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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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プロローグ

 空中の神殿ミーティアに、花が咲いた。


 断崖の岩山が石柱のようにそそり立ち、その上に神殿はある。

 咲くはずもない花が、色とりどりに揺れている。

 

 空には流星が降り注ぎ、蒼白い光に大地は包まれる。


 「魂は不滅、悠久の時を超えてまた会おう。」


 すべてを焼き尽くす蒼い業火が空から降り注ぐ。


 その人は、白い翼を黒く染め、光になって消えた。


 もうすぐこの肉体も終わる。


 次に生まれ変わるとき、わたしは自由だ。

 

 「また、必ず会おうね」


 空から降り注ぐ流星が、新しい魔法と運命をこの地上に落とす。





         ◇◇◇◇◇




 はれて念願の資材庫番に就職したばかりのメリッサは、ピンチに陥っていた。


 「不法侵入に泥棒とは、たいした新人だな」

 頭からかかとまで漆黒の魔法術師のローブで覆い、奇妙な仮面をつけた男が、目の前に音もなく突然現れた。


 今日は、新月の夜。窓から差し込む光は無い。

 ランプの逆光によって出来た陰影のせいか、奇妙な仮面が笑っているようで、その不気味さにメリッサは思わず後ずさった。

 驚いて悲鳴をあげるのを我慢した自分を褒めたい。悲鳴など上げたら不敬だと相手を怒らせてしまったかもしれない。


「マスターガーディアン様」

 魔法技術研究所の保管庫の総管理人で守護者。


 彼は、貴重な魔素材、研究材料となる国宝級の古代魔導具や呪いのかかったハザードアイテムを保護し、悪用しようとする輩から守る存在だ。この保管庫まるごとに、セキュリティシステムの魔法をかけている大天才だと言われている。


 入所式の時に祝辞も述べなかった組織のトップの変わりに、司会者から説明があったことを思い出す。


 「私は資材管理部のメリッサ・レイニードです。その黒猫がとっていったルビーをとりかえすべくここに来たのです」

 マスターガーディアンの足元に、ちょこんと座る黒猫。

 あの猫を追いかけてきたら、知らない部屋に入ってしまっていたのだ。



 ――――それは数分前に遡る。

 資材庫の奥で、猫の鳴き声がした。

 魔法技術研究所、通称魔技研の保管庫内にある資材庫番に就職したばかりのメリッサは、居残りをしていた。大量に届いた鉱石の選別と在庫数を数える仕事を就業時間までに終えられなかったからだ。


  メリッサは手にしていた赤色の鉱石を机の上に置いて、作業台の奥のほう、猫の鳴き声のした方へ行く。


 木箱の影で黒猫が一匹、紅い鉱石を転がして遊んでいた。

 資材庫には見回り猫の聖獣が何匹かいて、侵入者を見つけたり、資材の横領犯を捕まえたりする通称ネズミ捕りシステムがある。


 魔法術師科を十八歳で卒業し、就職してひと月ほどの間に何匹か猫を見たが、黒猫は初めてだった。

 黒猫が転がしているのは色鮮やかな紅い鉱石だった。メリッサはあわてて猫が転がしている鉱石を拾い上げる。


 黒猫は特に抵抗もせずにちょこんとすわってメリッサを見上げている。

 手のひらに乗せよく見ると飴玉くらいの大きさの上等なルビーだった。


 届いたばかりの鉱石に混ざっていたのか、上級保管庫から黒猫が持ってきたのかわからないが、傷でもついたらとんでもないことになる。


  メリッサはその美しいルビーを見つめる。きれいな球体に成形して磨いてある。宝石として使うなら一級品だ。魔素を含んではいないが、逆に複雑な魔法術を刻み強い魔導具を作ることできるだろう。魔技研の研究者が欲しがるに違いない、かなり上等な代物だ。


 だが、なぜこんなところに落ちていて、猫が転がして遊んでいるのか不思議である。

 

 ――――少し視てみたい。

 メリッサは瓶底眼鏡を外し、ポケットにしまう。

 この極上のルビーが何を語るか、見てみたいし聞いてみたい。

 目を閉じ、息を深く吸った。


 『わたしの主のもとへ来てほしい』

 ルビーの声が聴こえる。

 


 メリッサは目を開き、魔力を込めて紅玉を視る。もう少しで紅玉に宿る記憶が視えそうだ。

 と、さらに集中したとき、黒猫が手のひらの上の紅玉を咥えて奪い取った。


 「ひゃあ!!」

 黒猫が連続ジャンプで、シュタッ、シュタッとあっという間に扉の外へ走り出て行ってしまった。

「こら!返しなさい」


 あわてて俊足の猫を追いかける。

 非常灯だけが点いた暗い廊下に、全力疾走する足音が響く。石造りの建物の床は革靴では滑りやすい。角を曲がるときに足がスリップしかけたが、転倒しないように風魔法で壁を蹴り上げ、速度を落とさず追いかける。


 およそ100メートルは駆け抜けたところで、東棟に入り二階への階段を上る。


 東棟は魔力を保有した魔素材が保管されているため、ドアには鍵がかかっている。猫の逃げ場はないはずだ。さらに、猫の向かった東廊下の先は階段がなく行き止まりになっている。端に追い込めば、あとは捕獲魔法でとらえる作戦でいけると算段する。


 メリッサは呼吸を整えながら、慎重に猫との距離をつめた。

 廊下は暗いが、非常灯の灯りが猫の目に反射して居場所がわかる。


 捕獲魔法を展開するために手のひらに魔力を集中した瞬間、猫がクルっと向きを変えて左に曲がり消えた。

「え?」

 駆け寄ると、あるはずかがない階段がそこにはあった。黒猫は踊り場からメリッサを見下ろしていた。


「あれ??階段がある」

 薄暗い中、猫の瞳だけが光っている。その光にハッとして、メリッサは猫を捕らえるべく捕獲魔法を展開する。

「今度こそ、おとなしくつかまりなさい!」

 猫はそれより早く跳躍して上階に消えた。

「まって!!」

 またもや捕獲し損ねる。すぐに体力を振り絞って階段を駆け上がった。


「------眩しいっ!」

 三階の廊下はオレンジ色の明かりが煌々としていて、一瞬めが眩んだ。

 10歩ほど先にいる黒猫が、扉の前でちょこんとおすわりをしてこっちへ来いといわんばかりに尻尾を振ってからすっと部屋の中へ入った。


 「ここはどこ?」

 そこは新人のメリッサは見たことがない場所だった。

 資材庫棟とは違い、廊下には赤い絨毯が敷かれ、壁に掛けられたランプはクリスタルの装飾がほどこされ光を反射し豪奢な雰囲気を作り出している。


 猫が入った部屋の扉は猫一匹分の隙間が空いており、重厚な木製の彫刻が施された扉にはさらに金属の留め金で装飾がされていて、いかにも特別な部屋の様相だ。


 少し覗くと、室内は真っ暗で廊下の明かりに照らされた部分だけが見える。中は所せましと物が置かれているようだ。


 またもや黒猫は、部屋の中でメリッサが来るのを待ち構えてたかのようにちょこんとすわっている。

 ルビーは猫の口から解放され、床にころがっていた。

「にゃあ」

 人懐っこい鳴きかただ。

「もう逃げない???」

 黒猫がさっきまでと違い、飼い猫のようなのんきさで寝そべっている。


 メリッサは暗い部屋の中に入り、ゆっくりと黒猫に近づき慎重にルビーを拾う。

 大きな傷はついていないようだ。

「どうして見回り猫がルビーをとって逃げるのよ」

 黒猫が足にすりよってくる。生暖かく、何とも言えないふわふわ毛の感触が服越しに伝わる。

「か、かわいい!!」


 メリッサは就職してからずっと、聖獣の猫をもふもふしたかったのだ。

「抱っこしてもいい?」

「にゃ」

 これはきっとイエスに違いない。


 そっと黒猫を抱き上げる。ぬくぬくでモフモフを抱きしめた。

 これは癒しだわ。

 まさに地上の天国よ。

 黒猫はされるがままゴロゴロ喉をならしている。

 メリッサは思いっきり黒猫を頭上に抱き上げ、猫の腹側に自身の顔をうずめようとした。


 その時。

「何をしている」

「きゃあ」

メリッサの体が飛び跳ねた。

黒猫は、勢いよく立ち上がったメリッサの手からするりとぬけて、声の主の元に着地した。




 ―――そして現在、マスターガーディアンに見つかったメリッサは、不法侵入に、泥棒の容疑まで掛けられている恐ろしい状況に陥っている。

 「ここは立ち入りできる場所ではない」


 この低い声は、おそらく変声魔法だ。声での人物判定も出来ないようにしている。絶対に中の人を知られたくない着ぐるみの並みの徹底ぶりだ。


 入所式の時に司会者が「彼は・・・・」とうっかり言ってしまったので性別は男性だと判明してしまったのだが。先輩が新人のメリッサに、中の人が誰かは聞いてはいけない暗黙の掟があることを教えてくれたことを思い出す。


 そもそもの原因を作った黒猫を睨みつけるが、そしらぬふりだ。今はとにかく物騒な誤解をどうにか しなければならない。

「新人の私が勝手に部屋に入ったことは反省してます。でもこのルビーは取り返しました。」


 手のひらに乗せたルビーを彼に見せる。

「それは、猫が盗んだものではなく、そのルビー自体がこの部屋からもともと消えていて探していたものだ」


「は?」

「ラファエルがルビーを見つけたのを、君が追いかけまわしてここにたどり着いたのだ」

「え?」

「だから、君は侵入者で泥棒ということになる。見回り猫が盗みなどするわけがない。」


 マスターガーディアンの話から、自分は勘違いで立ち入り禁止区域に侵入したまぬけな新人だとメリッサは思い至った。


 これは懲罰委員会行きだろうか。よりにもよって組織のトップの御用になったのだ。

 黒猫の地上の楽園から、地獄に突き落とされた気分だ。

 ラファエルというあの黒猫が・・・モフモフで憎めないのがつらい。


「それで、どうやってここまできたのだ?」

 マスターガーディアンがメリッサの一歩手前まで近づく。

「その・・・猫を追いかけて」

「わたしのセキュリティの魔法すべてを無効にしてここに入ったと?」


 仮面によって表情も瞳も見えないせいで、感情が読めない。これが縦社会の圧力というものなのか、居残り残業で夕飯もまだ食べていないせいか、緊張で胃に不快感を感じる。

 正解の返答が思いつかないが、とりあえず虚偽報告はNGだと新人研修で習ったことを思い出した。


「セキュリティはひっかからなかったですし、無効にしたりする魔法を私は使えません」

「その、ひっかからなかったが問題なんだが」

 仮面越しにわずかに溜息が漏れた。


 マスターガーディアンはメリッサの手の平に乗ったルビーをそっと取ろうとし、指先がわずかに手のひらにふれた。

 その瞬間紅色に発光して火花が散った。

「わわっ」

 メリッサは反射的にひっこめてしまった手を、恐る恐る見た。火花が散ったが、熱くはなかった。やけどもしていない。


「マスターガーディアン様、お怪我は?」

「いや。けがはない。これはこういう石なので驚かせたな。」

 廊下からの明かりでしか室内は見えないが、近くのテーブルの上に箱があり彼はそっとルビーを置いた。


 メリッサは、そろそろこの状況から逃げ出したいとそわそわする。だが、困ったことに入口側に彼が立っているので脱出路が塞がれている。

「にゃあ」


 黒猫のラファエルが、マスターガーディアンのローブの裾を咥えて引っ張る。すると、彼が移動したので入口側に退路ができた。

「ああそうだな。君はもう帰りなさい。こんな時間まで残業はしないように」

 仮面に黒づくめのラスボス感満載の見た目とは裏腹に、まともな上司の言葉だとメリッサは素直に思った。


 これ以上尋問されるとつらいので、さっさと逃げよう。

 メリッサは今回の件は忘れてくださいと念じながら、扉に向かって歩き出した。


 だが、マスターガーディアンはしっかりと守護者の仕事を忘れてなかった。

「メリッサ・レイニード。明日、不法侵入の沙汰を下す。首を洗って待っているように。」

首。-------クビ!?


 仮面から発せられる、低い声が空恐ろしいことを口にした。

 背筋が凍る。

 「っし失礼します!」

 メリッサは、逃げるように駆けだした。



 *****

 

 マスターガーディアンは、メリッサが去った後で黒猫に話しかける。 

「とても、美しくなった。」

 去り際、廊下の明かりが彼女を照らした。

 彼女の美しい銀髪の三つ編みと、特徴的な深い蒼い瞳が明かりを反射して煌めいたのを、しっかり見ていた。


「涙目になってましたよ、かわいそうに。」

 黒猫は伸びをして答える。

「私の空間魔法を簡単にすり抜けた。本当に以前と変わらず面白い子だ。」

「ご主人。にやけすぎですよ。それに、あんないじわるを言って嫌われても知りませんよ。」


 仮面を外したその顔は、愉悦に浸っていると黒猫に指摘される。

 だが、それは新月の暗闇で黒猫にしか見えない。


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