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014 早足の経営者

 私とじぃやはとある牧場にやってきた。


 大きな看板には、特徴的な雷のロゴと共にこう書かれている。


 ――フレッドファーム、と。


「待たせたな、ミレイユ、おっさん」


「おっさんじゃなくてじぃやです!」


 私が指摘すると、フレッドさんは「わりぃな」と素直に謝った。


「フレッド君に慣れてきましたな」と、じぃやが耳打ちしてくる。


 私は「まぁね」と笑みを浮かべた。


「今日はどんな用件だ? 出来るだけ手短に頼む」


 フレッドさんが腕時計を見ながら言う。最初の頃に比べると口調が穏やかだ。


「昨日の今日で恐縮なのですが、実は私達、酪農家になろうかと思うのです」


「いいんじゃないか。昨日の牛乳を商業ベースに乗せることができれば、俺に次ぐ酪農家になるのだって夢じゃない」


 フレッドさんの目は笑っていない。相変わらず本気で言っている。


 なので私も、「ありがとうございます」と真顔で頭をペコリ。


「それで、フレッドさんに酪農家についてのイロハを教えてもらえればと思って来ました。私達は牧場経営のことを何も知らないので……。もしよろしければ、ご指導いただけないでしょうか?」


「かまわんよ。だが、説明するには時間がかかる。別の仕事もあるから、他の作業をしながら話すとしよう」


 フレッドさんは近くにいた作業員のおじさんを「おい」と呼んだ。その一言でおじさんは近づいてきた。全力疾走の駆け足で。そういう風に教育されているのだろう。


「この二人の乗り物を館の入口に繋いでおいてくれ」


 乗り物とはウシコちゃんとバリチェロのことだ。大事な家族をそのように呼ばれてむっとしたけれど、何も言わずに黙っておいた。あえて愛着を持たないようにしていると分かっているから。


 おじさんは「かしこまりました!」と元気よく答え、じぃやからバリチェロの手綱を受け取った。そして、同じようにウシコちゃんの手綱を握ろうと私に目を向けて、「あれっ」と首をかしげる。


「お牛さんの手綱はどちらへ……」


「ありません」


「「えっ」」


 おじさんだけでなく、フレッドさんも驚いた。


「この子には手綱などの牛具が不要なんです――ウシコちゃん、バリチェロと一緒に大人しくしていてね」


「モォー♪」


 私はおじさんに向かって「これで大丈夫です」と微笑んだ。


「どうすれば……」


 おじさんはフレッドさんに指示を仰ぐ。


「飼い主のミレイユが大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。それに、何かあっても責任はミレイユにある。お前は気にしなくていい」


「分かりました」


 おじさんはバリチェロを連れて、フレッドさんの住居である館へ向かっていく。ウシコちゃんは後ろから続いた。


「おそろしく調教された牛だな。ベビーの頃から育てているのか?」


「いえ、数日前からの付き合いです!」


「えっ」


 またしても驚くフレッドさん。


「道ばたでぐったりしていたので助けたんです! それがきっかけで家族になりました!」


「えぇぇ……」


 フレッドさんが狼狽している。


 じぃやは愉快げに「ふぉっふぉっふぉ」と笑った。


「それでは説明をお願いします! フレッドさん!」


「あ、ああ、分かった。歩きながら話すからついてこい」


 フレッドさんはこちらに背を向けて歩き始めた。小走りと言っても過言ではない速度の早足で、私とじぃやはヒィヒィ言いながら同行した。

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