011
ホルヘを見送った帰り道、荷車でオレンジを売り歩く男に目が止まった。
ふと周りを見渡すと、あちらこちらにいる。
「前からいたっけ…?」
「招待した船以外にも広まっているようですよ。」
耳ざといルカがトニアの一人言に返事をしてくれる。
「えぇ〜もう!?」
「取引した船はすべて出航したのに、どこから聞いたか保存食の依頼がひっきりなしですからね。」
「おかげで懐が温かいよ〜。」
ロッコはあからさまに嬉しそうだし、ルカも満更ではなさそうだ。
「ん〜でも、早すぎない??これじゃ、私が見境なく売ったみたいじゃん。」
取引した船長たちを思い浮かべて、申し訳なくなる。
商売は信用が命なのに。
「…見境なく売ったんだろ、下っ端の船員どもが。」
相当いい小遣い稼ぎだったろうな。とレオが続けた。
「そいつら全員、海に落ちろ!」
トニアが吠える。
後ろを歩くレオから、笑い声が降ってくる。
「お前、俺らより過激だな。」
楽しそうなレオの声とは裏腹に、トニアは内心焦っていた。
安全に航海できるようになると、船の行き来がもっと増えるだろう。
そのせいで誰かに、商売で先を越されるのが心配だった。
「それにしても早くない?取引の場には幹部クラスしかいなかったのに…。」
「たしかに、妙ですね。彼らも高い金で買った情報を下っ端にまで詳しく話さないでしょうし。」
「オレンジばっか食べさせられたら、そりゃ気づくんじゃない?」
馬鹿でも気づくよ〜と、ロッコが口を挟む。
「それはそうだけど…。保存食の存在までバレてるのが気になるんだよね。」
(次の寄港時ならまだしも、なんで出発前にそこまで漏れたのかしら。)
『うわあぁー!』
『きゃーっ!!!』
考え込むトニアだったが、悲鳴のせいで意識が引き戻される。
声のする方に目をやると、露店の商品が散らばっているのが見えた。
その手前には、走って向かうレオたちの姿。
「へぇ、治安維持も仕事の一環ってわけね。」
(どれ、見物と行きますか。)
乱闘に胸を躍らせて追いかけたが、そこにいたのは引き離される二匹の犬だった。
どうやら犬同士の縄張り争いが過熱しすぎたようだ。
(ちぇっ、マフィアの殴り合い見たかったのに。)
「おいっ、離れろって。あっ、くそっ!こいつ噛みやがった!」
足の長い猟犬のような犬は、レオの太ももをひと噛みすると、邪魔が入ったとばかりに走って去っていった。
(それにしても、あの犬、つっよ。あの速さ、何?)
あっ!と思わず大きな声が出そうになり、慌てて両手で口を抑える。
「次はこれに決まりね。」




