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闘神に気に入られた私  作者: 新条 カイ
第3章 心が通い合うのは
59/59

57.ようやく両思いに。そして永遠に。

 自分の気持ちに気がついたものの、やっぱり心配なものは心配な訳で。

 ネアさんが焚いてくれた香りのおかげか、その後少し眠ってしまったけれど、始終そわそわしっぱなしで。


「少し、体を動かしてはどうでしょうか。副隊長のシルヴィアさんでしたら、庭におりますよ」

「う、ん…そうしようかな」


 ネアさんに勧められて、動きやすい服に替え、庭へと向かう。

 確かに、本を読んでも、刺繍をしても、どうしても考えちゃうから…走る位じゃダメだろうけど、流石に綿の剣とはいえ訓練すれば、考えてる暇はないだろうし。

 そうそう、何かあったら困るから、という理由で、副隊長と一般兵の何人かが、交代で屋敷に来てくれてるんだ。シュトラータの人は、この屋敷に私達が住んでる事は知ってるから問題ないんだけど、あの国がちょっかい出してこないとは言い切れないとかで。

 いつも庭で稽古してるんだけど、シルヴィアさんは、私が声を掛ける前に気がついたようだ。


「奥様、稽古ですか?」

「シルヴィアさん。ちょっと色々考えちゃって…お願いしてもいいですか?」

「えぇ、もちろん」

「じゃあ、用意しますね」

「では私はこれで。後ほどお茶をお持ちします」


 ついて来てくれたネアさんにお礼を言って、綿の剣を創る。今日来てくれた女性の一般兵は、初めて見る人もいて、挨拶されたりもした。


*****


 奥様がこちらに背を向け、他の女性兵に気を取られているうちに、副隊長にそっと耳打ちする。


「シルヴィアさん、今日奥様は情緒不安定なので…お手柔らかに」

「…あぁ、なるほど。分かった、気をつける」


 綿が詰まった模擬刀だけれど、思い切り当たれば痛い。酷い怪我にはならないけれど、大切なお体だ。だからそう注意を促した。

 やはり戦場に身を置くからか、たしなみとして知っているのか、それだけでわかったようで、心強い返事を貰って安心した。

 私はお茶を用意するべく、屋敷へと戻る。奥様のために、気分がすっきりするお茶と、甘いお菓子を用意してさしあげよう。


*****




 訓練をしていても、ふとした瞬間に不安がよぎる。しかも、危ないと思った時に限ってそうなるものだから、ぽこんと叩かれてしまう。


「うぅ…」

「今日は特に集中が途切れるようですね。戦場では命取りですよ」

「はい…」

「…少し休みましょうか。お茶を用意してくれたようです」


 シルヴィアさんが指す方を見れば、ネアさんがベランダにあるカフェテーブルにお菓子とお茶を用意しているのが見えた。

 そこへと行けば、手水とタオルも用意されていた。椅子が足りなかったけれど、力で創り出して、みんなでお茶にする。香りのいいお茶に、美味しいお菓子に舌鼓を打つけれど、どうしても気になってしまう。


「…シュトレイ、もう着いてる、よね」

「そうですね。出発されてから…六日目になるでしょうか」

「大丈夫かな…」


 ポツリとそう零すと、シルヴィアさんはきっぱりと、『心配するだけ無駄』と言った。その返答に思わずびっくりしてしまった。


「闘神様は、危ないと思ったら全方位ガードできますし、またその状態でも攻撃できます。もし、ルールを決めてそれらを使えない様にしたとしても、元々強いですからね」

「…そ、っか…私、シュトレイの戦ってる所、見てないから」

「レヴァン家当主との手合わせであればいいのですが、戦争なら、出来るならば…見ないほうがいいです」


 困った様な顔でシルヴィアさんがそう言う。神の剣の副隊長でさえ、そう言うんだ…漫画とか、映画とかで多少脚色された物は見てるけど、現実は、もっと悲惨なのかな。

 ふと、処刑の時を思い出して、ぶんぶんと頭を振る。ダメダメ、あれは思い出したくない。


「きっと、明日には連絡があると思いますよ」

「そうだといいんだけど」


 そう応えて、お茶を口にする。ふわりと花の様な香りがして、甘みのあるお茶にほっとする。


 早く、無事に帰ってきて。この気持ちを、伝えたいよ。





 それから二日程経って、手紙が届いた。日本語でただ簡潔に、『屋敷で待っててくれ』とだけ。


「…シュトレイのばか…」


 そう悪態をついてしまうのも、しょうがない事だと思う。

 だって普通は大体でいいから到着する予定とか書くでしょ!?

 というか、結局あの国はどうなったのかとかさ! 今後は心配しなくていいのかも分からないじゃない!

 それに…うるさい位に愛を囁くのに…それもないなんて。手紙が偽造されてるのかと疑ってしまう程の内容だけど、その心配はない。だってあの封蝋がされてたから。

 …もしかして手紙をかけないほど消耗してるとか、怪我してるとか?

 ふと、日本語で書かれてる事から、私がこの世界の文字がまだ読めないと思われてるのでは? と思いついて、その可能性も否定できずにへこんだ。


 でも、手紙と一緒に小箱が届けられていた事を思い出し、その小箱を開ける。シュトレイの封蝋がそれにも施されていて、開ければきらきらと粒子が飛ぶ。それを堪能してから、中身を見れば真っ赤なビロードに包まれていた。そっとその布を外せば。


「わぁ…すごい、綺麗」


 色からしてオフィーリスだと思うけど、バラの花を模した物が入っていた。余りにも繊細な形状に、手に取るのも憚れる程だけれど、金属だから大丈夫なはず…と、そっと手に取る。

 薄く延ばされた花びらは、力を入れたら曲がってしまいそうなほど薄い。まるで本物のバラのようで。

 その日は飽きる事無く、そのバラを眺めていた。





 それからは、シュトレイが帰ってくるのだという期待の方が強くて、いい意味でそわそわして過ごしていた。

 ダイニングでお茶を頂きながら本を読んでいると、慌しくドアがノックされた。現れたのはシルヴィアさんで、


「奥様! 闘神様がお着きです」

「ほんとに!?」


 思わず聞き返せば、そうだと返答が帰ってくる。慌てて立ち上がって、シルヴィアさんの後を追って、玄関へ向かう。

 玄関から出ると、門から悠然と歩いて来るシュトレイの姿が見えた。


「っ、シュトレイ!」


 叫びに近い呼びかけになってしまったけれど、構わずに走り出す。

 シュトレイは笑って、ふわりと手を広げ…その腕の中に飛び込んだ。


「シュトレイ、おかえりっ」

「くすくす…随分熱烈な出迎えだな。ただいま」

「っ…だって…だって」


 強く抱きしめられて、その温もりにほっとして、体から力が抜ける。けれど、シュトレイにしっかりと腰を抱かれて、こめかみにそっとキスが落とされた。


「沙耶…俺に、言う事があるだろう?」

「ぁ…」


 耳元で囁かれた言葉に、心臓が跳ねた。なんで分かるんだと、シュトレイの顔を見ると、にっこりと笑って額にキスが落ちてきた。


「沙耶。愛してる。沙耶は?」

「! …すき。シュトレイを、あ、愛してるっぁ!」


 そう言った途端、激しく唇が奪われて…強く抱きしめられた。

 荒々しいキスに翻弄されながら、そっとシュトレイの背中に手を伸ばしてしがみついた。



―――この時。シュトラータ全体で不思議な現象が起きていた。

 空から、様々な金属で出来たと思われる花びらが舞ったのだ。その花びらは手に取ることも、地に積もる事もなく消えて行ったが、長い間起きた現象だったため、全ての人の目に焼きついた。

 また、シュトラータのすべての者に、金属で出来た花が一輪授けられていた。それはあらかじめ主が決まっているのか、主以外が手に取ろうとしても、すり抜けてしまうという不思議な花だった。

 その花を、神の恩寵と呼び、シュトラータの者はそれは大切に扱った。












―――それから約四十九年が経ち―――



「あの子も、もう四十九歳なのね。早いものね」


 感慨深く、そう呟くと、そっと手が握られた。隣に座っているのは、当然シュトレイだ。


「色んな事があったからな。あっという間だ。だが、イシスを就けたとはいえ、よい王になったな」

「うん、ほんとに」


 私達が見ているのは、息子のイシュレイだ。その、両思いになって短い期間で…生まれた、子。

 シュトラータの王族を一新するのだと言って、生んでくれと言われてびっくりしたっけ。普通は、愛の結晶と言われる子供だけど、シュトレイの場合は必要にかられて、だから…ちょっともやっとするんだけどね。

 ただ、いつもそうだと言えばそうなんだけど、生まれるまですごく大切にされるし、子供も愛情を持って接してるから、愛されてることが分かるけどね。

 今日はその長男、イシュレイの誕生日だ。国中を上げて祝ってくれている。


 でも、イシュレイが四十九歳という事は、シュトレイがもうすぐ眠りに付いてしまうという訳で。最近では夜も眠れない位だ。


「ねぇ、シュトレイ」

「ん? …どうした、そんな顔して」


 顔に出てたのか。慌てたように頬を撫でられて、キスを落とされる。


「あの、ね。もうそろそろ、シュトレイが目覚めて五十年よね」

「そうだな」

「…いつ、眠りにつくの?」


 そう言うと、何故かぽかんと呆けた顔になる。…こんな顔見たの、初めてかもしれない。


「気が着いてなかったのか…。沙耶、不思議に思わなかったのか? その身体が、こちらの世界に来た時から全く変わらないことに」

「そ、そりゃ思ったけど…神様補正かな、と」

「補正といえばそうだが、今までは人と同じ様に老いたはずだ。そうならないのは、沙耶がトクベツだからだ。愛してる、沙耶。いつまでも」

「…うん、私も。でも…いつ眠りにつくの? それに、眠りについたら…」


 私との記憶はなくなるはずで。その事実が恐くて、嫌で、言葉にできない。でも、シュトレイはふわりと笑う。


「眠りは、もう必要ないよ。俺の、本当の奥さんだからな」

「え…?」

「五十年しか起きていられないのは、神の器の性能がよくないから。俺の力を僅かずつだが消費してしまう。だから、今まではそれを補充する為に眠りが必要だった。沙耶は、その様な事は起きないばかりか、反対に力が増強されて戻ってくる。だから言っただろう? 未来永劫いつまでも愛してる、と」


誤字脱字、指摘や感想等お気軽にどうぞ


未来永劫の使い方が違う気がする。

そしてやっぱり前話のぶった切り場所がまずった気がする。でもいいんだ…だってそうじゃないと最終話がものすんごく短くなるから(ぇ


以下色々言い訳orz

いきなり四十九年後にぶっ飛ばしたのは、さっさと完結にしたかったから。

何故って、あの国の名前とか、地図とか、ぜーんぜん設定考えずに書き始めちゃったものだから、これ以上おかしくなる前に一回閉じようと。なんていうか、土地広いのに、なんでこんな狭い場所で色々やってんのさ! というのもあり。

なので、改訂版で書き直すかもしれませんし、きんどるとか、そういうのでやっすい値段でだすかもしれません。あくまで、”たられば”なので、期待しないでくださいw

最後の方が説明文だらけで面白くないというのもね。なんとかしたい。


ではでは、長い間お付き合いありがとうございました。今後ともよろしくお願いしますね♪

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