防衛線 ― コーザルイート
命を削って生み出された奇跡の欠片。
それは幸福と癒しをもたらすが、渡すたびに彼の命は縮んでいく。
大地に響く攻撃音が、山びことなって森の奥へ消えていく。
鳥たちは木々の枝を強く掴み、身を縮めて気配を潜めていた。
「そうら、俺の左をくらえ!」
バイパーが拳を振り下ろす。
「そんな予告付きの拳など当たるか――残空・琉千」
ヌエが掌を添えて軌道を逸らす。
その瞬間、ファントムの影がわずかに揺れた。
……?
打ち下ろされていたはずの左腕が、消えた。
次の瞬間――
バイパーの右拳が低空からヌエを捉えた。
「ガハッ!」
吐血しながらヌエが宙を舞う。
「ザザザッ」
何とか着地したヌエだが、ダメージは深刻だった。
「ヌエ!」
叫ぶと同時に、ルクジムがバイパーに飛びかかる。
アカもその攻撃に合わせて拳を振る。
「俺の身体で受け止めてやる!」
バイパーが叫んだ瞬間、再びファントムの影が揺れる。
刹那――
攻撃していたルクジムとアカが、バイパーの一振りでなぎ倒された。
「グワッ!」「ドザンッ!」
地面に飛ばされた二人は、何とか戦闘態勢を取るが――
「なんだ?どうなってる……?」
ルクジムが呟く。
「何かがおかしい。長と同じ、理操作の類か?」
ヌエが答える。
「何が何だか……身体が痛え……」
アカが血を吐きながら呻く。
「こっちから行くぞ!」
バイパーが目の前に迫る。
次の瞬間――
バイパーの姿が消え、後方から攻撃が襲来!
「バキバキバキーーッ!」
三人は一瞬で数メートル吹き飛ばされ、地に落ちた。
動かなくなった三人を背に、バイパーとファントムは奥へと歩みを進める。
残りの魔界印猪たちが、三人の周囲を囲み始めていた。
何とか命は無事だったが、アカ以外はまともに動けそうにない。
ヌエは足に深刻なダメージを負い、ルクジムは右腕が折れたまま、息を整えるのがやっとだった。
その時――
「ザザーンッ! バシャーン!!」
樹木の上から、大きな水の塊が落下してきた。
水しぶきが弾け、光が反射する。
「お前ら、大丈夫か? これを持ってきたぞ!」
水の中から現れたのは――河童のアオトだった。
その手には、色の違う六つの水晶のような半透明の玉が、紐で繋がれて握られていた。
「そ、それは……星じゃないか!」
ヌエとアカが息を呑んで呟く。
アオトが差し出した六つの半透明な水晶玉――“星”。
その光は、静かに揺れながら、周囲の空気を震わせていた。
ヌエはそれを見つめ、静かに言葉を紡ぐ。
「……これは、命をちぎって作ったものだ」
アオトの背に流れる水の気配が、わずかに震えた。
「誰かに渡すと、星は消える。そして、アオトの命も……縮んでいく」
ヌエの声は、深い哀しみを含んでいた。
「六つ全部渡したら……アオトは、星になる」
その言葉に、アカもルクジムも息を呑んだ。
アオトは、静かに微笑んでいた。
ヌエは続ける。
「星がもたらすのは、受け取った者の幸福と癒し。それは、命の欠片を分け与える行為に等しい。だからこそ、重く、そして尊い。」
アオトは、静かに微笑んでいた。
その笑みは、どこか達観したようで――それでも、温かかった。
ルクジムは、折れた右腕の痛みを忘れ、アオトの澄んだ瞳を見つめた。
(お前は、俺たちが守り抜く未来のために、自分の命を差し出しているのか……!)
彼は、静かに拳を握りしめ、言葉もなく「星」を受け取る覚悟を決めた。
「剣山 ― 星を受け取った者」へ続く。




