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第五話 「求められるもの」

 今思えば愛が欲しかったんだろう。

 初めのうちはここまでになると考えもしなかった。

 中学2年のころ、保健体育で習ったあの行為は、大好きな人同士がもっと好きになるために行うものだったのだ。

 しかし小学生のころから普遍的に行われたそれは、社会一般から見て異常なことだった。


 ジャージ姿の教師が並べられた文章を読み上げる。読み上げられるそれは、私は間違ったことをしているのだということを、飛び散ったガラス片のように突き刺してきた。

 昨日触られた部分が疼く。

 頭に入った文字が意味を理解するころには、それを口に出さないように首を絞める。


 どれだけ拒んだところで、この事実は変わらない。

 あの人が今日も私の元へ訪れるように、これは私の中で当たり前に起こる日常なんだ。




   ○ ○ ○



 「せつか」

 にこやかな顔をして、埃をかぶっていた紙袋を差し出される。手に取って中を見開くと、くしゃくしゃに丸められた万札が数枚転がっていた。

 「アップルパイまた作ってよ」

 「りんごを買いに行けと?」

 「いえーすっ」

 家主は腕を高く上げ、勢いよくイスに腰掛けた。

 鉛筆やら消しゴムやらで溢れた机の引き出しに手を突っ込み、少し曲がった一万円札を取り出した。

 「これはお駄賃。その袋に入っているお金も、おつかいで余ったら取っていって」

 厚手のカーテンから朝日が射しこむ。

 そろそろ家主が寝る時間だ。


 「小田巻って今までどう生きてきたの」

 家主はいきなり立ち上がり、目の前で一回転した。

 「えー気になっちゃうのぉ―」

 ニマニマと口を緩めながら手をぶらつかさせる。

 積み重ねられた本の上を飛び回る黒猫が、瞳を大きくしてこちらに向いた。

 そんな目で見ないでほしい。騒々しいのは目の前の男なんだが。

 「はぁ」


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