3.マスターガーディアン
ゴーンゴーン。
昼休憩の鐘の音が鳴る。
あっという間にマスターガーディアンとの対面の時間になった。
昼休憩でみんな食堂に行っているおかげか、東棟へ向かって行っても誰にも廊下ですれちがわなかった。
建物の外観からすれば東棟は二階建てで、三階はない。しかし、不思議なことに東側階段に行くと、昨夜と同様に三階へ上る階段があった。
昨日は暗さで勘違いをした可能性があったが、昼間に来ても、確かに三階へ続く階段が存在した。
「行こう」
あの脅迫状の通りなら無視できないのだ。
石づくりの階段を上り三階の廊下まで、慎重に歩く。紅い絨毯にオレンジ色に煌めく灯り。昨日見た光景と同じだ。
黒猫がまたあの大きな扉の前で座って待っていた。
「にゃあ」
黒猫は挨拶でもしたかのように鳴くと、部屋に入っていった。
メリッサは扉の前で深呼吸する。
やっぱり不法侵入したことを責められるかもしれない。
そういえばレイズ課長は昨日ことは何も言わなかった。報告されてないのだろうか。
マスターガーディアンの目的がわからない。
が、ここで考えても仕方ないと踏ん切りをつけ、覚悟をきめて扉をノックした。
猫一匹分開いていた扉が、ぎぎぎっと音を立てて、勝手に開いた。
部屋の中は、昨夜の暗闇からは想像ができない空間が広がっていた。
太陽の光が大きな窓に差し込み、あけ放たれたテラスから春の風が心地よく循環し、所どころに置かれた植物がそよいでいる。
宝石が山ほど装飾された調度品が陽光によって輝き、見るからに高級な芸術作品が所狭しと置かれている不思議な空間があった。
その窓際には大きな執務机があり、あのマスターガーディアンが座っていた。
「どうぞ、入って」
変声魔法特有の低音ボイスで指示される。
「資材庫第一課のメリッサ・レイニード参りました」
メリッサが室内に入り、執務机の前に立ち挨拶すると、後ろの扉がばたんと閉じた。
昼間の明るさの元でも、漆黒のローブと奇妙な仮面のその人は不気味だった。
「今日は、会ってほしい人がいてね」
「はあ」
「困ったことに奴は遅刻しているんだが」
「はあ」
「君の休憩時間に合わせるようにって言っておいなのにな」
仮面越しに溜息をもらして、彼が立ち上がった。
「こっちに座って」
開け放たれたテラスの近くにテーブルが用意されている。
「待っている間に食事にしよう」
「えっ」
マスターガーディアンのお叱りを覚悟で来たのだが、食事とか謎展開すぎる。
なんの罠なのだろう。
というか何の罰なんだろう。
黒ずくめのラスボス仮面と食事だと。
よく見ると、きらびやかな調度品にまぎれて、髑髏だの呪物のような血みどろ人形やらなぞの錆びだらけの長剣やらが鎮座している。
どういうセンスをしたらこんなカオスな部屋になるのだろうか。
だが、どういうわけかヤバイものは沢山あるのに、調和がとれているのだ。
部屋の空気がとても澄んでいる。
「変わった部屋だと思っている?」
メリッサはあわてて視線を外してテーブル一点に集中した。
手汗が制服のスカートまで濡らしている気がする。
何か返答しなければ。
「変わっていますが、とても調和がとれています。」
マスターがディアンの動きが止まった。
これは不正解な感想だったのだろうか。
メリッサはさらにスカートを握り占める。
帰りたい!!
「君は本当に面白いな。」
黒いローブの影が視界に入ったとたんにメリッサは顎を持ち上げられた。
手袋をしているその手から、人の体温を感じてぞわりとする。
上向いたメリッサの顔を仮面が見下ろす。
「AランチとBランチどちらがいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・Aで。」
「ラファエルAランチの用意を」
「にゃあ」
――――聞き方!!!!!
首切られるかと思った!!!!
マスターガーディアンがメリッサを解放すると、あの黒猫と一緒に別室に行った。
「はああああああああああ」
息を吐き出して一気に息を吸い込んだ。
なんなの一体!!!!
触れられた部分がいまだにぞわぞわする。
乙女が憧れるであろう人生初の顎クイが、恐怖体験になるなんて。
あの仮面と低音ボイス。
中の人は一体何者なのだろう。
執務机の上に鎮座している骸骨の頭がこっちを見ている気がする。趣味が悪すぎないか。
魔界のランチでも出てきそうだ。
「待たせたな」
3分ほどしかたってない気がするが。
マスターガーディアンはトレーに乗せたパスタを運んできてくれた。
「今日はサーモンのクリームパスタだ」
「これって食堂の料理」
「そう。出来立てをテイクアウトしてきた」
魔界のランチじゃなくて楽園のランチだった。
食堂はそんな近くないはずだが。彼はマスターガーディアンなのだ。だから、おそらくなにかのチートが働くのかも知れない。
メリッサは深く考えるのは辞めた。
それに、すっごい視線を感じるのだ。仮面をしていても期待感が伝わってくる。
食べるまで続きそうだ。
意を決してフォークを取る。絶対に落としてはいけない。
「いただきます」
クリームとサーモン、パスタを一口に巻いて食べる。
ああ、やっぱり食堂のご飯はおいしい。
緊張をいっきに吹き飛ばしてくれる。思わず頬が緩む。
「おいしいです」
「よかった。」
「あの!!」
「なんだ?」
「・・・・・・朝ごはんもありがとうございました」
「どういたしまして。ゆっくり食べてくれ、お茶を入れてくる」
なぜか満足気にそう言って、彼はまた隣の部屋へ行った。
もしかして、気を使ってくれたのだろうか。
どちらにせよ、今食べないとおひる抜きになるのは確定なので、ここはありがたく食べることにした。
メリッサは少し急ぎ気味で完食した。ひと心地ついてふと窓の外を見た。
何かがいる気配がする。
外は青空が広がっている。ただそれけのはずなのに、急に窓ガラスをたたく音が響いた。
コンコンコン!
「やっと来たな」
隣の部屋からマスターガーディアンが現れて、指をパチンと鳴らす。
すると、テラスの窓枠に薄い光のヴェールがかかりそこに人影が現れた。
ヴェールの向こうから、黒髪の青年が現れた。
「遅いぞ」
「悪かった。ここまで飛んでくるのは結構大変なんだよ。」
黒髪の男はメリッサに気づくと、にっと笑った。
「久しぶりだな」




