分岐 ― 動き出す運命
長い空白を越えて再び動き出す想いと、
その背後でひそやかに揺らぐ影――。
肌寒い風が吹き抜ける初冬――氷結の妖精が空気に溶け込み、小さな雪を作っていく。
遺跡に身を寄せるリバースたちの吐息が、白く染まる。
エリシアが手紙を残し、姿を消してから――一年半が経とうとしていた。
祈るしかできない沈黙の時を、セシルはただ耐えていた。
「……エリシア。」
セシルの声も、白い吐息となって風に溶ける。
その時――凍った草花が、月明かりに振り向くような感覚が降りてきた。
扉を叩く音。
セシルは急いで戸を開ける。
そこには――少し痩せたようなエリシアが立っていた。
久しく見ないその姿は、どこか影が薄くなったようで、胸が締めつけられた。
「セシル……ごめんなさい……本当にありがとう……。」
気持ちの整理が追いつかないエリシアの表情は、寂しげに泣き崩れていた。
セシルは溢れる感情を抑えながら、呟く。
「……無事で良かった。お帰り、エリシア。」
暖炉の前に座らせ、慣れた手付きで紅茶を淹れるセシル。
止まっていた時間が――再び動き始めた。
落ち着きを取り戻したエリシアは、戸惑いながら話す。
「私は……慈無に会うため、他国へ渡りました。」
「出会って、話して……未来を一緒に見てくれた人です。」
彼女は、その国で慈無と出会い――
自分の予知能力と、選んだ現在と未来、その全てを彼に話し、彼は受け入れたと。
そして、選んだ最善を紡ぐため、二人で見つけた遠い地の泉に髪を沈めたのだと。
その時、道案内の者が言った――
「礼に、その美しい髪で筆を作らせてほしい」と。
それが、やがてレルバドール家に渡るとは、エリシア自身も知らなかった。
そして――二人の間にはルクジムが生まれ、慈無は去り、彼の勧めでラクザムにルクジムを預けたと。
その時の私には、慈無が大岩に戻ったことも、エリシアが自身の命の最後を視ていたことも、知る由もなかった。
一年半の空白を、ゆっくりと埋めていく。
「ルクジムは……私が育てたかった。私は君のことが……」
切なそうに告げるセシルの唇を、彼女は指で押さえ、涙で溢れる瞳で小さく顔を横に振った。
彼女の温い指が唇を塞いだ瞬間、セシルはすべてを悟った――もう、言ってはならないのだと。
「本当にごめんなさい。あなたには酷いことばかりしてきた。でも――セシル、ルクジムには父より、友になってほしい。」
彼女の声が震え、擦れた弦のように響いた。
全てを悟っている彼女に、もう言葉は要らないのだと。
…オメガワンの機内。
ルクジムは、セシルの長きにわたる孤独と献身を知り、感謝の念から声が出せなかった。
ヌエは静かにその物語の重さを感じていた。
セシルとエリシア。
感情が交差するその背後で――遺跡の結界を越えようとする異形の影が、静かに迫っていた。
「終焉 ― 未来への選択」へ続く。




