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ロンドン―交わらぬ視線

森の奥、白銀の体毛を持つ青年ルクジムは、夜空を翔けるセシルの姿を見つめていた。

彼は人狼と人間の混血。誇りを持てず、孤独に生きる者。

だがその視線には、確かに“憧れ”と“問い”が宿っていた。

今夜は新月。湿った土の匂い、遠くで聞こえる夜行性の動物の微かな音、

空には星すら霞み、森は吸い込まれるような闇に包まれていた。

風はなく、葉のざわめきもない。


ただ、静寂だけが支配する世界。


その闇の中に、白い体毛が月光の代わりにわずかに光を放っていた。

ルクジムは、木々の影に身を潜めながら、空を見上げていた。


遠く、黒い影が滑るように夜空を横切る。

その姿は人のようでありながら、人ではない。

コートの裾が風に揺れ、胸元には何かが収まっているのが見える。


「……闇の貴族か。」


ルクジムは呟いた。


その声は誰にも届かない。

彼は知っている。あの男が何者なのかを。


吸血鬼。

だが、ただの怪物ではない。

堂々と、紳士的に、現代社会の中で“食料”を得る者。


ルクジムは、自分とは違うと感じていた。

彼は忌み嫌われ、隠れなければならない存在。

だが、セシルは違う。


堂々と、誇り高く、夜を生きている。


「……俺には、……俺には、誇りを持つことなど許されない…」


森の闇が、彼の言葉を飲み込んだ。

だがその瞳は、確かにセシルを追い続けていた。





夜の静寂が、森を包んでいた。

新月の闇は濃く、空には星すら見えない。

だが、セシル・ノクターン卿の瞳は、その闇の奥に潜む気配を確かに捉えていた。


木々の影の中――白銀の体毛が、わずかに光を放っている。

彼はそこにいる。

ルクジム。

人狼と人間の血を引く、孤独な青年。


セシルは、木の枝に腰を下ろし、静かに夜風を感じていた。

彼のコートは風に揺れ、胸元の輸血パックがわずかに温もりを残している。


「……見ているな。だが、近づいてはこない。」


彼は呟いた。


彼は知っていた。ルクジムが自分を見ていることを。

そして、彼がまだ“誰かを信じる”ことに慣れていないことも。


「今はまだ、声をかけるべきではない。彼が、自分の足でこちらへ来るその時まで。」


セシルは立ち上がり、夜空へと舞い上がった。


その姿は、まるで夜の風そのもの。

だが、彼の瞳は、森の奥に潜む孤独な影を、最後まで見つめていた。

ルクジムの白い体毛が、セシルの視線を無意識に捉えているかのように、ほんのわずかに揺らぐ…


夜空を自由に駆ける者と、地を這う者。彼らは、夜という舞台の異なる章に生きていた。



「廃工場の裏路地」へ続く

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