剣山 ― 二人の契約者
契約者の使役獣が、寺院を襲う。
アカの豪快な棍棒、ルクジムの野性的な爪。
その連携は、師の技を超えた進化を示す。
夕日が地平線に沈み、闇の舞台へと引き継がれる。
静かに夜の帳が降りていく。
空を飛ぶ羽音は、子虫を捉える蝙蝠のものへと変わる。
今宵は新月――闇が一回り大きく、世界を包み込んでいく。
それは、不穏な気配を覆い隠す、静かな予兆だった。
寺院の周囲に張り巡らされた結界が、月光を受けて微かに揺らめいた。
そこに、黒い影がじわりと滲み寄る――獣の群れ。
「ブーッ、ブーッ、ブーッ!」
スーマの画面が真っ赤に染まる。
「来たぜ!俺様のQRコードに反応ありだ!」
スーマが叫ぶ。
「ガラン、ガラン、ガランッ!」
続いて、寺院の半鐘がけたたましく鳴り響く。
「結界を越えた……20、30……いや、それ以上の数だ」
スーマの警告に、セシルとルクジムは即座に入り口へと向かう。
境内には、すでにヌエとアカが出ていた。
「奴ら、長の幻術で張った結界を、易々と越えて来やがった」
アカが低く呟く。
「結界内は、理を少々いじっておるのだがのう……」
金長が現れ、ルクジムたちに合流する。
「……あの無数の影、動物か?」
スーマがQRをモニターしながら叫ぶ。
「恐らくは、この山の“しし”――猪。それを操っているのだろう」
ヌエが低く答える。
猪たちの目は、炎のような赤で染まり、理性を失った動きで地を蹴っていた。
「アイツら、猪を使役獣にしやがったのか!」
スーマの画面は赤く点滅する。
「その後方に、特に匂う奴らが二人いる」
ルクジムの目が鋭く光る。
「恐らく契約者。だが、同時に二人とは……向こうも焦っているな」
そう言い放つセシルの顔には、わずかな笑みが浮かんでいた。
夜が落ちて間もない大地は、まだ太陽の熱を微かに覚えている。
その温もりを叩きながら、黒い獣の群れが走り寄ってくる。
「攻めてこられるのをボーッと見てるのは性に合わねぇ!」
アカが叫び、棍棒を肩に担いで走り出す。
「防衛ラインはセシルと長に任せた!俺たちも行こう!」
ルクジムが叫び、ヌエとアカを追って駆け出す。
「待ちなさい!」
セシルが声を張るが、二人は風のように森へと消えていった。
「まったく……私を年寄り扱いして……ルクジム」
セシルが呟く。
その背後から金長が笑いながら言う。
「まあ、わしは二百をとうに過ぎとるからのう。後方支援で十分じゃ、ふぉふぉ」
(金長は私より年下だったか……)
セシルはふと、静かに思う。〔※セシルは320歳〕
杉と松が生い茂る森の中――
轟音と悲鳴が響き渡る。
「ガガッ、ゴゴゴ、ドドドガッ!」
「ギャピーッ、ピギッギャーン!」
アカが棍棒を振り回し、猪たちを次々となぎ倒していた。
「いったい何匹いやがるんだ!山全部の猪を手下にしたのか!?」
息が切れかけたその瞬間――
六方から猪が一斉に飛びかかってきた。
「まずい、後ろが間に合わねぇ!」
アカは前方の二匹をなぎ倒す。
と、同時に――後方の四匹がはじけ飛ぶ!
ルクジムは振り返ることなく、逆手に構えた一対の爪で、一瞬のうちに四匹の猪の急所を叩き、高速の突き技を放っていた。
「!!」
アカが振り返る。
「こいつらで体力使い果たしてんじゃねぇぞ。後ろの二人が本命だ!」
ルクジムとヌエが駆けつける。
「何匹か取りこぼしたが……」
ヌエが低く呟く。
(ルクジムの初動……まるで、師匠と同じだ。だが、より野性的で、力強い。)
「大丈夫だ。セシルなら問題ない」
ルクジムが吠えるように言い放つ。
その時、森の奥で――何かの妖気が、静かに蠢いた。
「剣山 ― 異形の契約者」へ続く。




