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ナイトコードΩ 【残響の封印】  作者: 神北 緑


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古書店「ノクターン」 ― 闇の対話

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https://47794.mitemin.net/i997346/挿絵(By みてみん)


店内の空気は、紅茶の香りと古書の静けさに包まれていた。

だが、ルクジムの瞳は鋭く、問いを投げかける準備ができていた。


「……セシル。ひとつ、いや、いくつか聞かせてくれ。」


セシル・ノクターン卿は、カップを静かに置き、頷いた。

「もちろん。夜は語りの時間にふさわしい。」


ルクジムは、羊皮紙を見つめながら言った。


「母を……エリシアを、なぜ知っている?」


セシルは、少し目を伏せた。

その瞳には、過去を見つめるような静かな哀しみが宿っていた。


「彼女は、かつて“オルド・アーク”の研究部門にいた。

リバースの遺伝子、魔法陣、封印術――そのすべてに精通していた。

だが、彼女は“予知”を持っていた。

それが、彼らにとっては“鍵”だった。」


「鍵……?」


「オルド・アークは、異能者を兵器化し、魔界との接続を目指す死の商人だ。

表向きは政府の異常事象対策局。だが、実態は――デビルズと契約を交わした者たちの集団だ。」


ルクジムの眉が動く。

「母は、そこから逃げた……?」


「そうだ。彼女は、君の存在が“最後の鍵”であることを知った。魔界の門を開くには三つの封印が必要。

その最後が――君の血だった。」


ルクジムは拳を握った。

「……それで、母は俺を守るために……」


セシルは頷いた。

「彼女は私と暫くの期間、行動を共にしていた。

だが、オルド・アークは彼女を見つけた。

私は、彼女を守りきれなかった。」


「彼女の背に、あの夜の風が吹いた時…私は、あまりにも無力だった。その記憶は、今も私を苛む」



沈黙が落ちる。

パウラは、奥で静かに作業を続けていたが、空気の重さに気づいていた。


ルクジムは、次の問いを口にした。


「あれは、何なんだ?俺が戦った“あれ”は、リバースでも人間でもなかった。」

 セシルは、棚から一冊の古文書を取り出し、ページを開いた。


そこには、魔界語で描かれた魔法陣と、悪魔(デビルズ)の階層構造が記されていた。



「あれは契約者、契約者とは――人間の魂を分離し、デビルズの本質と融合させ、人体を触媒として提供する。

その結果、感情を失い、命令に忠実な兵器が生まれる。

それが、契約者部隊――“Pact Units(パクトユニット)”だ。」


ルクジムは、言葉を失った。

その仕組みは、あまりにも非人道的で、あまりにも冷酷だった。


「……魂を、切り離す……?」


セシルは頷いた。

「魂の切断は、意識と感情を奪う。残るのは、命令に従うだけの“殻”だ。

だが、デビルズの力を宿すことで、常識を超えた戦闘能力を得る。」


「それは、理性も慈悲も持たない存在。私は、彼らの目に映るものが“命”とは思えない。」



ルクジムは息をのんだ。

「それを……あいつらは、兵器として使ってるのか。」


「そうだ。そして、君の血は――その儀式を完成させる“最後の鍵”だ。」


ルクジムは、深く息を吐いた。

「……母は、それを止めようとしていたんだな。」


セシルは静かに頷いた。

「そして今、君がその意志を継ぐかどうか――それが問われている。」


ルクジムは、しばらく黙っていた。

その瞳には、これまでになかった、微かな光が宿っていた。

だが、やがてゆっくりと顔を上げた。


「……俺は、まだ答えを出せない。でも、知ることは……始めることだ。」

その眼差しは、セシルの深紅の瞳を真正面から捉え、問いかけと同時に、協力の可能性を探るかのように揺れた。


セシルは微笑んだ。

「それで十分だ。夜は長い。君の歩みも、これからだ。」



ルクジムは、セシルの言葉を遮るように問いを投げた。


「……なぜ、俺の血なんだ?母が死んだ理由も、オルド・アークの行動目的も、全部そこにある。

教えてくれ、セシル。俺の血に、何がある?」


セシルは、しばらく沈黙した。

その瞳は深紅に沈み、表情は険しくなっていた。


「……その前に、私の知る事柄を話さなければいけない。」


彼は、カウンターの奥から一冊の古文書を取り出す。

その表紙には、魔界語で「分離の記録」と刻まれていた。


「どこから話したものか……」


セシルは、静かに息を吐き、語り始めた。


「遥か古の昔――人類がまだ“知恵の実”を与えられるもっと前。

世界には、我らリバース、人類、神、そしてデビルズが共存していた。」


「だが、違う種族間での生存競争は絶え間なく続き、

人類は抗うこともできず絶滅に向かい、神でさえ劣勢を強いられ、数を減らしていった。」


「このままでは、悪魔だけの世界になる。そう察した神は、共存を模索した。

だが、デビルズは一切を受け入れなかった。」


ルクジムは黙って聞いていた。

セシルの声には、歴史の重みが宿っていた。


「神は考えた。このままでは、生物の存在そのものが滅びかねない。そこで、神・人類・悪魔三つの次元を作り、分離した。

互いに干渉できぬように。」


「そして、現世の者が誤って扉を開かぬよう、三つの封印を作り、バラバラに分散させた。

さらに一つ、楔を打った。三つの封印を奇跡的に集められても――それらを“神の血”に浸さなければ、門は開かない。」



ルクジムの瞳が揺れる。


「……神の血?」


セシルは頷いた。


「三つの世界に分かれた以上、現世で神の血を手に入れることは不可能。――のはずだった。」


「だが、宇宙規模の戯れか、蜘蛛の糸よりなお細い因果の糸は、遥か彼方の時を経て延ばされ続けていた。」


「ヴェイルの血統には、神の血が紡がれている。」


ルクジムは言葉を失った。

自分の血が、神の因子を宿している――?


「君の母、エリシア・ヴェイルは、神の血の“残響”を持っていた。それが、予知能力として現れた。

そして君は、その血をより濃く受け継いでいる。」


「彼女は最後まで、自分の血を“道具”にされることを拒んでいた。」

「オルド・アークはそれを知っていた。だから君を狙う。君の血は、封印を解き、門を開く“最後の鍵”なのだ。

あの夜私は彼女を守りきれなかった。その過ちを、今度こそ繰り返すわけにはいかない。」


沈黙が落ちる。


「……俺の血が、世界を壊す鍵だっていうのか。」


セシルは静かに頷いた。


「だが、鍵は使われなければ、ただの物だ。君が選ぶのだ。開くか、閉じるかを。」


セシルは、窓の外に広がるロンドンの夜を見つめながら、静かに言った。


「これから、ロンドンの町は――人々も、リバースも――大きな厄災に巻き込まれるだろう…。」


その声には、確かな予感と、抑えきれない憂いが滲んでいた。


ルクジムは、険しい表情をしていた。


脳裏に浮かんだのは、パウラの笑顔。

何も知らず、ただ日常を生きている少女。

その無垢な笑顔が、悪魔の嘲笑と、血の匂いのする瓦礫の山に重なった。


「……あの娘のような者も、犠牲に……?」


彼の声は低く、震えていた。


「じっとなりを潜めてなんか、いられない!」


セシルは、ルクジムの瞳を見つめた。

そこには、怒りと悲しみ、そして守ろうとする意志が宿っていた。


「君が動くなら、私も共に動こう。だが、覚えておいてほしい。これは、ただの事件ではない。

“構造”そのものが、書き換えられようとしている。」


その言葉が、夜の静寂に重く響いた。


そして――皮肉にも、この会話を境に、ロンドンでは連続的に猟奇的、残虐極まりない事件・事故が多発し始める。


「夢の中 ― 涙の記憶」へ続く

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