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第71話:雷神公なら

【オンブラ視点】


『これは大変なことになりました。

この魔物の数は尋常ではありません』

『これは大会の中止も視野に入れるレベルですが、それを決めるのは運営と、何より選手達です。

彼等がレースを諦めない限り、レースは続行となります』


スクリーンの先では空を埋め尽くす程の魔獣の群れに、それでもチームを組んで突破を図ろうとしてる様子が窺える。

そしていざ突撃!となったんだけど。


「リーンさんだけハブられてる」

「うーん、あれは苛めとか嫌がらせではなく、妥当な判断ね」


いつの間にか隣で一緒に観戦しているぺスタさんが僕の呟きに答えた。


「熟練のパーティーならともかく、鳥族と人族では足並みを揃えるのが難しいでしょう?」

「あ、言われてみれば」


スタートの時もそうだったけどリーンさんと他の人では動き方が違いすぎて連携が取れないのか。

でもそうなるとリーンさんは1人であの魔獣の群れを突破しないと行けないの?

僕の心配を余所にぺスタさんは落ち着いた様子でスクリーンを見ていた。


「彼女ならあれくらいの魔獣にやられる心配はないわ。

それにどうやらサポートに回ったみたいだし」


確かにリーンさんは地上付近を飛びながら魔獣の猛攻に負けて撃墜された人を地上に落ちる前にキャッチして駆けつけた救護班の人に預けるのを繰り返してる。

リーンさんらしいというか、傷付いた人を見ると放っておけないんだよね。

でもそんなことをしてる間にもトップ集団は折り返しのチェックポイントに到着していた。

向こうは後は帰ってくるだけだし、いくらリーンさんでもここから巻き返すのは無理かな。

と思ってたら何故か地上を走り始めた。

え、これ飛行レースですよね?いいの?


『他の選手の救援を続けたリーン選手に会場から大きな拍手が巻きおこっております。

ですがその為に先頭から離されて過ぎたか?

おおっとリーン選手、コースに戻らず地上を走り始めた!

これはどうなんでしょう』

『はい。まず1つ訂正させて頂くとあれは違反ではありません』

『と言いますと?』

『本大会のルールにある高度制限ですが、上に対しての制限はありますが地上や、酷く言えば地下を移動しては行けないとは定められていません』

『なるほど。あれも立派にコース内だということですね。

間違った発言をしてしまい、大変失礼致しました』


先程のコース外に出ているという発言をすぐさま撤回する実況。この辺りはしっかりしてるんだね。

そして更に解説は続く。


『まあ通常であれば起伏の激しい地上を走るのはデメリットでしか無いんですよ。

ですが今回に限っては違います』

『確かに。移動速度を計測したところ先程他の選手が飛行してた時よりも断然速く進んでますね。

いったい何故なんでしょうか』

『既にお気付きの方も居るとは思いますが、魔獣との接触がほぼゼロだからです。

どうやら今居る魔獣は空中を飛ぶことに強いアイデンティティを持っているようですね。

だから地上には目もくれないのです』

『なるほど、それで救援班の人達も安全に活動出来ているんですね』


アイデンティティか。

確かに魔物にもそういった独自のルールを定めているモノが居る。

彼らはそのルールから外れることを酷く嫌い、そのルールを守る限り特殊な能力を手に入れる事が出来る。

今回はさしずめ『軍団』と言った所だろうか。

それでもこの数は異常だけど。

そうしてリーンさんがチェックポイントに到着して間もなく、新たな異変が起きた。


『あ、なんでしょうか。魔獣たちが今、一斉に動きを止めたように見えましたが』

『3番スクリーンを見てください。

ひときわ巨大な魔獣が来ます。

まさかボスが誕生していたんですね。

これは危険です。スクリーン越しに見てもあのボス魔獣の危険度はCはあると思います。

ほとんど丸腰の選手たちでは勝つのは厳しいでしょう』

『急ぎ監視員たちが向かってますが間に合うかどうか。

ああっ!リーン選手が果敢にボスの前に躍り出た!』

『なるほど。彼女なら武装はしっかりしています。

彼女には大きな欠陥が……』


その言葉を言い切る前にリーンさんを風の刃が襲い掛かる。

咄嗟に、しかしかなり大振りに避けたのはリーンさんにはあの攻撃が見えてないからだ。

そこへ鳥族の、パンターナ選手だったかな?がやってきた。

よし、彼女ならあの攻撃も見えるはず。

と思ったのにリーンさんと何か話をした後に地上へと降りて行ってしまった。

残されたリーンさんにボスの攻撃が集中する。

どんどん傷を増やし身体を血に染めていくリーンさん。


「くそっ」


僕がどんなに頑張っても今からリーンさんの所に行っても間に合わないだろう。

こんな時、雷よりも速いと謂われる雷神公なら助けに行けたのだろうか。

もしくは僕の中に眠る力を全力で解放すればあるいは。


『おっとなんでしょう』


ん?今一瞬スクリーンにパンターナ選手がアップで映りこんだ。と思ったすぐ後に映像が途切れる。


『これはどうしたことでしょう。映像が途切れてしまいました。

あっ、続いてもう1つも』

『これでは現場の様子が分かりません。

リーン選手たちは無事なのでしょうか』


ピリッ

「いつっ」


肌がチリチリする。

そう感じた次の瞬間、リーンさんの居る方角から晴れてるのに雷鳴が轟いた。

続いて微かな振動。いや微かとはいえこの距離で振動が届くってどれだけ激しい雷が落ちたんだろう。

隣に居るぺスタさんがなぜかうっすら笑ってるのも気になるし。


『たったいま現場から連絡が入りました。

ボス魔物の討伐が完了。レースは続行可能。

とのことです。良かったですね』

『本当に。先程聞こえた雷鳴、あれが救護班の誰かが放った魔法だったのでしょう』

『さぁ、そうこうしている間に先頭集団は暴力風エリアをもう間もなく抜けようとしております』

『やはり魔獣の襲撃のせいでだいぶダメージを受けて居るようですね。

行きの時の半分くらいしか速度が出ていません』

『後方からはパンターナ選手が怒涛の追い上げを見せています。

ここに来てまだ余力を残しているのは流石としか言えません』


スクリーンにはボロボロになりながらも懸命に飛んで帰ってこようとしている選手たちが映っている。

でもリーンさんの姿はどこにも……って、あれは!!



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