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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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5.月の女神の秘薬

 二年前。


 師匠と一緒にアパートで暮らしていた時期。

 あの頃は、師匠と二人で暮らしていた家がなくなって、アパートに引っ越して借金だらけで大変だった。師匠は隣国オルテンシアの王都に出稼ぎに行って占いの館で大人気になり、そこで月の女神の秘薬を貴族相手に売りまくって大儲けして、私の進学用の学費を稼いでくれたのだ。


 たしかあの時アパートに訪ねてきた覆面で顔を隠した二人組の男。秘薬があまりに人気になったから貴族相手に禁術を使ったのではないかと、魔塔の諜報員が捜査に来ていたのを思い出した。

 つまり、知らないという誤魔化しは通用しない。


 「アレイさんはあの時の諜報員の一人だったのですね」

 「そうだよ」

 「思いだしました。師匠が昔作ってた秘薬ですね。あいにく師匠が旅に出てしまってどこにいるのかいつ帰ってくるかも私もわからないんです」

 これは本当の事だ。

 「やはり君のところにもいないんだな」

 「なのでお作りできません」


  アレイが腕を組みなおす。

 「弟子の君は本当に作り方を知らないのか?」

 「はい。そもそもアレイさんなら秘薬などなくてもモテるでしょう、運命の相手だとかそんなこと気にしますか?」

 「あーそれが気になるんだよ、ぜひ彼女に俺が運命の相手だと気づいてほしいんだよな」

 「すっごい自信ですね」


 この人は本当に誉ある第一騎士団の一員なのだろうか。隣に座るマスターガーディアンはずっと無言だ。この男の割とどうでもいいような依頼をどう思っているのだろうか。

 「そんなものに頼らないでもいいのでは、師匠もいませんしこの話はなかったことに」


 メリッサは嘘をついてでも月の魔女の秘薬を作りたくはなかった。自分に得はないし、むしろ魔女の秘密を知られるリスクがある。こんな軽薄そうな男の為になど論外だ。

 はっきり断る。


 アレイは天井を見上げて目を閉じ、何かを考えるそぶりをしてから、おもむろに目を開けてメリッサに視線を合わせて言った。

 「魔塔はダブルワークを認めてないんだよな。資材庫で働いてるのに、魔女の仕事を請け負ってるのは違反だよな」


 アレイがテーブルを指でトントンと突く。前髪から覗く彼の眼は獲物を狩る者に変わっていた。

 「それから、魔技研の特級保管庫で宝物庫兼ハザードアイテムの保管部屋に不法侵入した罪」

 メリッサは話の流れがおかしいと思うが、アレイの空気にのまれて何も言えない。

 まるで尋問されているようだ。


 不法侵入は昨日やらかしたことだ。しかも証人が目の前にいる。

 とういうか、この部屋がその特級保管庫だったのか。おもいっきり私室あつかいしてランチを食べてたじゃないか。

 あの錆びた長剣はハザードアイテムかもしれない。

 それに、いつの間にか、メリッサが規則違反どころか犯罪者のような流れになっている。  

 これは反論せねばならない、テーブルの下で手を強く握った。


 「魔女の仕事は師匠にくる依頼の代理であって副業ではなく、家業手伝いです。違反には当たらないはずです」

 

 「まあ確かに魔女の仕事はグレーゾーンってことにしておこうか」

 上から目線がメリッサの癇に障る。


 「特級保管庫に侵入したのは結構重い罪だよなーどうする?クビにするか」

 アレイがマスターガーディアンに同意を求める。

 「アレイさっさと話を終わらせろ」

 黒ずくめのラスボス仮面は冷たい低音ボイスでそれだけ言った。


 さっきから何かうすら寒いなと感じていたが、彼から冷気が漏れていたのだ。その冷たさにメリッサの体は硬直した。


 「わかったよ、こっちも本気だ、あんたに作って欲しい。依頼を達成してくれたらもちろんクビは回避だし、報酬はこれだけ払う」

 アレイはテーブルの上に小切手を置いた。


 「偉大なる魔女の秘薬を求めるためにきちんと報酬も用意してきた」

 その額は家が一軒余裕で立つ金額だった。

 「信じられない、あなた個人でこんなに払ってまで手に入れたいの?」

 「それだけの価値がある」


 あの秘薬に何を見出したのか知らないが、大金を積んでまで振り向かせたい人がいるんだろう。

 「あんた自身は作れないとは明言していない。あの芙蓉の魔女が弟子に教えないわけがない」

 この脅迫男のために作るというのが気に食わないが、この報酬があれば借金を返して師匠に新しい家を建ててあげられる。


 「マスターわたし資材庫番クビになったりしませんよね」

 これだけは確認しておきたい。

 正直この報酬はおいしい!お金はあって困ることはない。

 だけど、一番重要なのは資材庫番の仕事を失わないことだ。


 「彼の依頼に協力してほしい、できない場合はありえるかもしれない。」

 マスターガーディアンはクビを否定しなかった。

 昨夜の首を洗って待ってろという宣言通りだ。

 アレイにクビをちらつかせられたときよりも、こっちのほうが大きく胸を抉った。


 マスターがディアンは、このイカれている騎士の味方だと確定した。

 「それってつまり、クビがかってるってことじゃないですか」

 黒猫ラファエルが膝の上にのって甘えてきた。暖かいぬくもりを感じ、ラファエルをなでているうちに緊張がほぐれてきた。


 よく考えてみると、月の女神の秘薬の秘密さえ隠せばいいのだ。作るのはそう難しくはない。

 莫大な報酬と、クビ回避をかけて他に道はない。


 「わかりました。作りますよ。ただし、魔女の秘薬は特別なので、報酬はこれの倍にしてください。

 それから、この部屋にある物の中で一番高価なものを報酬に追加してください」


 こっちの味方をしてくれなかったマスターガーディアンも巻き込んでおいた。

 そして最後の望みをかけ高額報酬を要求する。あきらめてくれることを期待しつつ、駄目でもこれくらい報酬を吹っ掛けて仕事を受けたら、後で芙蓉師匠も笑って許してくれるはずだ。


 「承知した!」

 「え・・・・?」

 「だからそちらの条件でいいと言っている。金額はこの小切手の倍、それからこの部屋の中の一番高価な物がほしいんだろ。」

 アレイのさっきまでの尋問モードが一瞬で消えた。


 「なあ、いいよなそれで」

 アレイはマスターガーディアンにあっけらかんとなんでもないことのように話を振る。

 「かまわない」

 心なしか、冷気が消えた気がする。

 「交渉成立な!」

 アレイの勝ち誇った、満面の笑み。


 「交渉ではなく、脅迫の間違いでは?」


 メリッサは失態を犯したかのような気分になった。

 この男、演技で上手く感情を揺さぶって逃げられない状況を作った後に、回避ルートをを用意しておいて、依頼を受けさせた。

 これじゃ、まるで取り調べに耐えきれずにゲロった犯人じゃないか。


 昔、異国の本にこんな展開があった。取調官が犯人にカツドンなるものを食べさせて、ほだされた犯人が自白するとかいう物語。

 Aランチからもう彼らの術中にはまっていたのかもしれない。


 「で、いつまでに完成できる?」

 「アレイさん」

 「なんだ?」

 この男は性格が悪い。

 「‥‥‥なんでもないです。次の満月には完成します」


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