100作戦(1)
登場人物
ウル 元連合国アドバイザー(★4テンロウ)
オーウェル 連合国盟主・ウルの盟友(人間)
ピュートル公ハキルシア帝国3大貴族・連合国と同盟(人間)
パヴェル公 ハキルシア帝国3大貴族・連合国と敵対(人間)
ニコラ公 ハキルシア帝国3大貴族・中立(人間)
ノリク 連合国やオーウェルの宿敵(人間)
ローゼリア ノリクの娘(人間)
「分かりました。
それじゃあ、書いてもらってきますね。」
俺はそう言って、オーウェルさんの部屋を後にする。
「お嬢様、戻りました。」
俺はお嬢様のいる部屋をノックする。
すぐに扉が開けられ、お嬢様が待っていた。
「ロウル、どうだった?」
お嬢様が聞いてくる。声の感じからダメだったと思っているのかな。
「手紙を送ることについては、オーウェルさんの許可は下りましたよ。
ピュートル公の許可も下りるかどうかはまだ分かりませんが。」
俺はそう答える。
「ロウル、すごいわ。
連合国のアドバイザーではなくなったのに、許可を出してもらえるなんて。」
「手紙を出す建前として、ノリク様をピュートル公側に引き抜くという名目を使いました。
なので、お嬢様には、今安全に過ごしていることと、タンゴの件を書いて、ノリク様にピュートル公に付いてもらえないか書いてもらうことになります。
ノリク様の待遇については、俺がピュートル公と最大限交渉しますので。」
「それなら、私を人質にしてお父様に撤退を迫るようなことはしないの?」
お嬢様が聞いてくる。
「それは俺の流儀に反しますからね。
オーウェルさんもそれはしないみたいですね。」
「でも、それじゃあ私を生かしておく意味がないんじゃないかと思って。」
「オーウェルさんは、そんな非道なことはしない方ですから安心してください。
戦争が終わった後、お嬢様が幸せに暮らせるよう考えてくれるそうですよ。
いずれお嬢様の婚約者も探してくれるとも言ってましたし。」
俺はそう言ってお嬢様を安心させる。
「オーウェル様が、私に婚約者を?」
「ええ、それでどんな人がいいか俺が聞いておくことにもなっています。」
「オーウェル様って、優しくて紳士的ですよね。
できればオーウェル様のような方がいいのですけど、今の私は贅沢を言える立場ではないし。」
おやっ?
これはお嬢様、オーウェルさんに気がある?
「お嬢様、オーウェルさんに気があるのですか?」
「私が憧れているだけ。
大体、オーウェル様が自分の父親を殺した相手の娘を好きになるとかありえないでしょ。」
これは脈があるかもしれない。
お互い、父親のことで遠慮しあってる?
「オーウェルさん、ノリク様と対決して殺す気満々でしたけど、そんな人でも憧れますか?」
ここは、少しずつ確認してみよう。
「オーウェル様の立場を考えれば心情は分かりますし、私から恨んだりしないわ。」
よしっ、これは行けるかもしれない。
「お嬢様のように割り切れる方ばかりじゃないですからね。」
「私は贅沢を言える立場じゃないし、面倒を見てもらえるだけで感謝しないと。
コンスタン様のような方でなければ大丈夫だから。」
あれは比較対象として酷すぎる。
でも、お嬢様としてはそれ以外の男性とまともに付き合ったことがないのだから、そう考えるのも止むを得ないか。
もし、オーウェルさんとお嬢様が結ばれるなら、今後は色々とやりやすくなるかも。まあ、こちらもおいおい考えていこう。
今は、本題を進めないと。
「分かりました。
それについては、いずれ話をしておきます。
本題に戻りますけど、オーウェルさんはお嬢様を人質に使うような人ではありません。
そして、お嬢様が手紙を出す名目として、連合国側に有益な理由が必要な訳です。
ですので、俺がノリク様を引き抜くという名目を作って納得してもらっています。
成功するかと言われると厳しいと思いますけど、最大限努力します。
お嬢様には、タンゴ絡みの話だけでなく、連合国の意向的な内容も含めて書いてもらうことになります。
ピュートル公の許可を取る必要もありますが、それは俺がレオグラードへ行って交渉します。」
「ロウル、ありがとう。
私のために色々考えてくれて。
だけど、お父様を説得するのは厳しいと思うわ。
お父様は、義理堅いから。
家の滅亡の危機を救ってくれたパヴェル公を裏切ることはできないと思っているわ。」
お嬢様が答える。
うーん。俺が接した感じからも、確かに義理堅そうな気はするな。
だとすると、ピュートル公から好条件を引き出すよりも別の手を考えないといけない。
「お嬢様から見て、何があればノリク様は決断してくれると思いますか?」
とりあえず、今ノリク様について一番よく知っている実の娘であるお嬢様に最大限情報を聞いておかないと。
「パヴェル公が引いてくれるといいのだけど、無理よね。
ピュートル公とパヴェル公はいずれ皇帝の座を争う関係だから。」
お嬢様が言う。
ピュートル公が勝ちつつ、パヴェル公に引いてもらうのはほぼ無理だよな。
「ピュートル公とパヴェル公の反目っていつからの話なのですか?」
俺は少しでも糸口になる情報がないか聞いてみる。
「少なくとも先代から対立してるわ。だけど、理由を考えるともっと前からだと思う。
ピュートル公の本拠のレオグラードは大陸の南で比較的温暖だから、比較的豊かなの。
だから、レオグラードのロマノフ家は、皇帝の影響をできるだけ受けたくないという立場でいたわ。北部の貴族の面倒を見たくなかったの。
逆にパヴェル公の本拠のバイカルは大陸の内部で北方だから、土地が貧しいの。皇帝が比較的豊かなレオグラードなどの南部から多めに税を取り、税の一部を北部の貴族に分配することで、ハキルシア帝国は成り立ってきたわ。」
「ピュートル公は北部の面倒など見たくない南部の貴族達の旗頭、パヴェル公は北部の貧しい貴族達の旗頭と言うことですね。」
「そう。
過去に帝国では2度の反乱が起こっているわ。でもそれは、皇帝の力が弱まったときに南部の貴族たちが独立を目指そうとして起こした反乱なの。
当時のミューゼル家もレオグラードのロマノフ家に加担して独立しようとしていたみたい。
結局、皇帝への納税額を減額する話で和平を結んで反乱は終わったのだけど、当時の皇帝も南部の貴族達を力で押さえつけることはできなかった。
それで、皇帝からの分配が減らされた北部の貴族達は積極的に森を切り開いて耕作地を広げるようになったの。」
「帝国のモンスター問題の根っこはここにあった訳ですね。
御三家最後の1人のニコラ公はどのような立場なのですか?」
「ニコラ公のワルシュアも決して豊かとはいえないわ。
だけど、大陸の最西部は雨が少ない代わりに、深い森もあまりないからモンスターの生息も少ないの。
ワルシュアのロマノフ家は周りの土地を開墾していくことで、皇帝からの援助がなくてもやっていけるまでになった。今では多少は帝都への納税額の方が多いと聞いているわ。
ニコラ公やその周辺貴族達は、多少の納税には目を瞑るから、南部と北部の対立で騒ぎが大きくなって欲しくないと考えているみたい。」
「ワルシュア・ロマノフ家の成功が、北部の貴族達を森の開発に向かわせたのですか?」
「多分そうね。
その結果、今も問題になっている生息地を追われたモンスターの問題が起こったのだと思うわ。」
俺がいずれ帝国のモンスター問題を解決しようとするなら避けては通れない問題だな。
「ノリク様から、宰相に選ばれたのはイワン皇帝が帝位につくときに中立を保っていたからだと聞きましたけど、昔のミューゼル家はピュートル派だったのですよね?」
「そうね。
ミューゼル家としては2度の反乱である程度帝都への納税額が減ったこともあって、これくらいは仕方ないと思っていたの。
これ以上北側を刺激しすぎて、本格的な戦争は避けたかったのだと思うわ。
ウォルタンは、パヴェル公がバイカルから南下してきたら地理的に一番最初に攻撃を受けることになる訳だから。」
「その結果、ニコラ公に宰相に推されたわけですよね。
ノリク様は貴族の土地の測量とかかなり反発される政策をしていますけど何故ですか?」
「お父様、宰相を受けた以上、職務を全うしようとしていたのだと思う。
帝国にとって良いと思って実施したのよ。」
「貴族の土地の測量は、歴代でも初代皇帝のような力を持った皇帝しかしていないですよね。
ノリク様は、皇帝ならこうすべきと言う理想があってしたのでしょうけど、多くの貴族からは、皇帝を蔑ろにして好き勝手していると評価されていますよ。」
「正論はなかなか通じないってことね。」
「そうですね。
ノリク様は不器用ですから、それで敵を作りすぎたのです。
戦争の前には色々調略も考えていたので、もっと上手く立ち回っているかと思ったのですが、違いましたね。
現状、俺の予想では、ピュートル公は帝位につくことで北部貴族への援助を廃止すること。パヴェル公は、南部貴族や大陸東部の豊かな土地を北部貴族で分配するっていうのが戦争の目的ですよね。」
「多分、そんな所だろうと思うけど。」
「もし、ピュートル公が勝っても、自ら北部貴族の領地を支配しようとは思いませんよね。今でも皇帝への税金の分配で成り立っているわけですから。
ピュートル公が皇帝になって、北部貴族への支援を打ち切るとなったら、北部の貴族はどうなりそうですか?」
「これまで以上に森の開発を始めるか、ピュートル公に何らかの反抗をするかどちらかのような気がするわ。」
どちらも望ましくない結末だな。ピュートル公の暗殺を狙ってもおかしくない。
パヴェル公が勝ったら、南部・東部の貴族は全員追放されるか殺されるかだろうしな。
理想の結末が見えない。
他に切り口はないか。
「北部貴族の領土って、帝国建国前はどうしていたのですか?」
俺は別の方向から聞いてみる。
「帝国建国前は人口が今より少なかったから何とかなっていたみたい。
だけど、だんだん人口が増えて、食料が不足してきたから戦争になって、当時北部貴族の1人だったハキルシア初代皇帝が南部貴族を征服してできたのが今のハキルシア帝国よ。」
つまり、ハキルシア帝国の建国の状況はパヴェル公が勝った未来というわけか。
あと、人口が減れば何とかなると。
嫌な考えが思い浮かぶ。
「パヴェル公は、今回のレオグラード攻めを食い扶持減らしのためにやっていると思いますか?」
俺は思ったことを口にしてお嬢様の感想を待つ。
「まさか、パヴェル公がそんな非道なことを。」
やはりそう言う感想になるか。
「俺が前にいた世界では普通でしたよ。
駆り出される一般人としてはたまりませんでしたが。
ノリク様は真面目過ぎますからそんなことを考えたりしないでしょうけど、食糧事情にずっと苦しんできたパヴェル公なら当然考えているかと。
そのために開拓した森でモンスターと戦い続けてきたわけでしょ。ノリク様が小貴族の要望で首輪の事をしなければ、今でも人間に住処を追われたモンスターと戦い続けていた筈です。」
つまり、勝てそうもないと分かった上である程度の人間が死ねば、パヴェル公が引いて戦争は終わるとも言えるわけだ。
人間の歴史ってどこも同じだな。ノリク様やお嬢様が現実を知らいだけで。
俺も一緒か。もし、俺がパヴェル公だったら、胃に穴が開いていただろうな。
「私が現実を知らないだけなのかしら?」
お嬢様が聞いてくる。
「豊かなウォルタンで育った以上、仕方ない所もありますよ。
お嬢様が北部貴族の娘に生まれたら、違ったと思いますから。
それで思ったのですけど、もしノリク様がパヴェル公を見捨てることができないというのであれば、パヴェル公宛の提案も用意すればいいということですよね?」
「パヴェル公は、勝てるのならピュートル公も連合国も滅ぼして豊かな領土を手に入れたいのでは?」
「勝てるならそうしたいでしょうね。
しかし、レオグラードに20万以上の兵で籠城されたら、簡単には勝てませんよ。
長引けば、連合国の大軍が援軍としてやってくるわけですし。
なので、当初は本気でレオグラードを滅ぼしに行く。無理そうなら、連合国の援軍が到着する前に、ある程度の犠牲を出した上で引くでしょうね。
ノリク様はパヴェル公の考えを知ったらどう思うでしょうか?」
「お父様はパヴェル公に助けてもらったと感じている以上、最後までパヴェル公に従うと思うわ。」
ここで、ノリク様が正論を言ってくれれば楽だったんだけど、それは楽観的過ぎるか。
とは言え、俺の予想に過ぎないパヴェル公の考えがその通りだとすれば、無理してノリク様を引き抜く必要はないわけだ。
パヴェル公と一緒にノリク様に引いてもらえばいいわけだから。そのあとで、宰相を降りてもらってウォルタンに戻ってもらう選択肢もある。
「お嬢様、色々聞いて話がまとまってきました。
ここまで聞いた話を使ってピュートル公の許可を貰おうと思います。
ノリク様を本気で引き抜きにかかるつもりですが、無理だったらレオグラードを守り切って、パヴェル公と一緒にノリク様にも兵を引いてもらいます。」
俺はそう言うが、問題は俺の予想が外れていて、パヴェル公が絶対にレオグラードを落としたいと考えている場合だよな。
その時は、魔王に頼んでノリク様を助け出してもらうか。その方向でオーウェルさんに話しておこう。
「ロウル、ありがとう。
私もできる限りお父様を説得する手紙を書いてみるわ。」
お嬢様が答える。
これで大まかな方針は決まったな。
あとは、オーウェルさんには話をつけないとな。
20230516 話番号修正・誤字等修正




