55ノアの迷宮(6)
登場人物
ウル(主人公)狼に転生した元人間。(★3シルバーウルフ)
パワー ウルの仲間モンスター。(★4モサ)
ロウガ ウルの体の元の持ち主。
ケルティク ロウガの友人でメキロ伯爵配下(★4ヘルハウンド)
俺達は、戦術の試練を突破した。
そして、再び最初の部屋に戻ってきた。
残るのは判断力の扉だ。
「流石に連戦で疲れたぜ。ちょっと餌を食べないか?」
パワーが言う。
「そうだな。俺もお腹すいた。
残りは判断力と最後の試練だけだよな。
案外早く手に入れられるかも。」
俺達は、一旦食事をとることにした。
保存食は干物・干し肉だった。
しかも飽きないように鳥・魚・牛・豚と色々な肉を使ってくれている。
水は水袋に入っているが、桶も持たせてくれたので、桶に入れてから飲むことができた。
人間みたいに器用にできなくてもちゃんと飲食できるよう考えてくれていたんだ。
エルモンドの人達って、俺達が何を不便としているのかよく分かった上で必要なものをきっちり用意してくれたのでとてもありがたい。
食事を終えて腹を満たしたので、俺達は最後に残った判断力の扉に入る。
部屋の手前に大きな台座があり、文字が書いてある。
その奥にはいくつもの小さな台座があり、それぞれの台座の上にアイテムが乗っている。そして、奥に扉がある。
まずは、手前の大きな台座の文字を読んでみるか。
「扉の奥には、4匹の強敵が待っている。
この台座の上にある宣言の首輪を持ち、
奥の小さな台座の中から1つアイテムを選んで持ち込み、
4匹の強敵の中から最も手強き相手の首に宣言の首輪をかけよ。」
台座の上にはネックレスと言った方が適切だと思える首輪が置かれていた。
これが宣言の首輪らしい。
「とりあえず、この台座の上にある首輪を扉の奥にいる強敵にかければいいみたいだ。」
「結構でかいな。扉の先にいる敵もでかいってことか。」
「でも、襲ってくる敵にかけるのは結構厄介だな。
我らには器用に持つこともできないからな。」
「パワー、前足でこれを持って首にかけられるか?
俺達狼の足じゃ無理だけど、パワーなら後ろ足で立てば持てないか?」
「俺様、指の間に挟むことはできるけどよ、人間みたいに握って持つのは無理だぜ。」
「それでも俺やケルティクがやるよりはいいだろ。ちょっとかける練習をしようか。」
俺は、パワーに動き回る俺やケルティクに首輪をかける練習をしてもらった。
最初は慣れなかったが、しばらく練習すると動きが止まった瞬間を狙えば首輪をかけられるようになってきた。
「それじゃあ、俺様が首輪をかけるから、奥にいるどいつにかけるのか教えてくれよ。」
「分かった。ケルティクも分かったらパワーに大声で伝えてくれ。」
「了解した。」
まずは、パワーが首輪をかける担当にすることが決まった。
「あと、小さな台座の中から1つだけアイテムを持って行っていいと言っていたな。」
「1つずつ確認するか。」
俺達は1つずつ、小さな台座に乗っているアイテムを見に行った。
「マジックバリア…メンバーの誰かがこの首輪をつけていると、仲間全員に常にリフレクションがかかる。技を跳ね返した後も自動でリフレクションが再度かかる。」
「これを選ぶと、ダメージ技は全部相手に跳ね返せるようだな。」
俺が言う。
「無茶苦茶強そうだぜ。」
パワーが言う。
「相手が遠距離技を使ってくるとは限らないが。」
ケルティクの言う通り確かに相手が違うとはずれかもしれないな。
「とりあえず、一通り見ようか。」
それじゃあ2つめ。
「精神集中の冠…メンバーの誰かがこの冠をつけていると、仲間全員に常にコンセントレイトがかかる。また、デストラクションなど敵の技で精神集中が乱されることがなくなる。」
「これを選ぶと、絶対に技の精神集中を邪魔されなくなるみたいだな。」
「これも強そうだぜ。」
「これはどんな相手でも確実に効果がありそうだな。」
確かにそうだな。
「それじゃあ、次行くぞ。」
3つめ。
「復活の翼…メンバーの誰かがこの翼をつけていると、仲間全員が1人1回ずつ戦闘不能になっても生命力完全で復活する。」
「これを選ぶと、負けても1人1回ずつは復活できるみたいだな。」
「なんか、どれも強そうで迷うぜ。」
「これもどんな相手でも確実に効果がありそうだな。」
4つめ
「俊足の腕輪…メンバーの誰かがこの腕輪をつけていると、仲間全員が敵の近接攻撃を確実にかわせるようになる。」
「これを選ぶと、近接攻撃が確実にかわせるようになるみたいだな。」
「これも強いな。どれも強くて訳分からなくなってきたぜ。」
「これは相手が技や遠距離ばかりだと役に立たないな。」
最後
「マジックハンド…この手を装備している者は、宣言するだけで狙った相手に確実に宣言の首輪をかけることができる。」
「これを選ぶと、首輪をかけるのに必ず成功するみたいだな。」
「なんか、これだけ弱く見えるぜ。」
「相手が素早くて首輪かけられないなら役に立ちそうだな。」
同じアイテムでも俺とパワーとケルティクでは評価が分かれるな。
強敵も評価が分かれたらどうしよう?
「この試練は、あらかじめ技をかけておいていいのか?」
それによって選択が変わってきそうなので俺は迷宮の主に聞いてみた。
「すべての支援をかけた状態で入って構わぬ。
敵も自分に全ての支援をかけた状態で待っている。」
お互いフルバフスタートか、これは相当な強敵だよな。
「自分に支援ってことは、敵は各々が自分だけに強化技をかけるということか?」
ケルティクが迷宮の主に聞く。よく気づいたな。
「その通りだ。」
迷宮の主が答える。
俺達は予め誰かの支援を全員にかけることができるが、敵は強化を自分にしかかけることができないらしい。
同じように見えても、これは明確に敵にハンデがあるな。
ハンデ付きでも戦えるくらい強敵だろうから、油断は禁物だが。
「一番の強敵って、戦えば明らかに分かる奴なのか?」
俺は気になったので迷宮の主に聞いてみる。
「汝ら全員に対して最も手強いと判断する相手だ。
メンバー構成が変われば答えも変わる。」
「つまり、俺達3匹で戦う場合に最も相性が悪い相手とも言えるのか?」
「その判断で構わぬ。」
「聞いたか?」
俺は、パワーとケルティクに言う。
「俺様達にとって一番厄介な奴を見つけろってことだよな。どんな奴なんだ?」
「我らは3匹合わせれば、肉体技も精神技もバランスよく使えるはず。判断するのも難しいな。」
「ただ、持っていけるアイテムに肉体技だけ無効とか精神技だけ無効とか言うアイテムがある理由は分かった。
迷宮に挑む奴がどっちかに偏った能力を持っていれば、苦手な方を補えるわけだからな。」
「それは分かるのだが、我々の場合はそうはいかないが。」
「あと、もう一つある。敵は予め自分にしか強化をかけない。
自分の持っている強化技を仲間にはかけないってことだ。」
「そうみたいだな。
だとすると、敵は皆一点に秀でた能力を持っているのだろうな。」
多分ケルティクの言うとおりだと思う。
「肉体攻撃特化なら離れればいいし、精神攻撃特化なら殴り合いに持ち込めばいいし、判断が難しそうだな。」
「ここでこれ以上考えても仕方ねえんじゃないか。
持っていくアイテムを選ぼうぜ。」
俺達の考えが迷走し始めると、だいたいパワーが脱線を戻してくれる。
マジックバリアと俊足の腕輪はないよな。恐らく一部の敵だけにしか効かないし。
だけど、残りの3つは迷うな。
「パワーとケルティクはどれがいいと思う?」
俺は参考になればと2匹に意見を聞く。
「俺様は冠がいいと思うぜ。技を確実にかけられるなら安心して戦えるぜ。」
「私は翼かな。長時間戦えればそれだけ相手を見極めることができそうだからな。」
その2つは俺も迷った。
「俺は、マジックハンドも迷った。見極めさえすれば、勝ち確定だからな。」
「手は、強くならねえからな。相手が首輪かけられないくらい素早いとかなければ役に立たないんじゃねえか?」
パワーが言う。
「パワーが、首輪をかけるのに苦戦しないのなら無理に手を選ぶ必要はないか。
それなら、崩れにくくなる冠か、崩れても時間が稼げる翼か。
戦闘に勝つのが目的なら冠だと思うが、強敵を見極めるのなら翼の方がいいかな。」
「翼ってことは、戦闘に負けることも考えて動くってことだよな?」
パワーが聞いてくる。
「ああ、そうだ。
パワーはでかいから簡単には倒されない。
俺達の中で一番最後まで残れるはずだ。
そして、パワーがかける首輪を持っている。
俺とケルティクが負けて倒されるまでに何とか判断する。頼むぞ。」
「分かったぜ。それじゃあ、翼をもらうか。」
パワーが復活の翼を手に取ると、パワーの背中に復活の翼が装備された。
「次は、予めかける強化技を確認しよう。」
「水中技は必要ないと思うが、念のためそれ以外は全部かけるということでよいか?」
ケルティクが言ってくる。
「敵がディスペルマジックをかけてきたとき、かけている技の数が多い方が効果が分散されて消えにくくなる。
だから、意味がなくても水中技もかけよう。」
俺は、テンマのコーチに言われた助言内容をケルティクに言う。
「なるほど、そう言う考えもあるか。ならば可能な技は全部かけることにしよう。」
俺達は予め全員にかける強化技を確認する。
生命力を徐々に回復する リジェネレーション
筋力を上げる ストレングス
移動力を上げる スピード
空中移動ができる フライト
行動が妨害されなくなる フリーアクション
属性攻撃をある程度防ぐ エレメンタルガード×全6属性
持久力を上げる スタミナ
水中で呼吸ができる ウォーターブリーズ
高速で泳げる フィッシュムーブ
「これだけだな。」
「リジェネレーションは俺がかける。
好相性技だから回復量が上がるからな。」
「それじゃあ、ストレングスとスタミナは俺様がかけるぜ。」
何かボーナスがあるかもしれないし、好相性技であるパワーにかけてもらった方がいいな。
「私はそれ以外でかけられるものを順番にかけていこう。
エレメンタルガードは6属性全部かけておいた方がいいな。」
確かにそうだな。敵の攻撃属性は分からないし、敵のディスペルマジックの効果も分散されるしな。
俺達は時間をかけて全員に強化技をかけていく。
十分程度の戦闘なら効果時間を気にすることはないだろう。
「扉に入る前に大技の精神集中終わらせておかないか?」
支援技がかかった後、俺はふと思って言ってみる。
「なるほど、最初に大技を1発撃てるのは大きいな。」
「俺は、アナライズマジックのつもりだけどな。相手を見極めるためにも。」
「私はディスペルマジックにしておこう。」
「俺様は、大技がないからインパルスだな。
それじゃあ、扉に入るぜ。」
俺達は、扉に入った。
奥は広めの部屋になっており、中には象・鳥・竜・人間の1人と3匹が待っている。
人間が混じってる時点で種族とか進化ランクとかで判断できないよな。
象は前世のそれよりもでかい。多分ストレングスか何かをかけているのだろう。パワーと同じ肉弾戦特化タイプだろう。
鳥は、そんなに大きくない。リーザと同じくらいか。なんというか、素早さ特化のような気がする。
竜は、鱗が青いからブルードラゴンぽく見えるがよくわからない。
人間は20代後半の男のようだが、装備は杖なので精神系だろうか。
象が前にいて、残り3匹が後ろに控えている感じだ。
「お前達か、挑戦者というのは。」
象が言う。
「熊1匹と狼2匹だけとか舐めているのか?」
鳥が言う。
「復活の翼を装備してます。全員1回ずつ蘇ってきますよ。」
竜が言う。
「なら、2回ずつ倒せばいいだけのこと。」
人間が言う。
人間の姿をしているのにモンスターの言葉で話してくる。
普通の人間じゃないということだな。
余裕をかましているのかわからないが、いきなり襲ってくる気配がない。
が、パワーがインパルスを放って戦端を開いた。
象も精神集中が終わっていたのであろうアースブレードの技を開放する。パワーと象で一騎打ちが始まった。
それと同時に、ケルティクが象にディスペルマジックをかける。
象の強化技が切れたのか、象が小さくなる。
元の大きさは象の方がかなりでかかったが、これで一応パワーの方がでかくなった。互角以上に戦えるはずだ。
俺は竜にアナライズマジックを使う。
最初は人間にかけることも考えたが、復活の翼の効果を知っていてそれを仲間に伝えた事実から、俺は竜の方を警戒した。
ストーンスキン・ディスペルガード・不明探知技3種・精神集中完了アナライズマジック
なにこれ?
不明探知技が3つって何よ?
しかもアナライズマジックを準備中とか。
竜は戦闘するよりも探知することに特化したタイプか。
竜が技を俺に使ってきた。アナライズマジックだな。こっちは誰に使っても見える効果は同じなんだけどな。
人間が用意していたのであろうブリザードの魔法を放ってきた。
俺達は散開しているから、範囲魔法と言ってもケルティクにしかかからない。
しかもエレメンタルガード「冷気」がかかっている。
しかし、ケルティクはダメージを受けていた。人間だけあって精神力というか魔力が高いらしい。
鳥がケルティクに向かって飛んでいく。
早い。ケルティクの近くを飛びぬけるだけでケルティクの体に傷がついている。
俺達の中で一番素早いケルティクが鳥の動きに全くついていけてない。
象は近接特化・鳥は素早さ特化・人間は魔力特化・竜は探知特化っぽい。
現在象の強化技をあらかた消し、パワーは強化されているので象は比較的怖くない。
目下のところ一番厄介なのは素早さ特化の鳥か。
ディスペルマジックすらかわしてきそうだ。
俺は人間にサンダーを放つ。
しかし、準備中の技が途切れない。コンセントレイトだな。
なら、殴り合いに行く。精神特化なら俺でも戦えるはず。
俺は人間に向かって走っていく。
人間は俺にフレイムストライクを放ってきた。
エレメンタルガードのおかげで1発目だけは痛くない。
エレメンタルガードが残っているうちに近接して魔法をかけられないように肉弾戦に持ち込まないと。
「熊にディスペルマジックをしてください。」
竜が人間にそう言いながら、俺の前に立ちふさがる。
こいつは精神力に優れる人間を肉弾戦で抑えようとする俺の狙いを邪魔するだけでなく、現状唯一互角以上に戦っているパワーのアドバンテージまで消しに来た。恐らく人間は敵の中で一番精神力が高い。パワーにかけた強化技が根こそぎ消される可能性がある。
しかも竜には防御技もいくつかかかっている。俺の力では簡単に倒せない。
こいつ、攻撃力はないくせに邪魔でしょうがない。
ちょっと待て。こいつがいなければパワーは象に勝てそうだよな。
近接戦に持ち込めば人間相手には優位に戦えるはず。
素早い鳥も厄介だが、範囲技はかわせない。
こいつらは、うまくやれば何とかしようがある。
だが、戦場全体を見渡し、俺達が今一番されたくないことを仲間を使ってでも的確にしてくるこの竜はそうはいかない。
俺は、パワーの方を見る。
象相手に優位に戦っている。
「パワー、この竜だ。竜に首輪をかけてくれ。」
俺はパワーに向かって叫ぶ。
パワーは象を一旦押し倒すと竜に向かって走り出した。
鳥は相変わらずケルティクの相手をしているだけだ。
人間は技の準備が終わったみたいで、パワーにディスペルマジックを使ってきた。
パワーの技が消されてパワーが小さくなるが、パワーは構わずに竜に突っ込んできてくれた。
俺も竜がかわせないよう精一杯邪魔をする。
パワーは竜に首輪をかけることに成功すると、敵の姿が全員消えた。
「終わったのか?」
傷だらけになりながらケルティクが聞いてくる。
「すぐに突破したと言ってくれないな。判定中なのだろうか?」
今までと違ってすぐに成功したとの声が聞こえなくて、俺はちょっと不安になった。
「ウル様、なんであの竜が一番手強いと分かったんだ?」
パワーが聞いてくる。
「パワー、お前は象1匹だけなら勝てそうだっただろ?」
「そうだな。」
「人間は魔法特化で肉弾戦に持ち込まれたら弱そうだった。
鳥は素早さ特化で範囲技に弱そうだった。
こいつらは個々の力は強いが、うまくやれば対処できるんだ。そこまで手強くない。
だけど、竜だけはそうはいかない。
竜は、探知・分析力特化だった。
あいつは、豊富な探知技で戦況を正しく分析することができて、俺達が何をされたら一番困るかを判断できる頭もあって、さらにそれを仲間を使ってでも的確に実行しようとしてきた。
このまま行ったら、竜の判断により、パワーにかかっている技が全部人間に消されて象とパワーの力関係は逆転され、人間の高魔力技が安全な後ろからバンバン飛んでくる状態になるところだった。
そうなると、もうどうしようもなくなっていたからな。
だから、竜が一番手強いと思った。」
「確かに、象は俺様しか見てなかったな。
周りが見えてない奴はそこまで怖くなさそうだな。」
パワーが同意してくれた。
「鳥も目の前の私しか見ていなかった。
敵の中で唯一戦場全体が見えているというのは確かに厄介だな。」
ケルティクも同意してくれた。
「人間は最初に定石のはずのディスペルマジックをしてこなかったし、竜の判断に頼ってた感があったしな。」
そんなことを言っていると、
「見事だ。汝らは判断力の1つ目の試練を突破した。」
と言う声が聞こえてきた。
そして、部屋の奥に扉が現れた。
すぐに言ってくれないから不安になったじゃないか。
ケルティクの傷と生命力も回復してくれたようだ。
それじゃあ、先に進むか。




