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事件その2 ゲリラ放送(13) 第2回経過報告【後編】

 十数分後、報告を終えて教室に戻ってきた北條に、土本は梅里から聞いた話について、かいつまんで話した。

 内容は、会長就任から現在までの生徒会の経緯。内部生と外部生の格差問題。体制派と反体制派の確執。生徒会の共通認識、「会長の意向をどこまでも尊重する」というもの。

 実は、土本は常会終了後の時点では、「反体制派」の存在とその実態についてを聞くだけのつもりであった。しかし、梅里から思わぬ話を聞いたために、その内容について、北條に確認することにしたのだった。


 ひと通り話を聞いた後で、北條はややゆっくりめに話し始めた。

「概ね、私の認識している通りです。……でも、2つほど異論を述べさせていただくと、『反体制派』というのは菅野先輩と梅里さんによる呼称、その2人の捉え方に過ぎない、ということ。もう1つは、『会長の意向をどこまでも尊重』についてやや語弊がある、ということ」

「そうか。なら、まず1つ目、『反体制派』について、詳しく聞きたい。そもそも、何者か分かってるのかも含めて」

「それは……何者か、については、はっきりとしたことは言えません。敢えて言うなら、前役員のうちの内部生はそれに該当すると思われます。ただし、その人たちが今でも『反体制派』の考えのままなのかは、正直分かりません。それ以外の誰がそれに属するかにについてはなんとも」

「と言うことは、『反体制派』の存在は知ってたんだな。でも、実態は把握してない、と」

「そうですね。実際、この数か月で会長の活動に同調する人は確実に増えてきているわけですから、会長の支持者は増加傾向にあるとは思います。ですから、当初それに反対していた人が皆、ずっと同じ考えのままというわけではなく、転向した方も多いと思われます。また、『反体制派』の実態把握について、生徒会は『公的には』行っていませんし、私も含めて大部分の方は実態を把握していない筈です。実態把握と、小瀬先輩に関する噂の発信源についての調査は、菅野先輩の独断と思われます」

「やっぱりそうなのか。大分ややこしい話になってきたな」

「すみません、この件が事件に関係するとは思っていなかったので、当初説明を省きました」


 説明を省いた件について、土本の頭に意地の悪い考えが浮かんだ。一瞬躊躇したが、それでも聞く意味はあると思い直した。

「そうか……ところで、そこに『意図』はあったのか? 元々、内部の犯行の可能性は考えてたんだろ? なら尚更、現生徒会に対する嫌がらせの目的で、備品の件に連中が関与しているという可能性は、俺がこの件に関わる前から想定されていたけど、それを隠す意図があった……ってことはないのか?」


 その質問に、北條は困ったような顔をした。

「……そうですよね、そう思われてしまうのは当然ですよね。私としては『証拠もないのに人を疑うべきではない』という考えから、前生徒会に関する情報、及び現生徒会長のやり方に反対する方々が存在するという情報は伝えずにいました。でも、今思えば、『前生徒会とその関係者の情報を意図的に伏せた』と疑念を持たれても仕方ないと思います。先輩方がそんなことをしていると思いたくない、そうであってほしくない、という意識があったこと、そのために一部情報を伏せたことは認めます」

 北條が申し訳なさそうに、それでも真摯に自分の落ち度を語る様子を見て、土本は先程の質問を少し後悔した。

 だが、これは聞く必要がある。確認した上で、今後の調査のやり方を伝える必要もある。そのために必要なこと、やむを得ないことだと自分に言い聞かせた。


「うん、まあ責めるつもりはないんだ。ただ、そういう意識があったということを知っておきたかったんだ。委員長にとっては、顔を知ってる生徒会の先輩だもんな。それは分かる」

「はい、ですがこれは、やはり私の落ち度です。調査する以上、情報に『意図』を挟んで正確に伝わらなくなる可能性を先に言及したのは、私の方なのに」

「まあ、そこは今後気をつけてもらえればいいさ。それより、俺が知りたかったのは……恩のある先輩や、生徒会の中でも親しい人を疑うのは、さすがの委員長でも躊躇する、ってことをはっきりさせたかったんだ」


 その土本の一言に、「疑うのを躊躇するようでは、生徒会関係者を疑うような調査は任せられない」という意図を察して、北條は慌てて取り繕おうとした。

「いえ、できます! 先輩を疑うことも、それに関する調査も、ちゃんとやります。ですから……」

「もちろん、やるべきことはやってもらう。でも、調査は俺と2人でやってるんだ。委員長がやりづらいところ、俺の方がすんなりできそうなところについては、俺に任せてくれてもいいだろ? 逆に、俺がやりづらいことは委員長にやって貰うわけだし、そこは『お互い様』ってやつだ」

 正直なところ、土本は、ここまで北條が狼狽(うろた)えるとは思っていなかった。

 調査のうち、ほんの一部から外されそうになっただけで、この反応。

 おそらく彼女は、調査の全てにわたり、手をつけようとしている。全てを抱え込もうとしている。

 そこまでする理由はなんなのか、土本にはまだ理解できていない。


「……そうですね、そういうことだってありますよね……その時は、申し訳ありませんが、お願いします」

「よし、わかった。重ねて言うけど、これは『お互い様』だからな。何も申し訳ないことなんてない」

「はい、分かりました」

 

 今ひとつ「分かった」風ではなさそうではあったが、土本は話を進めた。

「あともう1つ、『会長の意向をどこまでも尊重する』ということに語弊がある、と言ってたな。それはどういうことだ?」

「あっ、はい。それについては、役員全体としてある程度『尊重する』のは事実です。けれど、絶対ではありません。副会長のお2人はその通りではあると思います。でも菅野先輩は、時々異論を申し立てていますし、小瀬先輩や松田先輩については、基本的に発言が少ないため、常に尊重しているかどうかは不明です」

「各役員で温度差があるってことか」

「はい。少なくとも私の見た限りでは」

 海野については、「異分子」であることから、仮に温度差があっても理解はできる。だが少なくとも、梅里は「会長のファン」と言い、北條は会長を積極支持していると見ている。ならば、彼女に関しては、『どこまでも尊重する』という表現の通りだと考えられる。

 ここで気になるのは菅野の存在で、外部生という立場上、むしろ会長を積極的に支持するべきであるはず。それが「異論を申し立てる」というのはどういうことなのか。


「そうなると、菅野先輩が少し気になるな。その異論っていうのは、例えばどんなものなんだ?」

「そうですね、当初会長が言っていた、外部生も内部生もない、という発言と、そういう意識をなくさせるための活動について、そもそも菅野先輩は批判的でした。現に構造として存在するものを否定する、あるいは意識から無くす、というのは容易ではない、労力が掛かる割に効果が期待できないと」

「でも、結果的には効果は出たよな」

「はい、そして、その後特にその時の発言は問題になっていません。少なくとも、会長の考えそのものを否定するということではなく、実効性やリスクを考慮した上で異論を申し立てていた、と私は考えています。役員の方々も概ねそのように考えているかと」

「なるほどな。なら、それは方針そのものに反対してるとかではないってわけか」

「はい、むしろ問題点について、会長に向かって臆せず発言できる方が役員にいるのは、生徒会にとっては良いことかと思われます」

「でも、そうなると、少なくとも『会長のファン』ではなさそうだな」

「そうですね。そういった風ではないです」


 そうなると、属性が悉く菅野と対立する者が役員に1人いる。

 内部生と、外部生。

 会長のファンと、そうでない者。

 元反体制派と、それを個人的に追う者。


「じゃあ……菅野先輩と海野先輩って、ひょっとして、仲は悪いんじゃないか?」

 その土本の指摘に、北條は言い辛そうに答えた。

「えっ……はい。正直なところ、険悪です」

「委員長から見てそうなら、少なくとも役員は皆気付いてるよな」

「と、思います。当然、会長も」

「そうか。ならその様子を見ておく必要があるな」

「えっ?」

「来週は、俺も報告会に出る。そこで役員の様子を見ておくことにする」

「そうですか。では来週は2人で報告ということで、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 土本が報告会に顔を出す、と告げた時、何故か北條は笑顔を見せた。

 それは一体、何を意味するのか。喜んでいるのだろうか。

 だとしたら、報告会に出る、ただそれだけで喜ぶ理由は何なのだろう。土本には、その理由を知る術もなかった。

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