思い出の場所で②
*この小説はフィクションです。
今回は吐血シーンがあります。
司と流が戦い始めて、約三〇分が経とうとしていた。流のことを知っている司にとって戦況が有利になると思われた。
だが、流は予測できない攻撃をする。そのせいか、何度か攻撃を受け、司の体に怪我が多くなる。
一方、流の体にはかすり傷一つない。司の攻撃を受け流しているからだ。
流の能力は流れを作ること。その能力は今亡き流と変わらない。ただ、司と戦っているのは過去から来た流だ。
司が知っている流よりは能力の使い方が少し違う。いつもの流は攻撃が当たらないように自ら躱わすようにしていた。目の前の流は相手の攻撃をそらす戦い方をしている。
厄介な戦い方に司は苦戦していた。
それから、一〇分ほどが経った。不意に司がよろめく。素早い攻撃が襲いかかろうとした瞬間、司は姿を消した。
「何度、姿を消しても無駄だ」
流は冷徹な視線で言い放つ。それでも、司は立ち上がる。体の限界が近づいていようと決して諦めようとしない。流のために倒れるわけにはいかないのだ。
限界が近づいていながらも流をまっすぐに見据える。
「だから、何度いえば、」
流は言葉を続けようとするも言葉がとぎれてしまう。流の目には司の姿がぼやけていた。目を擦り、再確認する。確かにうっすらとしか見えない。
先程までは透明化でもはっきりと見えていた。だから、攻撃ができていた。
「どういうことだ。何をした?」
動揺を隠しきれず、困惑している。流の反応に司が口元を緩める。得意げな表情をしている。司の様子を見ていた流は焦りだした。
次の瞬間、頭を押さえた。流の頭の中に記憶が流れる。
呻めき声をあげながら、しゃがみ込んでしまった。
司は苦しむ流をじっと見ながら、そっと様子をうかがっている。
突然、流が息を荒らげた。苦しそうに咳き込むと、血を吐き出した。咄嗟に手で口を覆う。
また何かを吐き出そうしている。
「だ、大丈夫か?」
司は心配そうに声をかける。返答はない。流は変わらずに苦しげな様子を見せている。
何かに耐えている表情をしていたが、吐血してしまった。それも多量だ。
「流!」
司の大きな声が響き渡った。流は膝から崩れ落ちてしまった。
咄嗟に顔を上げると、司のほうを向く。
先程までと状況が急変。鋭い目つきから弱々しい顔になっていたのだ。
「司、」
司の名が流の口から発せられる。司はふと我に返り、流を見やった。
流と司の視線が合うと、司は驚きを見せる。流の目から黄緑色の光が灯っていた。
黄緑色。それは信頼の感情を表す色だ。
流は司を信頼しているのだ。嘗て二人は相棒といえるほどの信頼関係があった。誰からも見て、仲が良いほどまでに。
司の目から涙があふれる。司は流に何かを感じ取った。
「流、思い出したのか?」
問いかけてみるも流は苦しそうにして答えない。司はじっと見守るように言葉を待った。
「司、俺を、殺し、てくれ」
その言葉に司は悔しそうに唇を噛みしめる。
司は覚悟は決めていたはずだった。本人から直接その言葉が出るとは思っていなかったのだ。
依然として、流は苦しそうだ。
「司、お願、いだ。これが、本当に、最期の、願いだ」
司はすぐに言葉の意味がわかった。阻止する者にいた頃の記憶を呼び起こしたのだと思ったのだ。
「あの流、なのか?」
再び問いかける。流は苦笑いした。
「ここは、俺たちが、初めて、会った、場所、だろ? 覚えて、いる。意識が、乗っ取ら、れる、前に、俺を、殺し、てくれ」
流は途切れ途切れに言葉を発した後、咳き込んだ。血の混ざった咳が出ている。
「流、悪い。今まで、ありがとう」
司は流に止めを刺した。流は一言も発せず、その場に倒れてしまった。そのまま息を引き取った。
不意に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
咄嗟に振り向く司だが、目が涙で霞んでいる。
「司ちゃん!」
近づいてきたのは美鶴だった。美鶴は駆けつけると、状況を確認する。
司が珍しく涙を流しながら、うずくまっている。司の付近に誰かが倒れているのを見つけた。
その誰かが分かると、驚いたように眺める。
「流、ちゃん? どういうこと?」
以前、美鶴は司から耳にしていた。司が隼人と一緒に二丈財閥の秘密が隠された場所に行ったとき、亡くなったはずの流と遭遇したと。
現在の流はすでに亡くなっている。遺体は隠れ住処の安置室にある。
流と遭遇した話を最初は信じられなかったが、透明化になりつつある流の遺体から司が嘘をついていると思えなくなった。
現在。流の姿が美鶴の目に映っている。
突然の出来事だが、考えている時間はない。急いで二人の状態を確認した。
司は怪我をしているが、意識はある。一方、流は倒れて意識はない。心肺機能が停止している。加えて、流の周りにはあちこちに血がにじんでいる。
美鶴が流の体にそっと触れようとしたとき、司が止めた。
「そのままにしておいてくれ。俺が、殺し、たんだ。それが、流の頼み、だった」
途切れ途切れに言葉にする司の背中を摩る美鶴は流の体に触れるのを止めた。代わりに黙って司の治療を施す。
治療を終えると、隠れ住処に戻ることにした。
「勇輝は?」
司は問いかけるが、美鶴は大丈夫と口にするだけ。それ以上、二人はほとんど会話をせず、みんなが待つ場所へと向かったのだった。
来週の4月30日(木)の更新はお休みしますm(._.)m
次話更新は5月7日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




