第56話 吹き飛んだ先の悲劇
僕は反作用で後ろに吹き飛んでいった。
「うわぁぁぁ!」
「マスター!」
「レンちゃん!」
ルドルフとルナがすぐに上空に飛び全速力で追いつこうとするが、それでも間が開いていく。調子に乗って全力で撃ったのが災いした。僕の身体は今音速くらいの速度で後ろに飛んで行っているのだ。ルドルフに瞬間移動で止めてもらうことも考えたがすぐに諦めた。この速度では焼け石に水どころかルドルフに激突して大惨事になるだろう。
ならどうするか僕は思考加速で考えていた。
視界の果てに城門が見える。確か前に行ったのもこの門だったっけ。
っと思案に暮れている暇はない。このままでは壁に突っ込んでしまうだろう。僕は大声で叫んだ。
城壁の上には兵士が立っていた。普段は一人で立って壁の外の様子を見ているのだが、今は違う。今遠くに小さく見えるカーム湖の辺りで起こっている大激戦を見学に兵士たちが集まっていた。
「すげぇなアイツら……もうこんなに倒しちまったよ」
「お前そんなことをしてないでとっとと抑えるのを手伝え!」
狼の獣人である城門の警備隊長のワオンが怒り出す。彼は民を押さえていた。
現在帝都は魔獣襲撃によって防衛状態にあり、城壁には一部の人間を除いて登ることは禁じられている。代わりに先ほどまでのレンたちの激戦は王城だけでなく集会場や酒場など一部の場所において中継されていた。それを見ていればよかったものを野次馬根性とは凄いもので城壁から見ようや、自分も勇ましく参戦しようと城壁に上ろうとするものが後を絶たないのだ。
「まぁでももう終わりかけてるみたいだぜ?ってなんか飛んでくるぞ。あのチビさはマスターレンだ!」
兵士は叫ぶ。それを聞いて数人の兵士が反応する。
「レン?あのガキか。何で超高速で飛んで来て……」
「誰か受け止めて~!」
レンは大声で叫んだ。奥にはレンの仲間たちが走っているが当然追いつけるわけもない。
「お、おう!どうするよ!ワオン隊長!」
「ぐぬぬ!とりあえずすぐに風魔術を使える者を呼べ!」
「はっ!」
兵士はすぐに下に呼びかける。冒険者が多かったのが功を奏しすぐに適正者が見つかった。
「風魔術。大扇旋風」
彼が扇を振るとすぐに風が起こり、レンを空気のクッションで受け止める、抵抗が生まれ少しずつではあるが減速していった。
そのままレンは柔らかいものに着地する。
ワオンは頭を下げる。
「ご協力感謝する。貴方は……え?」
ワオンは固まった。さっき風魔術を打っていた人間は豪勢な服を着ていた若い男だったのだ。
「カナタ侯爵の坊ちゃん?!」
「おいおいその名は止めたまえよ。今の僕はギルドフェニックスのマスターさ!」
カナタは胸を張った。後ろから取り巻きがほめたたえる。
「流石侯爵家の坊ちゃん!天才すぎる!」
「あのどこから来たか分からないギルドマスターの為にも働くなんて!」
カナタはそれで得意になり、レンの落ちたところを見ようとしてとんでもないものを見てしまった。
「ん……助かった」
僕は目を開ける。僕は柔らかいものに当たったようだ。どこかの低木にでも引っかかったかな。僕は顔を上げるそこはもの凄い場所だった。
顔を上げるとそこにあったのは赤髪の女性の顔……そしてそれは僕が当分会いたくないと思っていた人の顔だったのだ。大鬼族の女子たちだぁ……
「ねぇアンタ。人の胸に飛び込んでくるなんてエロガキじゃんねw」
「何でコイツは女子会中に突っ込んでくるん?またボコボコにされに来たん?」
「あ、あのですね。これは半分事故みたいなものでして」
「にしては胸に手が行ってるじゃん」
「そ、それは事故です!てか殴るなら向こうのカナタをお尻ぺんぺんして良いですから!」
僕はそう釈明すると泣きついた先のカナタから苦情が飛んでくる。
「待ってくれ!僕の尻を陥没させて一生トイレに行けない生活をさせるつもりかい?」
どっちでも良いわそんなの!
「とりあえず二人を殴るってことで」
「「はわわわ……」」
僕とカナタは二人で抱き合って震えていた。




