4属国最後、フェニキア公国。国王のロベルト公は、パヴェル公と懇意にしている模様。地理的にはバイカルよりもさらに西。反乱発生前後で何か動いた形跡はないようだ。
「フェニキア公国もサマルトア同様、様子見で良さそうですね。
何か動きがあれば報告をお願いします。」
俺はシャミアさんに頼む。
とりあえず、帝国主要貴族はこんなものか。
続いて、反乱軍絡みについて聞こう。
20221224
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