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12 思わぬ来訪者、その怪盗は許しを乞う

 前回までのあらすじ。

 宴も終わり、疲れきって寝ようとしたら、窓を割って誰かが部屋に入ってきた。

 おわり。


 ぽかーんと口を開けてこちらを見ている。


 片手にはレムリアさんから貰った200万。

 金品目当ての泥棒である事は確実だった。


「──あ、あれ...? もしかして、気づかれちゃってる感じ? まさか! この私が気づかれるなんて有り得ないってば。絶対に有り得ない」

「いや気づいてるって」

「いやー、随分と寝言が大きいなぁ。元気でよろしい」

「寝言じゃねぇよ!」

「あーあー、聞こえない。聞こえない!」


 ペンギンは耳を塞ぎ首を横に振る。


「聞け! お前今自分が何してるのか分かってんのか!」

「...人の金を盗んだ」

「少しは反省しろよ」

「いや、でもさぁ。こんな大金を物置の上に置きっぱにしてるあなたもあなただよ」

「ぐ...」


 確かに。あれでは盗めと言ってるようなものだ。

 それは俺も悪かったとは思う...。


「だとしても、盗みは許されることじゃない」

「そうだね。それは私も思うよ」

「は? じゃあなんでやったんだよ」

「盗むことが、私の人生だから」

「...どういう意味だ?」


 相変わらず余裕そうな表情で彼女は言う──。


「自己紹介が遅れたね。我が名は怪盗ペンペン。闇の中を風のように縦横無尽に駆け回り、透明人間の如き潜入スキルで、数々の金銀財宝を盗んできた──今世紀最大にして最強の怪盗さ」

「今世紀最大というワードをお前みたいなしょぼい怪盗に使うな!」

「しょぼくないし!」

「最強の怪盗は窓から突入なんてしない」

「──血迷ってたの!」


 血迷ってたって...。使い方違うだろ。


「とりあえず、怪盗だって事も分かったし、通報してくるわ。お礼でお金貰えるかもしれないしな」

「──待った!」

「なんだ? まさか見逃してくれるとでも思ってたのか?」

「ぎくっ」

「図星かよ! なんで図星なんだよ!」

「なんかそういう空気じゃなかった?」

「全く」


 彼女──怪盗ペンペンの顔には焦りが見えた。


「わ、わかった、じゃあお金を盗む事は諦めるよ。たがらあなたも見なかった事にして、お願い!」

「俺はいいけど──残念ながら、あの無残にも割れてしまった窓ガラスが、今回の出来事を無かった事にはしてくれないな」

「あっ」

「しっかり弁償してもらうぞ」

「あ...じゃあ、私の直筆サインをガラスに書いてあげる! これで弁償はチャラになる──」

「ならねぇよ。どんだけ自分に価値があると思ってんだ、お前」

「60兆くらい?」

「国家予算かよ!?」


 千世が部屋から出ようとするものの、服の袖を掴んで必死で抵抗する怪盗。

 しかし彼女の引っ張る力では千世を動かす事は全く出来ない。


「人に奉仕する事が大嫌いな私に肩たたきして貰える権利とかあげるから! 許してよー!」

「許さない」

「私物とか何でもいいから一つあげる! これでどう?」

「──あー、もう! しつこいな!」


 こうなったら最終手段を使うしかない。

 眠れる獅子なれぬ──眠れる天使。酔っ払い。彼女の実力をここで見せてやろう。


「──おい、ナツ。起きろ!」


 千世はナツの方を振り向きもせず名前を呼ぶ。

 不思議とナツは目を覚まし、体を起こす。


「ナツ! 今俺にしがみついてるこいつに攻撃だ!」


 天使の酔っ払い姿を何度となく見てきて、千世が学んだこと。

 酔っ払ってる時、リミッターの外れた彼女の見せる力は凄まじい。今こそそれを見せつけてやろう。


「ふふふ...なんだか知らないけど、まかせなしゃい!」


 ──語尾の乱れ方からして、今日の酔いは特に酷い。


「とりゃあ!」


 ナツは怪盗に飛びかかる。まるでモモンガのようにベッドから怪盗のもとまで一直線にダイブ!


「うえっ!」


 怪盗は可愛い呻き声をあげる。

 ナツは圧倒的に軽いし、怪盗よりも身長も小さい。上にのしかかったところであまり効果は無いはずなのだが。

 呻き声を上げた理由は重かったからではない。


「酒臭っ──!」


 酒臭かったから。


「なによそのふざけた服は──とっとと脱ぎなさい!」

「わ、私のアイデンティティを否定された...。ううっ」


 相当ショックだったのか、それっきり怪盗は戦意を失ったようだった。


 とりあえずこれ以上動かれたら困るため、軽く紐で拘束しておいた。

 ハードな意味での拘束では無い──普通に体の自由がきかない程度に縛っただけだ。


「さて、どうしてやろうか」

「...千世。攻撃してから言うのもなんだけど、こいつは誰なの」

「聞いて驚け。泥棒だ」

「怪盗です!」

「本質的にはどっちも一緒だろうが」

「そうだったのね。あーあ。もっと容赦なくやってればよかった」


 ...怖いよ。天使の目つきとは思えないよ。


「どうするもなにも、通報するしかないでしょ」

「俺もそう思っていたけど──ちょっといい事を思いついてだな」

「──千世の言う『いい事』って不安でしかないんだけど」

「期待、の間違いだろ?」


 千世は怪盗に接近する。

 壁によっかかって座っている彼女の目線の高さまでかがんで目を見る。


 彼女は全く目を逸らさない。千世の方が先に目を逸らしてしまった。


 赤みのある澄んだ瞳の持ち主だ。セミロングの黒髪とのコントラストが素晴らしい。

 異世界に来て以来、奇抜な髪色の奴らばかりで、黒髪の人間を目にしていなかったのだけれど、改めてその良さを認識した。


 控えめに言って可愛い。美少女だ。


 だから。可愛いからって訳じゃないけど──。


「お前。俺たちのパーティーに加入しないか?」

「──え?」


 怪盗は呆然とした。ナツも唖然とした。


「何いってんのよ! こいつは私達のお金を盗もうとしたのよ? ましてや怪盗! パーティーに加えるなんて正気じゃないわ」

「...しかし、部屋に窓から侵入して来た時のあの身のこなし──身体能力はかなり高いと言える。多分俺やナツなんかよりも高い」

「いやぁ、照れるなぁ」

「そう、俺達のパーティーにはそういう要員がいない! 敵との接近戦が得意なやつが! これは、冒険者として高みを目指すためには、避けては通れない最重要課題だ」

「...あんたがそんな目標を持ってたなんて初めて聞いたんだけど。ていうか、そういうことなら私がいるじゃない。ほら、なんか知らないけどキック力はすごいわよ」

「キックだけじゃ無理がある。総合的にバランスが取れていないと。それにお前のキックは『ある状況下』でしか力を発揮しないからなぁ」

「...ぐっ」


 怪盗は期待の眼差しを向ける。


「冒険者か...。考えたことも無かったけど、それはそれで魅力的なものかも。それに...捕まらずに済むし」

「心の声が全部聞こえてるぞ」


 元気よく挙手して怪盗は千世に迫った。


「はーいはーい! やります! 私、怪盗やめて冒険者としてパーティーに加入しまーす!」


 グイグイと千世に近づく。

 なんだこいつハニートラップをしかける気か?

 俺はかからんぞ、そんなものには。


 ...横でナツが睨んでいたのもあってか、千世はあっさり頷く事は無かった。


「ちょ、ちょっと待て。タダで入れされるってわけじゃない。ちょっとしたオーディションを受けてもらう」


 オーディション。というより、怪盗の実力をこの目で確かめたい。確証を得たい。

 しかしこのオーディションがナツの心に火をつけてしまう。


 それっぽく、机や椅子を配置してみる。

 ナツと千世が並んで椅子に座る。テーブルを挟んでそこに怪盗が椅子に座る。

 部屋の電気をつけて準備完了。さて始めよう──。


「まず、君の名前は?」

「──聞いてなかったの? 我が名は怪盗ペンペン! 闇の中を──」

「そうじゃなくて! 本名を言えってことだよ」

「え...えっとー...」

「それに、さっき怪盗をやめるって言ったよな? だから、君には怪盗としてでは無く、一人の人間としてこのオーディションに臨んで欲しいと思っている。だからそのフードも外すんだな」

「ぜ、絶対嫌っ!」


 フードを強く引っ張って顔を隠す。

 力強い拒絶だ。


「じゃあ、オーディションは無かった事に──」

「──分かった、分かったよ! はずすー!」


 さっき顔がっつり見られちゃってんだし、そんなに恥ずかしがる事も無いだろう。

 ──と、千世は思っていたが、実のところ彼は怪盗の顔を、ほとんど認識出来ていなかったんだなと、フードを外した時に実感した。


 黒髪でセミロング、赤い瞳──特徴しか捉えられていなかった。


 幼い顔立ちで、どこか和を感じさせる雰囲気。

 ナツのキリッとしたのとは違って、優しい目をしている。


「......」


 千世は見とれていた。思考停止。しばらく考える事が出来なかった──。


 やがて彼女は本当の名前を口にした。


「──クロ。私の名前はクロ」


 これまた名前も美しい。


「──あー、言っちゃった〜! まだ誰にも言ったことないのにー!」


 両手をほっぺに当ててフルフルと体を揺らす。あざとい。あざとすぎる。

 もう千世は我慢ならなかった。


「オーディションやめー! パーティーに加入決定ー!!」

「わーい!」


 元怪盗だとかなんだとかどうでもいい。改心して共にパーティーとして冒険出来るなんて最高じゃないか。


「ストーップ!」

「どうした、ナツ」

「ダメ。確かに彼女は可愛いけど、もっと厳密に審査しないと──」

「...うーん。でも」

「...いいわ。千世には任せられない。私が面接官をやる」


 さっきまで酔っ払っていたはずのナツの酔いはいつの間にか覚めていた。三人の中で最も正気を保っていた。


「まず私はそのふざけた服を脱がせたいわね。それはオーディションを望むに相応しくない格好よ」

「って言われても、これが私の制服みたいなもんだから──」

「一枚脱ぐだけでしょ。ほら、早く脱ぎなさい」


 ナツはペンギンフードのチャックに手をかける。

 クロは不思議と抵抗はしなかった。じりじりとゆっくりチャックを下へ下へと下ろしていく──。


「──ぎゃあ!?」


 ナツは思わず逃げ出した。


「あ、あんた、それ──なんで下に何も着てないのよ!?」

「えっ!?」


 そう。クロはフード一枚、それ以外は上に何も着ていなかったのだ。


「そうとなると、もしかして下も──」


 着てないのか──!?


「──ふふふ、気づいちゃったか」


 クロは中途半端に下げられたチャックをあげる事もなく語り出した。正直見えそうで際どい。

 貧乳ってわけでもないのでなかなかビジュアル的にやばい。


「あなたたちの予想通り下も──スカートの下も、何も履いてないよ──」

「まじかよ」

「──そう。私はこうやって、ほぼ裸の状態で行動する事が大好きなの!」


 ──なんてことだ。

 ナツ、レムリアさんに続き──第三の変態が。

 俺の周りには一体どれだけ変態が増えれば気が済むんだ。ちくしょう──。


「歩いたり走ったりする度に、肌の上を風が通り抜けていく感じがして、それにスリリングで──」

「とんだ露出狂ね...」

「露出はしてないから露出狂じゃないし! 裸を見せびらかしたい訳じゃないから」

「──変態はもう十分よ」


 ナツは深くため息をつく。


「やめとこうよ千世。さっさと罪を償わせにいきましょう」

「──いや、待て」

「なによ」

「──人の変態性と性癖の力を信じる者として、この可能性は見逃せないな」

「何の話?」

「ルーザーは『ロリっ子専門マッサージ店に通いたい』という動機で、嘘の思想を述べて、世界を変えかけた。つまりは、一人の人間が、性的欲求を──性癖を満たそうとしただけの事なのに、それだけの影響を与えた。一人の変態が持つ力は、想像以上に大きい」

「つまり、何が言いたいの」

「俺達のパーティーにはまだ変態が一人しかいない。ここでクロを加入させれば変態は二人となる。となると、それだけこのパーティーの持つ力──変態力は膨大なものになる!」

「なにちゃっかり自分を除外してんのよ。あんたも立派に変態だし」

「──ま、仮にそうだとしたら、変態は三人だ。このパーティーの可能性は更に広がる」

「それとこれとはなんか違うような気がするんだけど...」


 ということで──。


「やっぱりパーティーに加入決定ー!!」

「わーい!!」

「...ふん。私は認めないわよ。パーティーなんて2人で十分だっての...」

「なんだ〜? もしかしてお前、妬いてんのか〜?」

「ち、違うし! 私はその女が気に入らないだけよ」


 クロとナツはにらみ合っていた。


 なんだかピリピリしてんなぁ...。この2人はあまりそりが合わないのかもしれない。


 まぁともかくパーティーが増えたのは喜ばしい。


「──そうだ。そういえばパーティーに入る為の条件を一つ言い忘れてた」

「ん、なに?」

「──この窓ガラス、自費で弁償してもらうからな」

「...や、やっぱりやめようかな〜」


 ガシッ。


「ひぃぃぃぃ!」

「もう遅い。たった今からお前はパーティーの一員だ。──よろしくな?」

「お、鬼だぁぁ!」

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