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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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1.資材庫番のメリッサ

 春の陽気が気持ちよく、二度寝したい気持ちを奮い立たせてメリッサはベッドから起き上がった。

 カーテンを開けると、まぶしいくらいに日が差し込む。時計は六時。


 「太陽、のぼる時間、早くなったなぁ」

 メリッサは朝日を浴びて気合をいれると、洗面所に行って身支度を始めた。

 昨夜、仕事を途中でやり残していたことが気がかりで、早く出勤しようと決めていた。

 それに、マスターガーディアンに禁止区域に入って見つかったことが、資材庫の上司に伝わってしかられるはずだ。


 ―――首を洗って待っているように。

 今日起こるであろう出来事を想像して、昨日は死にそうな気分で寝たのだ。

 歯磨きをしながら鏡に映る顔を見る。


 「意外とふてぶてしいわよね」

 死にそうな気分だったのに、ぐっすり寝たのだ。クマ一つない。

 「師匠のおかげで図太くなったわ」

 上司にしかられたって死ぬわけじゃない。きっとマスターガーディアンだって何かしらのお咎めはあろうが、本当にクビにまではしない、はずだ。


 銀色の髪の毛を一本の三つ編みにして青色のリボンで結んだ。そして、丸くて分厚い瓶底眼鏡をかける。

 灰色の目が鏡に映る。

「はあ」


 昨日マスターガーディアンに会ったとき、眼鏡をはずしたままだったことがずっと胸にひっかっかている。

 暗かったし、黒ずくめのラスボス仮面にとっては、どうでもいいことのはずだ。

 美人でもない人間の顔の造形なんて、気にもとめたりしないだろう。


 メリッサは資材庫番の制服の着て、最後に魔法技術研究所職員の証である、黒地に朱金の文様が入ったローブを羽織った。

 女子宿舎から、静かに出勤した。


 街路樹は緑いっぱいで、花が色づいている。

 吹き抜ける風が陽気をふくんでいて、心地がいい。

 魔法技術研究所の一角にある資材庫まで宿舎から十分も歩けば到着する。

 七時前には作業ができる、みんなは九時までに出勤してくるから余裕で終わらせられるだろう。


 空を見上げると、塔が三つそびえ立っている。

 一つ目は魔法技術研究所。

 二つ目は魔法騎士団。

 三つ目は学園都市ウィズダム。


 三角柱を構成するように建つ三つの塔を総称して魔塔と呼び、それぞれの塔を三賢者が統べている。

 メリッサが勤める資材庫は、研究所の魔法術師が使う魔導具などを作る材料と、ウィズダムの学生が使う教材などを管理している。


 魔技研に併設されている保管庫棟の一部署として存在している。正式名称は、保管庫資材部となるが、堅苦しい名称よりも資材庫と呼び、そこで働く人を資材庫番と呼ぶことがほとんどだ。

 保管庫の方には国宝級の魔導具、遺物、呪具などのハザードアイテムが保管さている。

 昨日うっかり入り込んでしまったのは保管庫のほうだろう。新人が立ち入っていい場所ではない。そもそも場所すら教わっていないのだ。


 門番に資材庫番の証を見せて、魔技研一階にある東側の資材庫棟へ向かう。

 起きてしまったことは仕方がないので、せめて昨日の分の仕事は完了させておきたい。

 そう思って出勤してきたのに。


 資材庫の事務室に出勤すると机の上には、昨日やり残した書類に数字が書き込まれ完成したものが置かれていた。

 驚くべきことに作業台には種類ごとに箱づめされ鉱石が置いてあり、しかも箱には鉱石名と個数を書いた紙まで張り付けてある。


 「なにこれ、こびとのしわざなの???」

 昔おとぎ話で読んだ、夜な夜な家人のために仕事をする小人の話を思い出した。

 「一体だれが???」

 さらによく箱の中身を見ると、鉱石のグレードごとに並べられて鑑定まで済ませてある。


 事務室内や資材庫を覗きに行っても誰もいなかった。

 資材庫から事務室にかえって来ると、机の上に紙袋が置いてある。

 「さっきまでなかったよね」

 おそるおそる開けると、サンドイッチとコーヒーのセットが入っている。

 しかも今街で人気のスタボン・カフェのモーニングセットだ。


 中にメッセージカードが入っている。

『本日昼休みに東階段から来るように、来なかった場合は厳罰に処す、だれにも口外しないこと、あと朝食はしっかり食べるように』

 「これって……脅迫状?」

 マスターガーディアンからの呼び出し。来なかった場合厳罰に処す!?

 「それってやっぱりクビってこと??」


 「ニャあ」

 「きゃあ」

 思わず飛びのいたその場所に、ミルクティー色の毛の猫がいた。

 それは珍しい紅い目の猫だった。あの黒猫の仲間の見回り猫だろうか。


 猫はぴょんと軽く飛ぶと机の上に座った。そして紙袋をじっと見る。

 「あなた、食べたいの?」

 「にゃにゃ」

 「ちがう?」

 猫のシッポは、ばしっと袋をたたいた。

 「食べろってこと?」

 猫はうなづく。

 猫は動く気配もなく、どちらかというと待っているようだ。


 「・・・・・・じゃあ、いただきます」

 メリッサは席にすわり、人気カフェのサンドイッチを食べる。

 「おいしい」

 思わず頬がほころぶ。ハムとチーズ、レタスにトマトが入ったサラダサンド。

 コーヒーはアツアツだった。


 肩から力が抜ける。朝から仕事のことですこし緊張していたことに気が付いた。ご飯を食べてる間ずっと猫が座ってこっちをみているのだ。

 サンドイッチに挟まったチーズを小さくちぎる。

 「あなたも食べる?」

 猫は手のひらに乗ったチーズをペロッとなめとって食べた。


 くすぐったい。かわいい。

 頭をなでてあげると、目を細めて気持ちよさそうにしている。

「かわいい猫に会えるって、ここの職場の特権ね」

「にゃ」

「ごちそうさま」

 机の上に乗った猫はちょうど目線があう。

「ありがとうってあなたのご主人に伝えてくれる?」

 猫はしゃべれないが、一応言っておく。


「あなたのご主人ってきっとあの黒ずくめのラスボス仮面よね」

 猫がずいっと顔を近づけてきた。目を細めて睨みつけてきたかとおもったら、メリッサのほっぺをぺろりとなめた。

「なに!?パンくずでもついてた?」

 なめられた頬を手のひらで触る。なんとなく猫相手なのに恥ずかしくなる。賢い猫は行動までキザっぽくなるのだろうか。

 ミルクティー色の猫は尻尾を振りながらどこかへ行ってしまった。



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