7.市場で買い物1
「では、まずは朝ごはんを食べに行きます」
早朝から出発したのも、朝ごはんを外で食べるつもりだったからだ。メリッサはもうマイペースで行こうと決意した。
メリッサの後ろをついてくる男二人は見た目があれなので気になるが、気にしたところでどうしようもない。
地味な瓶底眼鏡の自分の連れだと誰も気づかないだろうし、できるだけ他人のふりをしよう。
目的の店の前についた。そこは、メリッサがよく利用するホットサンドの店だ。
店内でゆっくり食べたいところだが、後ろについてくる二人に同席でもされたら落ち着かないのでテイクアウトにする。
「お二人は朝ごはん食べてきましたか?」
二人を待たせることになるし、こんな朝早くだし、と自身に言い訳しながら一応気遣ってメリッサは聞いてみた。
「まだ食べてない、一緒に食べよう」
以外にもあっさり答えたセスランは、メリッサの横にならんでテイクアウト用の販売口に立つ。
「好きなのを選んでいい、食事代もこちらで出す」
「え?そこまではしていただかなくても」
依頼に関係なく、食事は普通にとるものだからこれはある意味個人的なことだ。それに待遇が良すぎるのも気持悪い。訝しんでセスランを見上げるが、彼の方が背が高くローブで表情が隠れていてい何を考えているのかわからない。
彼は少し間をおいて、何かを考え付いたといったふうでメリッサの方を向いた。
「これは必要経費だ」
「必要経費??」
「出張先での経費だと思えばいい。依頼料に含まれているからまったく気にしなくていい。」
あまりにも淡々と事務的な感じで説明されたうえに、言外に断ってはいけないような圧を感じる。
アレイはすでに、「どれにしよーかなー」などと言ってのんきにメニューを選び始めていた。
「では、お言葉に甘えてその通りに」
悩むだけ無駄なのかもしれない。
ホットサンドをテイクアウトして、公園のベンチで紙袋を広げる。
「たまにはこういう朝飯もいいな」
アレイは背伸びをしてから朝暘に目を細めている。
勘定を済ませてきたセスランは、「そうだな」と相打ちを打ちながら、メリッサの隣に腰掛ける。
「すっかり春だな」
セスランは誰にいうともなくつぶやいて、公園の木々を眺めながらコーヒーをすすっている。
なぜかメリッサを真ん中にして両サイドに座る二人のせいで落ち着つかず、黙々と食べることに集中するはめになった。
美貌の青年にはさまれる経験など、一生でこの瞬間が最後だろう。
何も知らない女子がこの状況を見たら、さえない魔女が、どうしてそこに座っているのだと責められそうだ。人気の少ない早朝でよかった。深緑色のローブをたぐりよせいつも以上に深くかぶっておく。
少し自虐的なことを考えてるうちに、あっという間に食べ終えた。
◇◇◇
「魔女殿、次はどこへ行くんだ?」
無駄に陽気を振りまくアレイがくっついてくる。
「市場の八百屋から順に回ろうかと」
メリッサはアパートのご近所さんがアルバイトしている八百屋で、りんごを三つ購入してカバンに入れた。
知り合いの店なので、二人には離れて待っているように頼んでおいた。
次に、行きつけの紅茶屋に行く。
茶葉と、シナモン、カルダモン、クローブのマサラセットを購入する。
店員の女性が、ローブの隙間からチラ見えする二人の美貌の青年を見て赤面して固まっていたが、瓶底眼鏡の地味女が連れだとわかると敵意の視線を向けてきた。
市場は次々と店が開店して、活気づいてきていた。
メリッサは、露天商を中心にあちこちきょろきょろ眺めながら進んでいく。
「魔女殿、何かさがしているのか?」
セスランはメリッサの様子が気になったのか後ろから声をかけた。
「人を探しているんです」
「人??」
「誰だよそれ」
アレイも興味深々で加わってくる。
「昔、知り合った占い師の女性です。旅の占い師なので、もしかしてここに来てないかと思ってつい探してしまいました」
「それってどんな人なんだ?」
アレイは騎士だから、もしかしたら見回りなどで見たことがあるかもしれない。あまり期待はしていないが、何か知ってるかもしれない。
個人的なことはあまり話さないほうがお互いのためだが、手がかりが欲しかったメリッサは探し人について話した。
「金髪に紅い瞳の綺麗な人で、名前はルビーといいます。魔法術師で旅の占い師をしているひとです。ちょうど二年前に会いました。とてもお世話になった人でまた会いたいなと思って探しています」
アレイは少し考えるそぶりをしてから、申し訳なさそうに言った。
「知らないな、魔法術師が市井で占い師をやる場合はほとんど偽名だし。美人だったら騎士連中の話題になる。主要な市場は見回りはよくしているが、聞いたことがない」
「お客様は、知りませんか?」
メリッサが振り返り、セスランの眼を見つめる。
「旅の占い師なら、他国に行っているのかもな」
セスランは視線を外して遠くを見た。
「お客様に少し似てる気がします。瞳が同じ色だからかもしれませんけど。少し昔のことを思い出しただけです。すみません。忘れてください」
そう言ってまた二人に背を向けた。
セスランの眼が似てるからと、つい思い出を持ち出して余計な事を話してしまい、少し後悔した。
今は、依頼に集中しよう。




