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魔術師団所属、5歳。超有能な家庭教師が退場させてくれない。  作者: 氷雨そら


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5/5

その前に侍女を助けたい


 目が覚める。太陽は高く昇っていた。


(――なんてことしてくれるのよ!?)


 対人戦闘用の魔術で三時間ほど眠らされていたようだ。

 もう一度言うが、対人戦闘用だ。


 けれど、寝覚めはすっきりとしている。


 私の記憶にあるアランは、あんな無茶をするような人ではなかった気がするのだが――。

 でも、5歳の頃は彼の厳しい授業が嫌で、逃げまくっていた記憶しかない。

 つまり、私はこの頃の彼のことをよく知らない。


「……お腹、すいた」


 心は十八歳。身体は五歳。

 お腹がすいたら、五歳は我慢できないのだ。


(記憶はあるけど、精神年齢が身体に引っ張られている気がするのよね~?)


 ベルを鳴らすと、侍女が現れる。

 しかし、私の専属侍女であるアンではない。


「……」


 そう、彼女は私の誕生日の翌日、辞表を出すのだ。

 そして、弟の治療費のために高齢の貴族の後妻として嫁ぐのだ。


(幸せになれるなら、年齢差があってもいいけど――)


 ゆっくり寝たら、やり直し直前に見た前髪を上げたアランの美貌以外もいろいろと思い出せるようになってきた。睡眠大事。


「アンは、嫁ぎ先で病死する……」


 運命と言えばそれまでだ。けれど、妙に引っかかる。

 こんな引っかかりを放置して後悔したことが、何度もある。

 まだ五歳ならわかるはずがない――だけど私は、王国の防衛のため尽力してきた経験と勘がある。


 お父さまは帰ってきているようだ。

 そう、このあとお父さまは誕生会に参加できなかったお詫びのために、商人を呼んでドレスを作ってくれるのだ。


 ――忌まわしいドレスを。


 あのドレスを選ぶのはやめよう。そう決意しつつ、私はお父さまの執務室に向かった。

 扉は閉められている。お父さまに気がつかれないように、筒状に丸めた紙に微弱な魔力をながし魔法回路を形成――簡易盗聴魔導具だ。


『残念だよ』

『申し訳ありません。急遽縁談がまとまりまして』

『そうか――お相手は?』

『フーレ子爵です』


 ――フーレ子爵。アンが誰に嫁いだか幼い私は知らなかったけれど、その名前には聞き覚えがある。

 

 彼はこの十年後、税金をごまかした罪で捕らえられる。

 しかし問題はそこではない。捕らえられた結果、余罪が次々明らかになったのだ。

 覚えてる。余罪を調べろと言われて、フーレ子爵家の帳簿管理魔導具に魔法回路を使って侵入して探らされたから……。


 当時の私は、国防だけではなく国内外の魔術情報管理を一手に背負わされていた。

 寝る間も惜しんで仕事をさせられて、王子妃教育まで――うう、絶対にもう魔術師団には入らないし、第三王子の婚約者になったりしない。


 余罪の中に彼の妻たちの不審な死も含まれていた。

 それについては、証拠が揃わなかったが……。


 ゾッと背筋が粟立った。

 その中に、アンも含まれていた……?


「……余罪、すでに罪を犯してる?」


 今現在、この家にある情報管理関連の魔導具が置いてあるのは二カ所。

 お父さまの執務室と……。


「図書室にいかなくちゃ」


 お父さまは、たぶんアンが嫁ぐ相手を調べるだろう。

 情に厚い人だ。だが、この時点では不審な点は見つからず――止めなかった?


「情報を見たときに引っかかる点があれば、お父さまは調べるはず」


 図書室の奥、この場所も鍵を開くための魔法回路を知らなければ入れない。

 幸い、周囲には誰もいない。

 本来であれば五年後に教えてもらえるはずの魔法回路を描き解錠する。


「フーレ子爵領、税金逃れの情報さえ見つければお父さまなら……!」


 お父さまが調べるとすれば、魔術師団の関係者向けに解放されている貴族情報だろう。


「――不正利用がバレたら、重罪」


 渇いた喉を潤わせようと、喉がゴクリと上下する。

 今から私がしようとしていることは、魔術師団規律に明確に違反する。


「まずは、どこから侵入したかの痕跡を消す魔法回路」


 修正に気がつかれたとき、どこから侵入したか気がつかれたら、真っ先に疑われるのはお父さまだ。


「迅速に――」


 魔法回路を複数起動して、いくつもの情報を同時に確認していく。


「あった――この箇所を手前に移動して」


 背中を冷や汗が伝う。偶然、この情報を閲覧している人がいたら終わりだが――。

 その確率は低い。


「ちょっと……誰よこの情報入力したの!? 正規の書式に則っていないじゃない!」


 文字列の乱れをいつもの癖でつい直してしまった。


「――痕跡を消して……アクセス履歴消去、万が一にも辿られないよう攪乱」


 そこまで終えて、魔法回路を消す。

 魔力がごっそりなくなった。子どもの魔力量は大人に比べて少ない。


 図書室から外に出る。

 そこには、なぜかアランがいた。


「シエラお嬢様……勉強のお時間をすぎています」

「ご、ごめんなさい!?」

「あれ……寝かせたはずなのに、どうして乱れていた魔力が整うどころかごっそり減って……」

「そ、それは……!」

「昼寝が足りない? 子どもの成長には、睡眠が不可欠って書いてあったからな……」


 アランが再び魔法回路を描いた。対人戦闘用睡眠魔術の。


「授業は夕方からにしましょう」

「ちょ……あなたも子ども、眠い。う……私忙し、眠い。お腹すいた、眠い」


 魔力を使い切ったばかりの五歳の私が、超一流の対人戦闘用魔術に抗えるはずもなく……。

 食欲対睡眠欲。眠い。お腹すいた。眠い。眠い。眠い。睡眠欲の勝利。



「ああ、そうか。ご飯も大事って書いてあったか」

「スヤァ……」


 アランはやっぱり、どこかおかしい。ちょっとズレた言葉を聞きながら、私は再び眠らされてしまった。


 * * *


「誰だこの資料を作ったのは……有能すぎる……」


 当初の目論見とは違い、お父さまの目にとまるのが私が修正した正式な書式であることも知らず――。とにかく、このあとお父さまは、フーレ子爵に関する情報の違和感に気がついて、アンの結婚を止めることになるのだが――。それは二度目のお昼寝のあとのお話。



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