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【第一部完結】 ブルーインフェルノメテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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62.転移先で

「転移魔法陣は見つかったか?」

「祭壇の、後ろにありました」

 メリッサは答えながら、なんとなく胸が締め付けられるような感じがした。振り向いたときに見た、セスランの表情はどこか物悲しく感じられた。メリッサ自身もそれがどうしてなのかわからない内に、すぐにもとの表情にもどった彼が、魔法陣を確かめに来た。


「よくもこんなルートを確保していたものだな」 

 すべての神殿に転移魔法陣があるわけではない。 

 地下から通じていた先にあった神殿には、マイムへの転移魔法陣が設置されていた。

 魔法が当たり前のメテオーラでは、転移魔法陣の使用に対するハードルは低い。魔力がそれなりにあれば簡単に使える。


「用意周到な奴ですね」

 エダンは使用人の振りをして、かなり聖都について調べていたようだ。

  「便利よね。移動するときの感覚がなんともいえないけど。そういえば、セスランおにいさまも転移魔法使うわよね」

 セスランのは無詠唱、魔法陣なしだ。規格外すぎて同じものといえるのかとメリッサは疑問に思う。


「まあ、似たようなものだ」

「転移魔法陣は作れるのかしら?」

「使うのは簡単だが、作るのはそれなりに大変なんだ。座標を計算して魔法陣を設計してまっすぐな道を作らないと、体の一部がどこかに置き去りになる」

「なんですって?!」

 シャシャは両腕で自身を抱いて、青ざめた。今日は二回も転移した。


「作る場所も、神殿くらい安定した場所でなければ作れない。だから俺は作ろうと思わない」

 作れないとは言わないあたり、彼はやっぱり桁外れなのだろうとメリッサは思う。

「これは三賢者様が作ったものだから、大丈夫だよシャシャ」

 転移魔法陣は三賢者しか作れないことになっている。


「そう、三賢者様が作ったのね。なら安心かしら……。ちょっと待ってじゃあセスランおにいさまのは一体何なの?」

 シャシャも当然の疑問に行きついた。 

「だから、似たようなものだ」

 それ以上は答えないと、雰囲気で押し通される。

「そう。わかったわ」

 深堀しても今は仕方がないと判断したのか、シャシャは素直に引き下がった。


「メリッサ」

「なんですか」

「マイムにデービス翁が滞在していると、影が調べてわかっている。エダンと繋がりがあるものはすべて監視対象にしていたからな。ソルとエダンはそこにいるはずだ」

 彼らはデービス翁がエダンと関わっている事を掴んだ時から、ずっと動向をさぐり、証拠を押さえるために動いていたと打ち合ける。それは、メリッサの前に彼らが現れる前から始まっていたらしい。


「デービス翁はエダンと共謀、孫のソルもデービス伯爵家の人間だから処罰はまぬがれないだろう」

 オルテンシアの公爵として、デービス翁を捕らえる必要があると告げる。

 王女であるシャシャもいる以上、すべてが断罪されるのだろう。

「君は、どうしたい?君の望みを知りたい」

 セスランの真剣なまなざしは優しく、すべてを受け入れる用意があると思わせる。

 断罪の道を変えることが彼には出来るのだろう。だから、彼はメリッサにゆだねた。


「少しだけ時間をください」

 メリッサはセスランにそう断りを入れてから、シャシャに歩み寄った。

「シャシャ。実はデービス翁はわたしの大伯父なんだ」

 オルテンシアの王族と祖母が関わっていたことを、秘密にしたがっていたメリッサのために、きっと彼は隠していてくれたはずだ。メリッサはシャシャに自ら打ち明けることを選んだ。


「メリッサ」

 シャシャの目が見開かれる。

 ――このまま他人の振りだって出来る。だけど。

「デービス翁の妹がわたしの祖母なの。もう亡くなっているんだけど。それで、ソルは最近知ったんだけど身内なの」

 同期で友人と思っていたソルは、デービス伯爵家の因縁に巻き込まれた同じ当事者だった。


「わたしの祖母は、四十年前にシャシャのおじい様。前国王陛下の影だったの。特別な力を持っていた祖母は影の仕事をしていたけど、それを辞めてメテオーラに亡命したの」

 そして、そのまま三賢者に保護されて暮らし、孫のメリッサが生まれた。

 サファイアと呼ばれる二つ名を付けられた、物の記憶を読む能力は、国王に権力と富を築かせた。

 デービス翁は、その祖母の亡命によって裏の権力を失って失脚し、今だに特別な力をもつ孫のメリッサを手に入れようとしている――。

 ひととおりメリッサの話を聞き終えたシャシャは、微笑んだ。


「ここでわたくしたちが出会ったのは、運命だったのね」

 シャシャはメリッサの手を握った。

「四十年越しの因縁よ。わたくしたち生れてさえいないわね。おじいさまの時代は多くの血が流れたと聞いているわ。でも、わたくしとメリッサは出会って友人になったのよ」

 メリッサの胸に暖かいものが広がっていく。

「あなたの秘密は守るわ」

「ありがとう、シャシャ」

 シャシャに打ち明けてよかったとメリッサは思う。とても胸が軽くなった。


「メリッサの話を聞いてすっきりしたわ。幻影草を見つけるためだけに資材庫番のあなたを連れてくのは少し不自然だったから。どうしてあなたが必要だったのか、この人何も言わないんだもの」

 シャシャはちらりとセスランを見上げた。


「君たちが、今日一緒にいるからこうなったんだ」

「そうね、今日一緒に出かけなければ、幻影草も見つからなかったし、エダンが動くこともなかったかもしれないわね」

 二人の言う通りかもしれない。シャシャ達に出会ったから今がある。

 メリッサは、セスランにゆだねられた答えを返した。

「わたしはソルと大伯父を助けたいです。それから、エダンをコテンパンにして捕まえてやります」

 悪党に歪められてしまった友人達を助けたい。

 断罪されるのは、エダンだけでいいはずだ。

「君が望む通りにしよう」

 セスランは優しく微笑んだ。

 


 三人は魔法陣の上に立った。

「メリッサ手を繋いでくれるかしら」

「どうぞ、シャシャ」

 物おじしないシャシャも、流石に転移魔法陣は怖いらしい。セスランが魔法陣を起動させると。光の中に包まれた。


 


 ◇◇◇




 温泉街の路地裏を、ソルとアナベルを連れてエダンは足早に歩いていた。

「ソル!ねえソル聞いているの?」

 エダンが幻影草で操っている青年ソルは、婚約者の手を引いて虚ろなまま進む。

 なんという巡りあわせか、手に入れようとしていたサファイアが、向こうから関わってきた。


 エダンが作り上げた幻影草の効果を見抜いたかどうかはわからないが、興味を示したということは、サファイアの能力で何かに気づいているとみていいだろとエダンは思った。

  オルテンシアの貴族に取り入って、資金を稼ぎつつ幻影草で作った魔法を試すために、選んだのがデービス伯爵翁だった。キロシスタの商人と付き合いの合ったデ―ビス翁は、異国の珍しいものをよく欲した。

 最初こそまっとうな商人の振りをして近づいたが、幻影草の魔法をかければ、すぐに人形にして操り、他の貴族をカモにする窓口役とすることができた。


 精神を操れるようになった相手から、その人間が持っている情報を語らせることが最初にできるようになったのはデービス翁だった。それまでは、何人かに試したが途中で精神が狂って使い物にならなくなった。

 デービス翁が語った話が、妹のサファイアの事だった。昔、オルテンシアの前国王の影だったこと、その能力を引き継ぐ可能性のある者がいること。


 それから何人かに試したが、その人間が胸の奥にしまっておきたいことを語りだすことがわかった。

 幻影草で作った魔法でサファイアを手に入れ、メテオーラの人間を、騙し唆し、疑心と憎悪で陥れる遊びをするのだ。

 

「ソル様、もうすぐ宿に着きますよ」

 エダンは操り人形になったソルに、誘導の言葉をかける。

「アナベル、もうすぐだ」

「使用人のあなた。魔法を使えるなんて一体何者なの?」

 ソルに手を引かれたまま、アナベルはエダンを睨みつける。


「ただの使用人ですよ。お嬢様」  

 路地を抜け、湖畔に建つ、小さな宿にたどり着いた。

「ソルのおじいさま?」

 宿の中には一人の老人がいた。

 目は虚ろで、やせ衰え微動だにせずに椅子に座っている。


「あなた!おじい様にまで何をしたのよ!」

「少し。いい夢を見られるように薬を飲ませてあげたんですよ」

 幻影草の魔法が効いている間は、幻影を見続ける。醒めない夢の中にいるような状態だ。

「私を連れて来てどうするの?」

 虚ろなソルの腕にしがみつきながら、アナベルはエダンを睨みつけた。


「あなたに聞きたいことがるのですよ。蒼い瞳の娘を知りませんか?ソル様に聞いても何も答えてくれないので、婚約者のあなたなら知っているかと」

 ソルは精神操作をしても、サファイアの娘については何も語らなかった。姿は以前知ることができたが、資材庫番の仕事をしていること意外わからず、魔塔にいるために手出しもできない。


「知らないわよ」

「本当ですか?」

「あなたの質問には答えたくないわ」

「その蒼い瞳の娘は、ダドリー様の妹の孫なのですよ」

「え?」

「あなたとソル様二人で、あの娘を私のもとに連れてきて欲しいんです。だからあなたも操り人形になって下さい」


 エダンはテーブルの上に置いてあるティーカップに、懐から出した茶葉をいれた。そして、部屋に置いてあった水差しに、呪文を唱え魔法で火をつける。沸いた湯をカップに注いだ。

 清涼感のある香りがたちはじめる。


「私は他の仕事があるので、少し外に出ます」

「ちょっと待って!どこ行くのよ!この悪党!」

 アナベルはソルに手を繋がれて身動きを取れずにエダンを罵る。それを無視して、エダンは封印の魔法で、宿の外に出られないように結界を張った。


「あの小娘程度の魔力では、破ることはできまい」

 湖畔の水辺にエダンは向かう。

 そこで湖に向かって、長年の実験で作り上げた魔法を発動した。

「魔物たちよ、出てこい。そしてこの街を壊せ」

 エダンは幻影草で作った、精神操作をする魔法で魔物を使役した。

 湖から魔物が這い上がってくる。ぞろぞろと湧きでてくるそれはおよそ百匹を超えた。

 それらは列をなして、温泉街へ向かう。

 ちょうど春祭りで、観光客で溢れる街に悪意を落とす。エダンは歪んだ笑を浮かべた。

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