ロンドン郊外―廃工場の裏路地
異形の悪魔が現れ、ルクジムは本能のままに戦う。
月は高く、雲ひとつない夜空に銀色の光を注いでいた。
ルクジムは、人気のない道を歩いていた。
理由はない。
ただ、落ち着かない気配を感じていた。
その時、鼻を突く異臭が風に乗って漂ってきた。
血の匂い。だが、それだけではない。
焦げた肉、腐敗した硫黄、そして――何か、言葉にできない“異質なもの”。
彼は足を止め、物陰から様子をうかがった。
そこには、無残に裂かれた人間の遺体。
壁には、黒く焼け焦げた紋章のようなものが刻まれていた。
「……これは、リバースの仕業じゃない……」
その瞬間、背後から空気が歪むような音がした。
振り返ると、そこに“何か”が立っていた。
その存在そのものが、物理法則を捻じ曲げているかのようだった。
人間の形をしている。
だが、違う。
皮膚は灰色にひび割れ、瞳は炎のように揺れている。
口元には、笑みとも歪みともつかない表情。
「……なんだ……こいつ……?」
ルクジムの本能が、警鐘を鳴らしていた。
だが、理性はまだ状況を理解できていない。
その“存在”は、言葉を発した。
だが、声は耳ではなく、頭の中に直接響いてきた。
「混ざり者……なんというタイミングか!そちらから現れるとは…!」
ルクジムは一歩、後ずさった。
体毛が逆立ち、爪が自然に伸びる。
だが、恐怖がそれを制御できない。
「……これは、夢か……? いや、違う……これは……現実だ。」
そして、悪魔が一歩踏み出した瞬間――思考が白く霞んだ。残されたのは、ただ抗うという野生の衝動。
ルクジムは、咆哮とともに跳びかかった。
だが、心の奥底では、彼はまだ知らなかった。
この世界には、自分の理解を超えた“闇”が存在することを。
「月に狂った獣」へ続く




