事件その3 備品盗難(20) 情報整理
「早速ですが時間がありませんので、聞き取りした情報をこの場で話してください。感想は不要です。内容を整理する必要もありません。とにかく覚えている内容を全て話してください。まずは土本君からお願いします」
備品倉庫に3人が入った直後、北條はいつも以上の早口でそうまくし立てた。
その勢いに圧倒され、流石の梅里もたじろいだ。
「あっうん、じゃあ……」
梅里が手の平を斜め上にしたその左手の指先を土本に向けて、会釈をし、土本に先手を譲る意志を示した。
それに対して土本も会釈で返し、胸を張って語り出した。
「おう。じゃあ、まず菅野先輩から。菅野先輩はやはり独自に『反体制派』と言うか、3年の元生徒会役員らを調べていたらしい。で、元役員各自の動きについて、教えてくれるよう頼み込んだら話してくれた。内容は……」
土本は、菅野が説明した内容をそのまま北條に伝えた。
それはおそらく、梅里には既知の情報が大部分であっただろう。しかし、梅里は特に何も言うことなく、黙って土本の長い1人語りを聞いている。
「……あっ、この話の前に、菅野先輩は俺が生徒会入りしたことに納得してないってことと、役員を疑う旨の発言にムカついてるってこと、それからあおいに仕事をさせてることに文句があることを言われた。でもそれらの件は話がついて、その流れで反体制派の情報を貰ったって流れだった」
「……そうですか。その他には?」
「あとは、松田先輩と海野先輩との関係。元々音楽の話に限って人と話す松田先輩が、生徒会で会話する数少ない人物の1人が海野先輩で……」
この内容についても、北條が松田からの聞き取りで大部分把握できている。
だが北條は、顔色ひとつ変えずにその話を最後までしっかり聞き取った。
「以上だ。ちなみに聞き取りの最中、菅野先輩は最初大分ムカついてたようだけど、最後は機嫌は戻った。でも、聞き取りを終えて席に戻った直後にまた機嫌が悪くなって俺の方を睨んでいた。おそらく、俺が備品の隠し場所を知ってて黙ってたことに勘づいたんだろう。まあ後で一発殴られるくらいは覚悟しとく」
「……はい。久保先輩はどうでしょう」
北條は、菅野から殴られる可能性がある土本に何のフォローもしないまま、話を先へと進めた。
「そうだな、じゃあ、久保先輩からの聞き取りについて。これは……」
土本は、久保からの聞き取りについて、その内容を説明するにあたり、菅野の聞き取りの時とは違い、要約することなく会話の発言をそのまま話した。
説明方法が変わったことについて、違和感を覚えた北條は一瞬眉を顰めたが、すぐに元の表情に戻った。
「……で、聞き取りの最中、久保先輩は、終始落ち着いてた。余裕ある様子だった。この件に全く関与してないと言いたげな風に感じた。で、一応関与しているか否か、念押ししてみたけど。さらりと『関わってない』と言われただけだった。犯人の心当たりを聞いたが、わからない、小瀬先輩が怪しいとしか思わなかった、とだけ言われた」
そこで一息入れて、さらに説明を加えた。
「生徒会長選挙の実態と、その後の久保先輩が役員入りした経緯については、俺は少なくとも今日初めて聞いた。とりあえず情報として把握しておいてくれ」
「はい……わかりました。聞き取り内容は以上ですね?」
「ああ、これで全部だ」
「では、続いて梅里さん、お願いします」
北條が視線を梅里へと移したところ、梅里はほっとした表情で語り出した。
「あっ、うん、まずは小瀬先輩からね。『特技』も使って聞き取りをやったけど、やっぱり小瀬先輩はこの事件について何も知らないし、海野先輩から何も聞かされてない。小瀬先輩が知っているのは、前生徒会の組織の内情、それとOBとの関係性」
「前会長の高林先輩は元々OBとの結びつきは強い。でも、この人は正直自分がよければそれで良いっていう利己の塊。内部生優遇の波に乗って外部生を部活動に関する諸々の利益とか指定校推薦枠とかから排斥する流れを後押しする言動はあるけど、組織だって何かをする能力は正直ほとんどないし、一応元副会長の薗部先輩とは付き合いはあるけど、その他の元役員からは若干見限られてるってさ。問題は、その他の元役員、そのうちの内部生」
「薗部先輩は、卒業生と繋がりが強いのは割と知られてる。卒業生の中でも、内部生OB会……『古鴎会』との結びつきが強い。薗部先輩が上との連絡役で、そこからの指示とか要望を元に『反体制派』が動いてるものだと思われるけど……ここが奇妙なところで、元役員らが集まって何かをするということはないらしいんさ。理由はわからない。薗部先輩が、印南先輩と連絡を取り合っているのは分かるけど、それ以上のことは不明。その2人を含めた元役員が集まって一緒に行動している様子はないって」
「あと、薗部先輩は進学クラスだけど、交友範囲は普通科に偏ってて、他の学科の人にはあまり接触してないらしい。英語科の熊倉先輩とは元々ウマが合わないらしくてほとんど話さないし、大高先輩は前からずっと音楽科の中でしか話をしないって」
「古鴎会……それは初めて聞く名称ですが、その組織についての詳細は聞いていますか?」
「ううん、内部生の卒業生で構成された会ってことしか。ウチも存在は知ってたけど、名称は初めて聞いた。おそらく秘密クラブ、学校にも知られてない組織だろうね。今のところ、同窓会とは完全に別組織として存在してる、ということしかわからない」
「わかりました。それについては参考情報として記録します。続けてください」
「うん。次は、海野先輩。最初に言うけど、結局白状させることはできなかった。ごめん……いや、これはなしね」
ここで謝るのも「感想」に当たると思った梅里は言葉を飲んだ。
「『特技』の結果、海野先輩は予め松田先輩に改竄を指示していたことも、備品運び出しを指示したことも当たってた。それから、鶴巻先輩の証言を受けて、本人を上手く言いくるめて、疑われるようなことじゃないっていう印象操作をしてたこともわかった」
梅里による「特技」発動の結果は、事件のあらましを明らかにする内容ではあったが、これを表に出すことはできない。だからこそ梅里は、聞き取り内容の前にこれを言うことにしたのだろう。
そして、その後に聞き取り結果を話した。
「聞き取り中に海野先輩から引き出せた発言は、まず、証拠もなく、目撃証言もなければ調査結果が真実とは認められない、っていうこと。裏を返せば、証拠を出せば、あるいは証人が出れば認めざるを得ないってことだね」
「そうですね」
「それと、前生徒会からの引継ぎ以前と以後では備品事件が『別件』だとわかってた、そう認識していたという言質が取れた。つまり、引継ぎ以降の犯人がそれ以前とは別、という認識がある。それを知っているわけだから、海野先輩が犯人に近くて、事情をよく知っているってことになるよね」
「それは大きな収穫です。ありがとうございます」
実は梅里は、3人で備品倉庫に入った時点から、北條に対して「特技」を行使していた。
それは、何か北條に対して何か疑わしいものがあるとか、そういうことではない。
ただ、単に興味本位であった。
今は、北條の「回転数」は上がっている。今なら、普段見えない北條の心の内が見えるはず、それを知りたい、その思いからの行動だった。
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北條の精神世界は、数多くの人間の心の中を覗いてきた梅里にとっても、特に異質と言えるほどの独特な世界であった。
見渡す限りの大自然、北欧あたりの風景に近いだろうか。
周りを岩山に囲まれた土地。そこは概ね平地であり、地面は背の低い草で覆われている。
その世界に辿り着いた梅里の精神は、そこでは1羽の雲雀となって悠然と青空を飛び回っている。
その平地の中心に、何やら異形の怪物が一体、天を仰いで鼻先を軽く持ち上げ、空から降ってくる何かを待っているかのような姿勢で静止している。
怪物は、犀に似た頭と体を持っている。鼻の上部には角が3本生えており、下顎周りは、河馬に似ている。大きさは既存の大型陸上哺乳類、例えば北極熊やアフリカ象よりもずっと大きい。
体は白に近い灰色で、体毛は薄く、岩肌のような皮膚が露出している。
空は当初概ね晴天であったが、急に雲行きが怪しくなり、その場、平地に何かが降り注いだ。
それは、雹のような白い粒。飴玉程度の大きさの、歪な球形の塊。
それが何千何万と、平地に降り注ぐ。
雲雀は慌てて岩山の隙間に逃れるが、怪物は雹を避ける様子もなく、それどころかみるみる巨大化して、平地を覆い尽くすほどの大きさの口を開いた。
怪物は、降り注ぐ雹を口で受け止めて、それらを飲み込んでしまう。
一旦雹が止むと、怪物は今度はその大地を駆け回り、地面に落ちた雹を下顎で地面ごと掬い取るように食い尽くしていく。
その雹の正体が、雲雀にもようやく理解できた。
それは、雑多な情報の塊。今土本と梅里が北條に向かって話している、その細かな情報が、この世界に降り注いでいた。
それらが大地に降り注いだところを、怪物が残さず食い尽くしていったのだった。
怪物は、おそらく北條が見聞きした情報を一旦脳内に収める、その過程の具現化なのだろう。
その怪物の姿は、あまりにも荘厳で恐ろしい。それは、西洋で云う『ベヒモス』、陸の獣の象徴たる怪物を想起させた。
《これほどの情報量がある聞き取り結果を、全て取り込もうとしてるのか……そして、おそらくこの後、その取り込んだ情報を、怪物の腹の中で整えてから、私たちにも理解できる形で吐き出すんだろうね。すごい。すごいよ、琴音ちゃん》
梅里は、北條の精神世界の有り様、そこで行われた膨大な情報を取り込む一連の流れ、そしてそれを可能にする人智を超えた能力を目の当たりにして、その世界の支配者たる北條に対し畏怖すら覚えた。
《やっぱりあなたは、只人ではない。普段心が見えにくいのも、つまりはそういうこと……》
いつの間にか雹は止み、雲の切れ間から光が射す。
情報の粒を食い尽くした怪物は、再び元の大きさになって、大地の中心に寝そべり、静かに眠りについた。
それを見届けた雲雀は、その世界から飛び立ち、元の世界へと戻っていった。
《今日、あなたの心を知れてよかった。その全貌を正しく理解できる人は少ないでしょう。できることならウチは、そのうちの1人になりたい。なっても、いいよね?》
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梅里が聞き取り内容を話し終えると、一歩退いて北條に発言を促した。
「それでは、私の聞き取り結果をお話しします。まずは会長から……」
そこからの北條の話は、早口な上に情報が圧縮されていたため、梅里と土本にとっては、聞き取ることは可能でも理解が追いつかず、口を挟む余裕がなかった。
内容は、片桐が早い段階で備品事件が役員引継ぎ以前と以後では別件であること、内部犯行がほぼ確実であること、役員内で身内を庇う動きがあり、生徒会内部での調査に限界があることに気づいていたこと。
そして、犯人の2人をほぼ特定していたこと。もうひと押しで犯人を確定できそうなところまで来ていたが、片桐個人がそれをやってしまうと、片桐1人の力で事件を解決させたことになり、それは良くないと考えたこと。あくまで組織で解決したという形を取りたい、そして状況証拠や推量だけでなく、調査した上で確かな根拠、証拠を元に犯人を特定して、しかるべき措置を取りたいと考え、有効な手を打てずにいたところ、タイミングよく土本を連れてきた北條を見て、事件解決にこぎつけることが可能と考えたことから、2人を「特命班」に任じ、調査を任せたこと。
また、ゲリラ放送事件解決時点で、海野は落ち着かない様子を見せていたこと。そもそも最初の説明会の時点で、片桐のブラフ(片桐が「あたしがとっ捕まえれば済む話」と発言した)に過剰反応したために、海野は事件に進展があったり片桐が自ら事件調査に動くのを警戒していた、それをその時既に察していたこと。
そして、海野は時間に余裕ができれば対策を立ててくる可能性が高く、調査をするなら急ぐべきであるということ。
「それから、犯人特定後について、全校生徒の前でこの件を説明し、役員全体として謝罪するとのことです」
それを知らなかった梅里は思わず声を上げた。
「えっ、会長もってこと?」
「はい、それについて、私から会長に対し、全体で責任を負う必要性に疑問を呈しました。犯人だけが謝罪すればよいのではと」
「そこで会長はなんて?」
「そうしてしまったら、2人の立場がない、会長はどうあっても、役員を切り捨てることはない、とのことです。それは今後他の生徒が何か問題を起こした場合に当該生徒を切り捨てるのと同じ、だからそういう手段は取らない、それが本校の生徒会の以前からの基本方針だと……」
そこで土本が口を挟んだ。
「ちょっと待て、内部生優遇っていう以前からの方針を変えるのを打ち出したのが会長なのに、そこは過去の方針を堅守するのか? なんか考えに一貫性がないように思えるけど」
「単に過去の方針というだけでなく、そこに『内部生と外部生との待遇差があってはならない』という考えと通底するものがある、つまりはすべての生徒が平等であるべきという思想が根底にあるものと私は理解しました。会長もおそらくそう考えているかと」
「うん、まあ……それなら筋は通ってるな」
土本は、実際のところ「生徒会は生徒を切り捨てない」という基本方針に反対する意図はなかった。
ただ、今後どこかでそういった疑問を投げられる可能性を感じたことから、あえてその疑問をここで出した。
そして、それに対する北條の回答は概ね満足のいくものだった。
「……以上が、調査に関する話になります。それから、会長の『演技』について」
そこで一呼吸置いてから、北條は躊躇する様子もなく話を続けた。
「聞き取りの場において、会長は、今の振舞いが『演技』であることをお認めになりました。本当の姿も、見せていただきました」
「そう……なんだ」
梅里はそれ以上、何も言わなかった。
「正直なところ、私はまだ心の整理が完全にはついていません。ですが、会長がそうまでして、そして私心を捨てて今の改革を進めていることを、私は否定しませんし、そうしている人を私は尊敬します」
「そうか。ならよかった」
土本は、片桐の「演技」を受け入れたと思われる、そういう様子を見て安堵した。
「それから……」
北條はこの先の内容について、迷いながら、必要な情報のみを選別して話すことにした。
「この件は会長から口止めされましたので、機密情報という形でお願いします。機密とは言っても、会長の任期いっぱいまでです。任期が終われば、口外しても構わない、という言質も取れました」
任期が終われば会長の秘密をバラす可能性があるかのような発言に、土本は堪らず口を挟んだ。
「いや、そんな訳にはいかないだろ? それを口外したら、事情を知らない連中から何を言われるか」
「はい、私もそう思います。今の話は、あくまでこの『秘密』に関する会長の意向をお伝えしたまでです」
その口調は些か冷淡に聞こえた。
その北條の冷淡な説明に、梅里も堪らず北條に抗議した。
「そんな……そんなこと、できる訳ない。ウチらがそれをバラしたら何が起こるか容易に想像つくのに、バラせる訳ないじゃん」
「そうですよね。ですが、例え私たちが暴露しなくても、そういう事態が起こり得る、ということを認識していただきたいのでお話しました。更には、既に『反体制派』にこれを知られている可能性もあって、その人達がこの『秘密』を暴露する機会を窺っている、ということも想定すべきかと」
「はっ……」
現時点では、片桐の「演技」について知っているのは、特命班の2人、梅里、そして鶴巻、この4名のみのはず。
だが、それ以外の者がこれに一切気付いていないのか、今後も知られることがないのかと問われれば、そうとは言い切れない。
そして、生徒会員の中で、これを知って、いつか暴露しようと考える者が現れたら。あるいは、既にいるとしたら。
片桐には、それが誰だかわからないが、そういう者の存在を想定している。そしてその者に暴露を躊躇させる効果を期待して、これを北條に話した、そういう意図を疑うに十分な状況だった。
「ですが、これは今の事件とは別の話ですから、これ以上は別の機会に話しましょう。土本君も、今は把握しておくことまでに留めてください」
「うん……? ああ、わかった」
土本は、北條が何故今のタイミングで自分に対して念押ししたのか、その「意図」を一瞬掴みかねた。
だが、その北條の言葉と、土本を見つめる視線から、極短時間で「意図」に気付き、北條の目を真っ直ぐ見つめ返して頷いた。
その土本の反応を確認した上で、北條は話題を次の聞き取りに移した。
「次に、松田先輩。梅里さんにはお話ししましたが、聞き取りで追及した結果、備品の運び出しと書類の改竄については自白しました。また、海野先輩の生徒会入りの経緯について海野先輩から聞いた内容についても話していただいたので、それもこちらで把握しています」
土本はこれを今初めて聞いたが、北條ならそこまで聞き出せている、という確信があったので、特に驚きはしなかった。
「概要を説明しますと、オーケストラにおいて元々トロンボーンを担当していた海野先輩は、ピアノへと担当を変えられたことで悩んでいたようです。そんな折に、前役員から生徒会役員入りの打診を受けたそうです。その際、オーケストラの担当パートについてトロンボーンに復帰するための便宜を図ることを交換条件として、役員入りを了承したとのことです」
「オケでの自分の立ち位置を取り戻すため、ってことか」
「はい、ですがこれはあくまで生徒会入りの流れ。副会長就任の事情とは異なります。また、『反体制派』との関連もこの情報からは見出せません」
「じゃあ、そこはこの後に追及するしかないってわけだな」
「そうです。聞き取りの中では、『反体制派』との繋がりについて、少なくとも松田先輩は知らない、とのことでした」
「それって、信用できるのか? まだ隠してる可能性があるんじゃないか?」
「その可能性がないとは言えませんが、少なくとも聞き取りの時は、正直に全てお話し頂いていると感じました」
「そうか。なら、そう思うことにする」
「はい。最後に、鶴巻先輩ですが」
「鶴巻先輩からの情報は、昨日大体聞いたと思うけど?」
「はい、とりあえず本日お聞きした話は大きく2つ。あくまで参考情報です。1つ目は、幼少期の片桐先輩と鶴巻先輩の関係に関すること。これは昨日梅里さんからお聞きした話と矛盾はありませんし、事件に直接関係する内容ではありませんので、詳細は割愛します。それから……」
一瞬、北條は鶴巻から自分の「危なっかしい部分」について指摘されたことを話すべきか迷ったが、結局話さないことにした。
「鶴巻先輩が、『備品事件』について特命班の調査が入る前に、疑っていた人物についてお話を伺いました。あくまで参考情報ですが、鶴巻先輩は××先輩を疑っていたので、海野先輩が犯人だと言われて意外であった、とのことでした」
「えっ? ……ふうん、そうなのか」
土本は、その北條の説明が重要な情報に思える割には、特に注目していないかのような浅い説明で終わったことを一瞬不審に思った。
しかし、そこについて問いただす時間がない。なので、この件については特に訊くことはせずに流した。
「ですが、結局鶴巻先輩は見込み違いであったので、この件は忘れることにする、とのことでした。事件にも関係のない話ですし」
「うん、まあわかった。じゃあ、この後どう話を進めるか、だが……」
この後の進行、これについては土本の中にも概ね形はできていたが、あえて北條に意見を求めた。
「まずは、備品の隠し場所を松田先輩に案内していただきます。松田先輩に同行するのは、梅里さんにお願いします。あと、役員からお1人立会いをお願いしましょう」
「うん、わかった。じゃあ役員は、菅野先輩でいいかな」
「はい、ではお願いします。その間、私と土本君で海野先輩の追及をします」
「追及はどういう筋でやっていく?」
「梅里さんが追及しても真相を話さなかったので、難しいとは思います。私のやり方で再度追及して、それでも自白しなければ、その時は……」
北條は、土本に目で訴え、その意図を読み取った土本は頷いた。
「俺のやり方でいいってことだな」
最終的に土本のやり方に任せる、ということは、土本のやる「手段を選ばないやり方」を北條が容認した、ということになる。
「はい、お願いします」
「わかった、そこまでの流れは北條さんに任せる」
「わかりました。では、そういうことで。行きましょう」
北條から移動を促す言葉を聞いて、梅里と土本は無言で頷いた。北條は、2人の頷きを確認したその瞬間には、もう備品倉庫出入口に向かって歩き出していた。
倉庫向かいの生徒会室には、役員が勢揃いしてこちらを待っているはず。
そこで、これから絶対に失敗のできない追及の場、「報告会」と銘打った「糾弾会」が始まる。
北條は、プレッシャーを感じつつも、震える手で生徒会室の扉を開けた。




