第六話 「態度とは相手により変化する」
私には腹違いの兄がいるらしい。
いわゆる婚前交渉というやつだ。父は資産家の母の家から沢山のお金を貰うことを引き換えに、当時愛人であった芸者の女を捨てたのだ。その芸者との間にできたのが腹違いの兄というわけだ。
好きじゃなくなったからなのか、母と結婚するのに邪魔だったからとか、毎回のように変化する母の返答に一貫性はなかった。
不定期ながらもあの女の元へと通う父は。
その愛人が死んだ冬、父と墓参りに行った。他人である私を連れて。
ひしゃくや花束を積んだ木桶が音を立てる。
「世加、水を汲んできなさい」
いつもと変わらない命令口調が耳に入る。
ポンプ式の水くみ場へ向かい、レバーを上下に動かした。
墓に戻ろうと桶を持ち上げたその時、視界の隅に父がいた。雪のような着物を纏った誰かと共に。
真っ黒でまっすぐな髪が揺れる。
白椿の垣根を越えて、残雪を背景に佇む美しい人。そのいで立ちから醜い自分をより卑下された気がして、憎しみと共に降り積もった。
○ ○ ○
カントリー調の街並みが流れる。
ざらついたタイルは足音を鈍らせた。
歩きながら紙袋を片手に、転がっていた万札のしわを伸ばす。その中に四つ折りで畳まれた、スケッチブックの切れ端があった。
『今日のメモ
アップルパイの素・ご飯の素・ペトロール・ヴァンゴッホ20・ルフラン黒と白・木炭』
よくわからないカタカナは恐らく画材だろう。
重く閉ざされた手動のドアを開ける。
埃をかぶったアルカリ絵具が『半額』の文字を見せびらかす。
奥から匂ってくる画材店特有の匂いが肺を満たす。実家でも目にする額縁は蛍光灯に当てられ て、輝かしいほどの光沢を放っていた。
レジの横で老人が、本を片手に椅子に腰かけていた。
パーカーのポケットから紙切れを出す。
「これは画材道具ですか?」
いかにも私のじゃない感が漏れ出ている。
うすら目を開いた老人はゆっくりと手元を見つめ、紙切れを受け取りスタスタと奥の方へ向かっていった。
レジ横に置かれているハート形のバスケットには、いろいろな形をした消しゴムが盛られていた。その中に混ざっているリンゴの形をした消しゴムが張り付くように目についた。




