コンテナ倉庫――ルクジムの苦悩
夜の帳が白み始め、朝靄が倉庫の隙間から差し込む。
その静けさの中で、告白が交わされる。
兄の死の真相。
夜の帳が、白み始めた空へとゆっくり退いていく。
倉庫の壁越しに、朝靄が薄く差し込み、公園の木々を撫でていた。
眠っていた小動物たちが、冷えた空気の入れ替わりを感じ取って目を覚まし始める。
その静けさの片隅で、ルクジムは肩を落とし、悲しげな眼差しをミラへと向けた。
「……あの日、廃工場跡地で俺は初めて“契約者”を見た。」
「狂気にあてられて、本能が暴走した。気づけば、奴は倒れていて……横にはセシルが立っていた。」
言葉と共に、彼は深く目を閉じ、長い吐息を漏らす。
「恐らく……君の兄さんは、その契約者の“贄”に選ばれたんだ。」
「製造の過程で魂を切り離され、人格は消され、肉体はデビルズに利用された。」
声がわずかに震える。
「俺は……そいつと戦い、葬った。つまり――君の兄さんを殺したのは、俺だ。」
しばし沈黙。
倉庫の隙間から流れ込む風が、二人の間を冷たく撫でていく。
「……すまない。ああしなければ、俺がやられていた。分かってる……謝ってどうなるものでもないことは。」
ルクジムの俯いた顔に影が落ちる。
ミラは目を伏せ、唇を噛んだ。
ルクジムの告白を聞き、スーマの画面には一瞬ノイズが走った。
ジョーは黙ったまま、ルクジムの背中を静かに見つめていた。
その表情には、友の苦悩を共有する痛みが浮かんでいた。
数秒の沈黙が過ぎ、ようやく声を絞り出す。
「……もし、あんたの言うことが本当なら。」
彼女は顔を上げ、静かに続けた。
「兄を“救った”のも、あんたなんじゃない?」
ルクジムがはっとして顔を上げる。
「入れ物にされ、魂もないまま、惨劇に利用されるなんて……兄が耐えられるわけない。」
ミラは自分に言い聞かせるように呟いた。
「兄は、いつも笑っていたわ。誰かのために戦う、そんな姿を。だから、もし彼が……怪物にされたのだとしたら、その魂はきっと、死を願ったはず。それを叶えてくれたのなら、それは……救いよ」
ミラは淡く笑みを浮かべた。
その表情は、悲しみを乗り越えようとする強さと、兄の死が意味のないものではなかったことへの静かな納得が同居していた。
「で、これからどうするの?」
彼女は軽く手を振って言う。
「いや、答えなくていいわ。私は任務でアイスランドに向かう。オルド・アークの動きがあれば、そこで調査を続けるつもり。」
その時、スーマの画面が緑に灯った。
「じゃあ、俺たちは釈放ってことでいいな? 火薬、解除してくれよ。」
ミラは三人を見回し、口元に笑みを浮かべた。
「……まさか信じてたの? TNTのこと。」
ジョー、ルクジム、スーマが一斉に顔を見合わせ、沈黙する。
ミラは肩をすくめ、冗談めかして言葉を継いだ。
「インターポールには逮捕権も捜査権もないのよ。国を跨いで真相を調査して、各国の警察に情報を渡すのが役割。」
「武装なんてできるはずないでしょ。……訓練くらいは受けるけどね。」
彼女は荷物をまとめ、立ち上がる。
「また、どこかで会うかもね。」
「そうだな。俺たちも、やるべきことがある。」
ルクジムが低く答え、ジョーが頷く。
スーマは画面をくるくると回転させ、何かを楽しむように緑色を揺らしていた。
外の世界では、夜明けの靄がゆっくりと広がっている。
その穏やかさの中、ルクジムが歯切れ悪く口を開いた。
「……変な話かもしれないけどさ。」
「なんだよ!」
スーマが即座に反応する。
ルクジムは訝しげな顔で続けた。
「古書店の時も思ったんだが……このコンテナ、よくジョーが入ったなって。幻術で小さく見えても、実物はそのままだろ?」
ジョーとスーマが目を合わせる。
「おいおい、今さらかよ!」
スーマの画面がチカチカと光る。
「ジョーの幻術はちょっと改造してあってな。分子間を詰める仕組みだ。だから実際に縮むんだよ。」
「それでも二メートルはあるけどな。」
ルクジムは目をぱちくりさせた。
「俺だけ知らなかったのか……?」
「理屈はともかく、普通に気づくだろ。」
スーマが肩代わりするように言うと、ジョーは笑いをこらえて肩を震わせた。
ミラだけが、ぽかんと口を開けている。
「……分子間を詰めるって、何よそれ。」
スーマは得意げに画面を明滅させる。
「つまり、でっかいジョーが“ちょっとだけ”小さくなれるってことだ。便利だろ?」
ミラは深くため息をついた。
「……ほんと、あんたたち何者なのよ。」
朝の光が倉庫の隙間から差し込み始める。
それぞれの道が、再び動き出していく。
「ロンドン――イングランド東部サフォーク州へ」へ続く。




