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「どこ行くんだよ!」


「…ノヴェッリに戻る。ホルヘに会わないと。」


どくどくと体全体が心臓のように、強く波打つ感覚がする。


「しばらく放っておいて。」


船着場で出発間際の船に急いで飛び乗る。

レオも慌てて乗り込む。


そのまままっすぐ甲板に向かい、煙草に火をつけた。

1本、2本、3本…立て続けに吸っても、まったく気持ちが落ち着かない。


ノヴェッリに戻ってからも打ちのめされた心は全く回復せず、次の日、陽が高くなって来た頃、ようやくベッドから起き上がった。

ホルへと会うために港に向かう準備をする。

外に出ると、レオたちが待っていた。


(あれ?そういえば、時間言ったっけ?)


「トニアちゃん、おはよぉ〜!」


ロッコが大きく手を振りながら、近づいてくる。

早く早くと、馬車に押し込まれる。


「あぁ〜あったかい!寒くて死ぬかと思った〜。」


「もしかして…ずっと待ってた…?」

ロッコを見上げながら、おずおずとトニアは尋ねる。


「もう〜馬車の中で待てばいいのに、若ったらさ…」


ガンっ、と向かいに座るレオがロッコの脛を蹴る。



馬車を停めると、広場を抜けて、ホルへの船まで向かう。

荷物の積み込みがちょうど終わったところのようで、ホルヘがこちらに気づいて手をあげる。


トニアがロッコにちらりと目をやると、担いでいた麻袋をホルへの前にどすんと置いた。


「アーモンド…ですか?」


袋の中身を確認して、トニアに顔を向ける。


昨日シリアーノに言ったのは支払いだけではなく、これを取りに行くのも理由の一つだった。

トンボ帰りしたトニアに代わって、ルカが調達してくれたものだ。


…これは他の船には言ってないんだけど、と前置きして話し始める。


「航海中に妙に怯えたり、怒りっぽくなる船員とかいない?」


そういう時は、これを試してみて。と、近くの樽にロッコを座らせ、木づちで軽く膝を叩いてみせた。

彼の膝がポーンと跳ね上がる。


「あっはっはっ!何これ!」


見た?見た?と子どものようにはしゃぐロッコ。


「もし、膝が跳ねない船員がいたら、これ食べさせればいいから。」


「あれも解決できるんですか!てっきり、航海中のストレスのせいかと…。」


ありがたく頂きますね、と礼を言って、ホルへは船に積み込むよう指示する。


「今回は差し上げますが、次回からはうちから買ってくださいね。」


まったく、ルカはしっかりしている。

ちなみにアーモンドもシリアーノの名産である。



「…準備は終わった?」


「えぇ、おかげさまで万全です。」


トニアは手持ちが心許ないホルヘに、少し資金を援助していたのだった。

彼のおかげで稼いだようなものだったし、もちろん治療法の情報料ももらわなかった。

そのせいで、ルカにはひどく責められたが。


(ルカには関係ないお金じゃん…。)


「頼んだものは覚えてる?」


もちろんです。と、胸元からメモを取り出し順番に読み上げていく。


「ん、大丈夫そうね。それじゃ、これ。」


持っていた紙袋をぐいと、目の前に突き出す。

ホルへは妙な重さに違和感を覚え、その場で開けると現金を丸めた束だった。


「え…っ?」


「仕入れに使って。」


次の瞬間、トニアがホルへのシャツの襟を掴んで引き寄せると、声を低くして凄む。


「持ち逃げするのは勝手だけど、約束のものを持ってきたらこんなもんじゃないわよ。」


自分より背の低い少女に胸ぐらを掴まれたのにも関わらず、ホルへは怒りが湧くよりも、その勢いに飲まれて動けなかった。


「たかがその程度で、世界の交易港ノヴェッリから手を引くのは勿体無いでしょう?」


手を離し、ホルへの胸元を整えながら、トニアが続ける。


「戻ってきたら、ばかみたいに稼がせてあげるわよ。」


紙袋を抱きしめながら、無言でホルヘがコクコクと頷いた。

トニアは満足そうに彼の顔を見上げ、ニヤリと言い放つ。


「さっさと戻って来てよね。」


遠ざかるホルヘの船をトニアはいつまでも見つめていた。

一日でも早く戻ることを願って。




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