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10・噂ってのはやっぱり大げさ

 秋に収穫した麦は豊作ではあったそうだが、驚くほどの収量ではなかったそうだ。


 まあ、1年目だし投入量も少ないからな。さて、冬に撒く麦のためのスライム肥料はさらに増加している。浄化設備が稼働しているからスライムの増える量も膨大だ。それを間引きしていけば山の様に処理されたスライムが出来上がって来る。


 そういえば、この世界は休耕地を作って畑を耕地と休耕地で分けて回しているらしい。連作障害対策だっけ?

 まあ、マーレタティの消費を賄えているからそれで良いのだろう。下手に耕地を増やしても管理できないのでは困る。


 収穫、そして麦播きが終り冬の準備が本格的に始まる頃、問題が起きた。


「神銀を求める商人?」


 それは街の外へも神銀が伝わったことによるものだった。


「はい、神銀が欲しいという商人が訪れております」


 そんな事を言われても、外に出すほどの量は無いというのが実態だ。フルチャがどんどん使うからね。


 そう言う事もあり、フルチャを呼んでの商談となったのだが、たった一言で終わった。


「無理だな。神銀の加工は炉を使えない。魔法鍛冶に頼ることになるが、性質を把握しなきゃマトモに使えない事だってある。神銀だけ持って帰って何を作るんだ?神銀の剣じゃ軽すぎな上に火魔法でガタガタになるんだが?」


 それを聞いて商人は驚き、落胆していた。


 金属は適材適所で当然ながらすべてに万能なものはない。それをしっかり把握しなければ商人も大損となるだろう。


「ま、俺の品を売る事なら出来るがな」


 っても、フルチャの作っている物って馬車と農具だろ?


「まさか、魔鋼の農具に神銀の馬車とは・・・」


 そうだろうな。売り先が無い。僕に作ってくれた馬車を売るとなると幾らになるか分からない代物になる。数百万フリンとかになるんじゃないか?貴族領の年間予算規模、日本で言えば数10億円規模、プライベートジェット並みだからその販売は博打に等しい。


 農具を魔鋼で作るのは耐久性は非常に上がるのだが、輸送費を上乗せして数千フリンとかで売るのは厳しいだろう。まさに21世紀の農機具感覚だ。流石に売れるとは思えない。魔鋼だから盗賊の心配までしないとイケないんだから、農具って時点で商売にはならないと思うな。マーレタティでフルチャが売っているから廉価で買えるに過ぎないんだから。


「しかし、あの脱穀機やトーミー、馬鍬であれば‥‥」


 唐箕は模範されるから市場性としてはどうだろう?脱穀機もやろうと思えば造れるだろう。商売になるのははじめの内だろうが、


「軸にアダマンタイトを使ってるんだが、幾らで買う気だ?」


 フルチャはそう問いただす。


「ア、アダマンタイトですと!!」


 まあ、そうなるだろうな。神銀同様の伝説素材だ。まさか、魔鋼ではなく鉄で作らせればなどと考えていたのだろうが、ちょっと無理があったな。

 商人はフルチャがヴァイス工房出身だと知っているらしく、話しを疑う事をしない。


「そ、それでしたら肥料ならば」


 そんな事を言いだした。


「あれはスライムが原料だが、持って行くか?」


 そう言うと顔を青くしていた。間違いなく無理だな。



 だが、マーレタティにやって来るのは彼だけではなく、続々とやってきた。なにせ、幻の神銀があるという話なのだから。


 ただ、神銀は幻であり、伝説の為、その性質は酷く神格化されている。


 曰く、魔法適性が高く素材に魔法を通す事が出来る。


 んな事は物語の中だけだ。魔法鍛冶以外が魔法を素材に通しても何らの変化を起こす事は出来ない。


 曰く、神の御業により作られた金属なのであらゆる金属より硬く耐久性がある。


 いや、前世で言うアルミ合金の域を出る金属ではない。強いて言えば添加物で性質が多岐にわたるなんてことが無いだけだろう。鉄より熱に弱いし柔軟性にも欠ける。


 曰く、魔法金属の頂点でありその存在は希少である。


 うん、精製術を知らなければ無理だが、材料なら山とあるから僕やフルチャが量産すれば価値も下がるだろう。金銀より遥かに豊富だ。


 商人は神銀の性質を知って落胆し、フルチャがいくらでも原料がある限り精製できると聞いて落胆していた。僕が造れることは秘密にしてある。


 ただ、アルミ合金を知っている僕にとっては夢の金属であるのは確かだし、魔法鍛冶では溶接や鋲接などせずに粘土を伸ばす様に形を作り、摩擦点接合よろしく異種金属の接合すら実現してしまうのだから、言うことは無い。魔鋼と魔銀を場所ごとに使い分けるとか贅沢にも程があるんだよ。


 結局、博打に出た商人が馬車を発注したのと、事が大きくなって来たので僕が実家に馬車を贈ることにしたくらいで春を迎える頃には収束を迎えることになった。


「魔銀が軽いからって鎌を作って良いのかな?」


 そんな僕の疑問をフルチャは笑い飛ばす。


「問題ないでしょう!俺やイシュトヴァン様なら飽きるまで作れるんですぜ」


 まあ、そうだけどさ。

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