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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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49.面白いことになって帰ってきた二人

「ちょっと!アレイ!」

「勝手に動くな!じっとしていろ」

 アレイは異国人の男に目もくれず、飛行魔法で跳躍した。ものの数秒の素早さだった。 

 地上で男が何やら叫んでいるが、アレイは完全無視で速度全開で飛んだ。


 ものすごいスピードで、建物の屋根や、眼下の景色が流れていく。メリッサはかなり怒っているアレイに担がれたまま、文句も言えず風を切りながら乗り物酔いに耐えるしかなかった。

 進行方向とは逆向きに、景色を見送るメリッサはふと、あるものに気が付いた。


「アレイ。怒らないで聞いてください」

「却下だ。言いたいことはわかってる。アレを巻くまで黙ってろ」

 やはり、アレイはすでに気づいていたようだ。後ろから追ってくる異国人の男に。

 こっちは屋根の上を飛び飛びに飛行魔法で移動しているのに、男は全力で走って追っているのだ。障害物の建物も、飛行魔法ではなく、とんでもない跳躍力で飛び越えてくる。


「なんなんですか?あの人‥‥‥人間じゃない?攻撃してみていいですか?」

「攻撃魔法も捕獲魔法も駄目だ。絶対使うなよ。あと、目を合わせるな。認識疎外が効かない奴はたいてい気配を読むのが上手い奴だ」

 あの異国人の男は、アレイの認識疎外魔法を突破している。


 それなりに実力があって、こちらからは手を出さずに、ただ逃げることを選択せざるを得ない人物ということか。それも、アレイは何者か解っている。

「あの人、わたしへの刺客ですか?」

「違うが、厄介な奴」


 サファイア狙いの者ではないだろうと思っていたが、アレイの返答で確認を取る。

「本当は、さくっと殺して消してやりたいんだよ」

 物騒なことをボヤキながら、急降下を繰り返して飛びつづける。できるなら、とっくのむかしにやってるとでも言いたげにアレイは舌打ちした。


 これはまた、よくないものを引き当てたのかもしれない。アレイにはこれ以上怒られたくないし、親友のスーリアにも叱られそうだ。シャシャとルビーにはなんて説明しよう。護衛騎士団長の冷めた視線もけっこう抉ってくる気がする。


「トラブルホイホイ娘なんだな。今回も」

「言われると思ってました」

 ソルの屋敷に早く行きたいところなのに、メリッサ自身が変なものを釣ってしまったせいで、足止めを食う羽目になった。


「あの人、目と気配で追ってきているなら、それをつぶせばいいのですよね」

「魔法は使うなよ」

 風の中に、精霊鳥の存在を感じる。お願いできるかもしれない。

「精霊鳥、仲間の鳥を集められるかな?」

 メリッサの耳元で、囁く声が聞こえる。

「(集めよう)」

 風の中に溶けている精霊鳥は、メリッサの事態を察してか、実体化せずに声だけで答えた。


「何が起きるんだ?」

 アレイは飛び続けながら、担いでいるメリッサがまた何かしでかすんじゃないかと内心ハラハラしていた。


「多分、気配をごまかすことは出来ると思います」  

 どこからともなく、鳥の大群が集まってきた。

 メリッサとアレイの後ろを、鳥の群れが飛び回る。空中に生き物の気配が溢れ、視界も悪くなるはずだ。

 気配が取れなくなれば、認識疎外も効果が出るかもしれない。


「今のうちに地上へ降りて、人混みに紛れましょう!」

 メリッサはアレイの肩に担がれながら、乗り物酔いが限界だった。とにかく早く、地上に降りたかった。




 地上に降りても、アレイはメリッサを担いだままだった。

「降ろして」

「駄目だ、俺が走ったほうが早い」

「目立ちますよ」

「こういう時こそ、認識疎外魔法だろ」

 なんとか異国人の男は巻けたようだ。後を追ってくる者はいなかった。


 


  ◇◇◇




「どうしたのよ!メリッサ。ぼろぼろじゃない!」

 小一時間ほど、カフェのテラス席で時間をつぶしていたシャシャ達は、戻ってきた二人の有様に驚いた。

「色々あって」

「省略せずに説明しなさい!」

 シャシャは、王女の威厳でもってピシりと言った。それからすぐに、青ざめて椅子に座りこむメリッサの傷を、治癒魔法で治しはじめた。


「シャシャは治癒魔法が使えるんだね」

「あまり魔法は優秀じゃないのよ。わたくしに出来るのは簡単な治癒魔法だけよ」

 綺麗な細指の手から、癒しの緑色の光が放たれる。メリッサの擦り傷は跡形もなく消えた。


 二人が小一時間の間に集めてきた情報を、アレイは簡潔に、それでいてうまく隠し事は隠し事のままに説明した。

 メリッサの怪我は、飛行魔法に失敗して木に落ちたことになった。


「ルビーの言った通りだわ、本当に面白いことになって帰ってきたわね」

 シャシャは、水晶玉を手にとって、映し出された使用人の男と、老店主を見た。

「確かににあの店主ね」

 水晶玉をマキシムに手渡す。彼もまた水晶玉を目視し、間違いないと、うなずいた。  

「メテオーラには、便利な道具があるのね」


 さっき出来上がったばかりの魔道具ではあるとは、言えない。ソルの屋敷についても、すべてこの道具のおかげで情報を得たことになった。


 アレイが説明している間、ルビーは、くしゃくしゃになったメリッサの髪をほどいて櫛を通していた。飛行魔法で乗り物酔いになっていたメリッサは、頭をルビーに預けて目を閉じている。

 その間に、ルビーは器用に髪を三つ編みにして、紅いリボンを結んだ。


「そのリボン。どこからだしたの?」

 ルビーの様子を、興味深く見ていたシャシャは若干引きつつも、恐る恐るルビーに尋ねた。

「ちょっとした魔法です」

 パンと手のひらを合わせると、手品のように一瞬で一枚の布が出現した。


 それは、緑色の可愛らしくも上品にも見える刺繍が施された、上等な魔法術師のローブだった。

 ルビーは、それをメリッサの肩にかけ、フードを被せた。

「ルビーお姉さま?」

「私もメリッサに」


 ルビーは左手を胸に手をあてて、もう一方の手は人差し指を口元にたてた。

 そこには子竜のペンダントが隠してある。それは二人の秘密だと、口元に当てた指が、受け取ることを拒まないでほしいと告げる。

「ありがとうございます」

 メリッサは、一瞬遠慮がちな表情を浮かべてから、笑顔で答えた。


 上等な魔法術師のローブ。メリッサは魔塔の魔法術師になったことを、褒められたような気持ちになって胸が暖かくなった。 

 そういえば、乗り物酔いも醒めたようだ。

 それはそのはずで、ローブにはルビー(セスラン)によってありったけの魔法が付与されている、最強の防具だと言っても過言ではないレベルの品なのだ。

 さらりと贈られたローブの、価値に気づいているのは、その様子をげんなりした顔で見ていたアレイだけだった。


「――それで。アレイ。報告は正確にするべきだ」

「悪かったな。今から続きを説明しようと思ってたとこだったんだよ」

 急に空気の変わったルビーとアレイは、シャシャとメリッサの前に壁を作るように立つ。

 マキシムはシャシャの側で、いつでも抜刀できるように剣の柄を握った。


 カフェの一階のテラス席は、まばらだが一般客もいる。

 三人は、近づいてくる気配を読み続ける。

 ――上か!

 三人が頭上を見上げたと同時に、四階建ての建物の屋上から、男が跳躍して飛び降りてきた。

 魔法も使わずに、脚力だけで着地を決めた男は大声で叫んだ。


「結婚しよう!運命の人!」

「!?」

 その場にいた、すべての人が男に注目したまま固まった。一般客もウエイターも何が起きたのか理解できずにぽかんとしている。

 明らかにおかしな異国人の男が、急に現れて大声で結婚云々言い出したら、正常な反応だろう。

 男は、目の前に立つ美女と、その後ろの美少女を見て、目を見開いた。


「空から舞い降りた天使の周りには、他にも美しい天使がいるとは。だが、俺はそこにいる銀の髪に蒼い瞳の君に一目ぼれしたんだ!」

 またもや、大仰なセリフを吐く男。


「ちょっと、嫌なんだけど。面白いことになったわね。ルビー」

 シャシャはドン引きしつつも、ある意味で笑いそうになるのを必死でこらえている。

「これは、想定外です」

 表情を変えないルビーは、内心では厄介なものを釣ってきたメリッサに、説教したくてたまらなかった。


「結婚しよう!」

 なおも大声で自信満々に男は言った。


 メリッサはローブを深くかぶり、男に絶対目を合わせてはいけないと一人青ざめていた。

 きゅうこんって。結婚の方の求婚だったの!?

 ようやく、自分がしでかした面倒ごとの重大さを理解したメリッサは、あることに気が着いた。


「運命の人?」

 もしかして、これは秘薬の効果が現われた結果なのだろうか。運命の人に出会ったらわかると月の女神は言っていた。でも、こんなストレートに運命の人ですと、自分からはっきり言って教えてくれるものなのだろうか。

 ドキドキも、トキメキもどんな感覚か知らないが、胸に手を当てても何も起こっていない気がする。


「素敵な殿方、ごきげんよう」

 シャシャは席を立ち、美しい淑女の礼をとった。それだけで、場の空気が変わる。

 微笑みをたたえた顔で、男の視線を持ってこさせた。

「これは失礼、素敵なレディ。あなたのお連れのレディに夢中になるあまりご挨拶が遅れました」

 異国人の男も紳士の礼をとる。


「場所を、変えましょうか」

 シャシャのその一言で、隠れていた護衛騎士たちが一斉に動きだした。 






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