沈黙の絶望―そして希望
モノクロの波紋が広がる。 それは記憶か、予兆か――心の奥に沈む万華鏡の破片。
霧に包まれた山、囃子の音、そして浮かび上がる文字。
夢の中で揺れる意識が、現実へと引き戻される。
目覚めた先に待っていたのは、静かな洞窟と、仲間の声。
そして、失われたものの重みと、守られたものの意味。
物語は、静かに次の扉へと向かっていく。
モノクロの画像が浮かんでは消え、波紋のように広がる。
記憶の断片なのか、それとも儚いノスタルジーの幻影なのか…。
何もない空間に、静かに波紋が広がる。
ルクジムは夢を見ていた。
それは、現実の重圧から逃れるための心の隠れ家かもしれない。
万華鏡の中、砕け散った破片が一つずつ組みあがる。
深い霧に包まれた山の中、霞がかかり、視野は狭い。
空気には霊的な気配が漂い、水蒸気のように彷徨っている。
岩盤から根を伸ばす木々は神聖な佇まいを見せ、空間全体が異次元のような静けさを持つ。
遠くで鳥の声が囀る。
「ホー、ホケキョ…」
それは聞き覚えのない鳴き声だった。
ルクジムの心に、なぜか懐かしさのような感情が微かに芽生える。
「ここはどこだ……?」
声を出そうとするが、音にならない。
そして耳に届くのは、お囃子のような音。
「チャンカチャンカチャンカ。」
「ピーヒャラ-ピーヒャラ。」
笛の音とともにその空間は東洋のカーニバルを連想させる不思議な気配に包まれる。
そのとき、空間に文字が浮かび上がった。
blade Mountain(剣山)
ルクジムの意識が揺れ動く。
次の瞬間、鏡が割れるように崩れた。
万華鏡の破片が崩れ落ちると、その一枚が闇の中で記憶の映像に変わった
暗闇の中から低い声が響く。
「混ざり者……貴様が本部を騒がせている者か……。」
「我はバレン・アドニスモ伯爵……。」
その声は続く。
「久しいな、セシル。地上の我が下部――魔族人形を倒してきたか……。」
ルクジムは息を呑んだ。
「これは……あの時の、地下屋敷の記憶……?」
彼の胸に重く響く言葉。
「……こいつも、犠牲者だったんだな……。」
暗闇に再び浮かぶ声。
「吸血鬼に“死”という概念は在りません……。」
「八十八日後、蛇の姿で再び地上に現れ、時間をかけて元の姿へと還るでしょう……。」
その言葉は希望とも絶望とも取れる予言だった。
遠くから声が聞こえる。
「ルクジム!」
「ルクジム!」
彼を呼ぶその声が、現実への帰路を指し示している。
エリシアの泉―真実の先
虚ろう意識の中、ルクジムが目を開ける。
どこか遠くから聞こえる声が次第に鮮明になる。
「おい、ルクジム!」
「ルクジム!!」
静寂の中、突然の呼び声が彼を現実へと引き戻した。
「ここは……?」
彼が問いかけるその声には、まだ震える意識が滲む。
「はっ!」
ルクジムが飛び起きる。
「セシルは!?セシルは大丈夫なのか!!」
彼の叫び声が洞窟に響く。
「落ち着け、ルクジム。」
ジョーの優しい声が彼を静かに包む。
「ジョー!」
ルクジムはジョーの表情を見て、一瞬安堵する。
しかし、セシルの姿が見えないことに気づき、再び焦燥に駆られる。
ルクジムの目がジョーを捕らえ、次にスーマの声が聞こえる。
「もう大丈夫みてーだな!」
青い反射が優しく揺れる湿った岩肌。
エリシアの泉の水面は穏やかで、その透明さが静けさを物語っていた。
「ここは?」
ルクジムの問いに、ジョーが静かに答えた。
「エリシアの泉、あの洞窟だ。」
スーマが会話に加わる。
「セシルが転送したのがココだ。ジョーの居る泉にな。」
彼の言葉にわずかな苦笑が滲む。
「オッサン最後までペテンを利かせやがった。」
その言葉には、呆れと尊敬、そして彼を失ったことへの深い悲しみが滲んでいた。
スーマの顔が曇る。
「あの時、カリースの攻撃を受けている最中、わざわざ“出来るだけ遠くへ!”とカリースに聞こえるように言いやがった。」
その意図を理解したスーマの画面が悲しみを映し出す。
「まさか、ここに戻るとはオルド・アークも考えないだろう。」
ルクジムの表情に悲しみが深く刻まれる。
「セシルはどうなった……?」
その問いに、ジョーとスーマは一瞬言葉を詰まらせた。
そしてスーマが静かに言葉を紡ぐ。
「オッサンはもう居ない。体を形成する元素が消滅した……無くなったんだ。」
その言葉は重く、ルクジムの胸に深い傷を残した。
「そんな……セシル……。」
その言葉は喉の奥で詰まり、胸に深い痛みを残した。
ルクジムは、セシルが命を懸けて自分たちを救ってくれたことを理解し、その重みに押し潰されそうになっていた。
沈黙が続いたが、ルクジムは焦りの色を見せる。
「封印は?聖者の刻は?」
スーマがその問いに応える。
「大丈夫だ。奴らに預言者とやらが居たとしても、封印の存在は俺様のQRコードで覆って結界の中にある。まず確認できねぇ。」
その安心の言葉に、ルクジムは静かに息を吐いた。
しばらく黙り込むルクジムに、ジョーが問いかける。
「お前は大丈夫なのか?」
ルクジムはゆっくり頷きながら応える。
「ああ……これくらいの傷、セシルに比べたら……。」
スーマが割り込むように言う。
「ワン公、お前、三日も寝てたんだぞ。」
洞窟の静けさの中、彼らの心にはセシルの犠牲が深く刻まれ続けている。
「オルド・アーク―契約者部隊 パクト ユニット本部」へ続く




