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最終手段

 夜会から二週間が経った。


 私がリベラート様の婚約者と知ってから、心なしか屋敷での私の扱いは前よりよくなった。

 でも、それはいいことばかりではない。

 最近は「ヴァレンティ公爵家に嫁ぐのなら、仕事をやめて花嫁見習いをしろ」とまで言われるようになった。仕事は私の生きがいなので、断固拒否している。


「仕事は絶対にやめないわ。婚約だって、いつ破棄されるかわからないし」


 そう言うと、両親はギロリと目を光らせて「きちんと捕まえておきなさい」とドスの利いた声で私に言い放った。

 ――前まで私の結婚については〝好きにしていい〟と言っていたくせに。ヴァレンティ公爵家と聞いた途端、目の色変えてこうだもの。

 いっそ清々しく思ってしまいそうなほどの両親の変わりように、私はひとりでため息をつく。


「ねぇフランカ。いつリベラート様をお呼びになるの?」


 なによりいちばん面倒なのは、毎日のようにお姉様からこう聞かれること。


「リベラート様は騎士団に入っているから忙しくて、いつ暇ができるかわからないんです」

「ふーん。とか言って、私に会わせるのが怖いだけなんじゃないの?」


 お姉様は片方の口角だけ釣り上げて、毎日毎日、こうして私にプレッシャーをかけてくる。正直、かなりストレスは蓄積されていた。

 とどのつまり、お姉様は私を通じてリベラート様に会いたいだけなのだ。

 ……会ってどうするつもりだろう。まぁ、大体予想はつくけれど。


** *


 夜会で気まずい空気のままお別れしたティオは、後日魔法省で会うと、すっかりいつものティオに戻っていた。


 まるであの日のことはなかったかのように普通に接されて、戸惑いつつもありがたく感じていた。

 ティオが最後に言った言葉の意味は、私にはわからない。しかし、あまりいい空気が流れていなかったのは確かだったので、その気まずさが職場でも続いたらどうしようという不安があった。

 だから、ティオが変わらず明るく声をかけてくれた時、とても安心したのを覚えている。


 それからは、いつも通りの私たちに戻っていた。

 会話中、たまにリベラート様のことを聞かれることがあるけど、「あれから会っていない」と言うと、なぜかティオは嬉しそうにしていた。……余程、リベラート様のことをよく思っていないみたい。

 


 そして今日は、夜会ぶりにルーナと会う約束をしている。

 この前は私の屋敷だったので、今日はルーナのところへ行く予定だ。

 仕事後、私は馬車でルーナの屋敷へと向かった。

 到着すると、ルーナがテラスにお茶とお菓子を既に用意してくれていて、私はそれらを楽しみながら、ルーナとのおしゃべりに花を咲かせた。


 最初は他愛もない会話をしていたが、実は今日、ルーナに話したいことがあった。

 タイミングを見計らい、私はルーナにその話を切り出す。


「ねぇ、聞いてほしいことがあるんだけど。……リベラート様から、二週間後に休暇がとれたから私の屋敷に来るっていう内容の手紙が届いたの」


 その手紙は、三日前に届いたものだった。

 

「へぇ! ついにご両親に挨拶ってことね」


 あまりテンションの上がらない私と違い、ルーナは楽しそうに声を弾ませている。

 別にわくわくして聞くような惚気話をするつもりではない。


「それが結構たいへんなことになりそうで、今から気が滅入っちゃって……」

「たいへんなことって?」

「……アリーチェお姉様が、リベラート様のことを気に入ったみたい。私が婚約者なのもよく思っていなくて、毎日早く屋敷に連れてこいって言うの」

「えぇ……! そ、それは厄介ね。もしアリーチェ様がリベラート様に迫ったりしたら……」


 有り得そうというか、百パーセントあると言い切れる。

 お姉様は昔からそういうところがあった。ごくたまにいる、私に声をかけてくれた稀な令息に目を付けて、私の前で擦り寄ったり。とにかくお姉様は、自分がいちばんでないと嫌な人なのだ。


「リベラート様ももしかしたら真の狙いは私じゃなくて、アリーチェお姉様の可能性だったり……」

「それはないと思うわ。リベラート様って真っすぐな人だもの。アリーチェ様が好きだとしたら、回りくどいことしないで直接いくんじゃないかしら。大体、リベラート様がアリーチェ様と会ったのってこの前の夜会が初めてでしょう? それに、リベラート様は興味がなさそうな態度だったし……」


 私が倒れていた際にふたりは話をしている。ルーナはその時の様子を私に教えてくれた。


「アリーチェ様はたしかに目の色を変えていたけど、リベラート様は普段通りよ。むしろ、ふたりのラブラブっぷりを見せつけたらいいじゃない!」

「ラブラブって……。私とリベラート様はそういうんじゃあ……」

「ていうか私、ずっと聞こうと思ってたんだけど、あの後リベラート様と話した時なにかあったの?」


 ルーナったら、こういう時だけ勘がいい。


「実はね……」


 私はバルコニーでリベラート様と話して感じたことをルーナに話した。

 リベラート様が再度告白をしてくれたこと。でも、私を好きな理由が明確でないことと、勝手にキスをしてきたことも。……ルーナは大広間でキスをされたことを知らないので、二度目とは言わなかったが。


「えぇ!?」


 話を聞いて、ルーナが大きな声を上げた。

「それはよくないわ!」とリベラート様への否定的な言葉を口にするかと思いきや、ルーナは斜め上の発言を投げかけてきた。


「どうだったの、リベラート様の唇の感触は!」

「っっ!」


 あまりに唐突なその質問に、私は食べていたクッキーを喉に詰まらせ、必死でみぞおちを叩きながら紅茶をかきこむ。令嬢としてあるまじき姿だ。


「な、なに言ってるのルーナ! 覚えてないし……どうでもいいでしょうそんなこと! 問題はそこじゃないわ!」

「えー? 私としては、いちばん気になるところだったのに。それに、キスをしてきたことのなにが問題なのよ」

「本当に好きな相手に、軽々しくそんなことできる? 私だったら、嫌われるのが怖くて到底無理」


 私が言うと、ルーナは考え込むように人差し指をこめかみにあてながら、「うーん」と唸る。


「本当に好きだからこそ我慢できなかったんじゃない? ほら、リベラート様って前から破天荒なとこあったじゃない」

「ルーナはリベラート様に甘すぎるわ! 我慢できなかったからしていいってわけじゃないでしょう」

「……私からすれば、フランカがリベラート様に厳しすぎる気がするけど」


 別に厳しくしているつもりはない。リベラート様が私を怒らせるようなことをするのが悪いだけだ。でも言われてみれば、私はリベラート様の言動や行動ひとつひとつに、昔から敏感な気もする。……なぜかはわからないけれど。


「そういえば、リベラート様に魅了魔法がかかったままかもしれないって話はどうなったの? なにか進捗はあった?」

「そう! そのことなんだけどね!」


 大事なことを忘れていた。実はその件に関しては、大きな進捗があったのだ。


「魔法省の上司が、凄腕の魔法使いを紹介してくれるって。その魔法使いにかかれば、呪いや魔術がかかっているかどうかは一目瞭然。解呪もできるかわからないけど、もしかかっていたら試してくれるって言ってくれたの」


 私は魔法省の上司に頼み、世界で一握りの凄腕の魔法使いを紹介してもらうことに成功した。学園時代、先生のツテを頼った時と同じ方法で、自身の魔法研究の為と熱心に頼み込んだのだ。


 実際、魅了魔法など感情を動かす魔法に関しては、〝解呪が成功したと思っていたが実は出来ていなかった〟ということが、過去にごく僅かだがあったようだ。魔法にかかりやすく、解呪が効きづらい体質の持ち主が、この世には多くはないが存在すると聞いた。

 もしかしたら、リベラート様はそういった体質の可能性がある。

 だから凄腕の魔法使いに見てもらい、リベラート様はちゃんと解呪ができているのかを確認してもらう。そこで解呪されていることが証明されれば、その時私はやっと、リベラート様の愛を本物だと思えるだろう。逆に魔法がかかったままだったら……私は正式に、彼との婚約破棄が決定する。


「すごいじゃない! さっさとやってもらうべきね。真実の愛だとしたら、疑われ続けているリベラート様があまりにも不憫だと思わない?」


 ルーナにこのことを話すと、ルーナは早々に確認してもらうよう私に言った。


 しかし、この話には重要な穴も存在した。


「あまりに有名で人気な魔法使いらしくて、魔法に関するいろんな依頼が殺到しているらしいの。私が会えるのは……早くても一年後になるみたい」

「一年後!?」

「だから、それまでなにがなんでも絶対結婚しないようにしなきゃならないの。……疑いすぎって思われるかもしれないけど、これは半分リベラート様の為でもあるのよ」


 私だって、なにも自分の為だけにこんなに勘ぐっているわけではない。 

 何度だって言うが、実際は好きでもない令嬢と結婚させるなんてことになったら、私はリベラート様の人生をめちゃくちゃにしてることになる。


「それまでに、フランカがリベラート様に本気にならないかみものだけどね。私は応援してるわ。リベラート様が拗らせたフランカを一年以内に落とすのを」


 ルーナも私のそんな思いを言わずとも感じ取ったようだが、すぐに楽しそうに笑ってそう言った。


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