ロンドン――イングランド東部サフォーク州へ
青く突き抜ける空。
闇の住人たちは、太陽の下を走っていた。
青く突き抜けるような空が広がっていた。
闇の存在を拒絶するかのような強い日差しは、微かな雲の影すら消し去ろうとしている。
だが、光が差せば影も生まれる。
今、闇の住人たちは太陽の下を走っていた。
ハンドルを握るルクジムが口を開く。
「蛇のセシルは日光に当たっても問題ないのは助かるな。昼間に移動できるのは都合がいい。」
ジョーが難しい顔で呟く。
「お前たち、この車……どうした?」
この旅は、常に道徳の境界線を歩んでいる。
セシルを救うためとはいえ、他人の物を盗むことは、彼が守ってきた「防人」としての規範に反していた。
スーマが軽く答える。
「乗り捨てられてたレンタカーだよ。マナーの悪い客はどこにでもいるもんさ。」
「それを拝借してる俺たちは、どうなんだろうな……」
スーマの軽い声に、ジョーは考え込むように言った。
「それより、聞かせてくれ。」
スーマの画面が点滅し、真剣な色に染まる。
「俺たちの選択は、下手を打てばオルド・アークの“世界構造変革”と同じくらいの犠牲を払うかもしれない。」
その声には、セシルを救うという希望だけでなく、その先に待ち受けるかもしれない破滅への恐怖が微かに混じっていた。
「お前ら、どれほどのものか、理解できるか?」
「俺たち三人は、それぞれセシルの復活に巨大なリスクを掛けた。どれほどのものか、理解できてるか?」
沈黙が車内を包む。
それを破ったのは、ルクジムだった。
「それでもだ。俺たちにはセシルが必要だ。」
その言葉に、ジョーが笑顔を取り戻す。
「そうだよな。どういう結果になっても、俺たちにはセシルが必要だ。背負うものがあるなら、なんだって背負ってやる。」
スーマは画面をくるくると回転させながら言う。
「分かってんなら、野暮なことは言わねーぜ!」
乾いたアスファルトを車輪が音を立てて走り抜けていく。
排気ガスが、まるで祝福の名残のように空へと消えていった。
パウラの日記
20××年 9月3日(水)
今日は……すっごく嬉しいことがあったの!!
ノクターン古書店で、なんとルクジムさんとまた会えちゃったんです!
もう、びっくり!だって突然、大きな人と一緒に現れて……心臓が止まるかと思った!
セシルさんかと思ったけど、セシルさんはいなくて……。
でも、でも!帰りに送ってもらっちゃって……!
もう私、舞い上がっちゃって、変なこと言っちゃったかも……!
あああ、変な娘って思われてないかな……(涙)
でも、優しかったな……ルクジムさん。
あの目、あの声、あの距離……なんだか、夢みたいだった。
今日は、ずっとこの気持ちで眠れそう。
ありがとう、ルクジムさん。
「イングランド――サフォークコースト」へ続く。




